努力に勝るαなし

安心出来ない巣ー英樹

智則が英樹の巣にいる。奪われる心配がない。
それだけで、気力が充実しているのが分かる。
自分は今、無敵なのではないだろうか。

『家を反映させたくば結婚は恋愛で』
九条家初代当主の格言を身をもってしる。

智則も英樹を求めてくれれば、さらなる高みに自分はいける。


けれど、智則は……
相変わらず、ナイフで己の腹を裂こうとする
英樹を警戒して、充分な睡眠をとらずにふらついている。
体重も減ってきた。
免疫力も下がってしまう。

…………
『鍵をつけられてはいかがでしょうか』
達也が言う
考えなかった訳じゃない。
けれど、
巣に、英樹と智則の巣なのに英樹が入れない。
そんなの許せる訳がない。
鍵なんて、智則の拒絶の証だ。
でも、………智則は限界だ。
智則にも自覚はあるようだけど、眠ろうとしない。
睡眠不足で食欲もない。

『巣で衰弱死させますか』
そんなこと、望んでいない。

鍵を付けた。
ドライバーを回す手が悲しみで震えた。
けれど、人に任せる事はもっと出来ない。

「夜の間は閉めて良いよ。昼間は開けておいて。開いて無ければ………壁ごと壊す」

英樹の覚悟が伝わったのか、智則は頷いた。ベッドで眠るようになった。

少しだけだけど体力も回復してきた


リモートでなら講義に参加していいと伝えた
智紀は勉強が好きだ
講義が終わった後に英樹と軽いディスカッションをする
秀樹の考え方を聞き、頷いたりと表情が少し動くようになってきた。
時折、すごいなお前、と、尊敬の目で見つめてくることもある
少しずつ少しずつだが以前の智則と英樹の関係に戻りつつある。
時折笑いあって、でも、リストバンドが目に入ってまた無言になる。
鍵も夜はかけたままだ。

それでも智則が穏やかに巣で過ごしている、そう思うだけで活力が満たされる。

このまま穏やかに過ぎていけばいいのに、そう本気で思うのに欲は尽きない

巣に愛しいものがいて、何もせずにいられる α などいない
分かってる、今手を出したらダメなことぐらいわかっている。
向けてくれている柔らかい笑顔もなくなってしまう
そう思うのに英樹の本能は智則を求める

智則の唇に反応する
智則のうなじに歯がうずく
智則の細腰に下半身が反応する

いっそ奪ってしまえ。ひできの楔を打ち込んで貼り付けにしてしまえばいい。ひでき以外のことに感情が揺れるというのであれば英樹の欲望の刃で心までズタズタに引き下げばいい
英樹を見なくなるけれど英樹以外も見ないでくれる
巣に鍵をかけられることもなく誰かに奪われる心配もない

冷たいシャワーを浴びて妄想を消す
壊れた智則が見たいわけじゃない。綺麗なまっすぐに立つ智則が好きなのだ。壊れた智則も愛する自信はあるけれど、
美しい立ち姿の智則がもっと好きなのだ。