努力に勝るαなし

智則が巣に戻ってきたー英樹

智則に一定のショックを与えてしまったことは納得した。腹を裂こうとする位のショックだということも。

けれど、迎えに行く。英樹の番を何時までも深澤家などに預けてはおけない。

バス企画のスターターキットに電磁石バンドが入っていたな。拘束用具でなんの為にと思っていたが意外に使えそうだ。

寝室の他、智則が使用する所に刃物類が無い事を確認する。

深澤家の警備と智則のマンションの警備を再確認する。
深澤猛は香苗のいる巣を襲撃されるくらいならば、智則を見捨てる可能性が高い。香苗に知れる前に追い出せるかどうか次第だろう。
マンションの方も意外とセキュリティは高い。深澤優が勧めただけのことはある。こちらも襲撃という形になるか？それなりのΩが住むマンションだ。各家柄はそれ程ではないが、集まるとめんどくさい。
智則が出てくるように仕向けたい所だ

………深澤一馬
智則のα不信の元凶
あれを使うか。

『智則と揉めてしまって、会ってくれないんです。智則を下さい』

そう、伝えただけ。



カフェに呼び出されて、智則と一馬のやり取りをスピーカーごしに聞かされる
『九条が飽きたら、由希にでも……』
やはり、一馬は今後不要だ。
『うぜぇ』
智則の声に笑いが溢れる。やはり智則は智則だ。強い。自信がある。
『あ…』
急に智則の声から張りが失われた。
不安にかられてカフェの中に飛び込む

ぼんやりとした智則が腹をナイフで指していた。

前回もみた
けれど、あのときとは違う。意図が分かっているからこそ、目を背けたくなった。
智則が英樹を排出するために自分を指しているのだから。
心臓が悲鳴をあげる。


智則を抱き上げて、マンションに連れて帰った。
ソファーに座らせた。
リストバンドとアンクルモニターをつける。

智則が目をさました。一馬に怒っている。英樹へと売られて悲しんでいる。

「安心して、智則。君を傷つけた一馬さんを許しはしない」

智則が複雑そうな顔をした。
あんなのでも、血縁だから？

「で？俺にどうしろと？意識あるまま抱かれろ、だっけ？」

「………」
抱きたいよ。
でも、カフェの時みたいな顔をさせたいわけじゃない。
笑顔にしたい。
深澤優のようにβに譲るつもりはない。

英樹の元で幸せにする。
それが無理なら、奪いつくす。
智則が壊れる？
他のヤツのモノになる位ならば壊す。壊して人形にして死んでも側におく。

でも、ホントはくるくる変わる君の表情が好きだ。
芯のある、けれど柔らかい声が好きだ。
目標を決めて、がむしゃらに努力するその姿勢が好きだ。

壊したいわけじゃない。
君が僕に応えてくれれば、いいのに。
でも、αは君の中で哺乳類ですらないのから応えようもないね。
だから、
君が僕の隣にさえいてくれれば、いい。
奪われなければ、いい。
特別さえ作らずに隣にいてくれればいいよ。

「ここにいて、ここにいてくれたら、それだけでいい」