努力に勝るαなし

認認家族

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一族郎党ーー智則

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病院に着いた。
猛もほぼ同時病院に着いたようだ。智則の惨状に言葉を失っていた。直ぐに智則のリストバンドを外した。
「すまない、智則。大丈夫だ、智則」
そう繰り返しながら、ふわりと智則を抱きしめた。
「うわ~」
大声をあげて泣いた。何の涙かなんてわからない。抱きついて泣き続けそのままブラックアウトした。

目をあけると、「処置室」と書かれた部屋の前のソファーで猛に寄りかかっていた。
自分の手を見ると猛のスーツの裾を掴んでいた。しわしわになっている。手を離さなければと思うのに、手を離すことが出来なかった。

はるかがいた
それまでの自分の醜態に恥ずかしくなったが、やはり猛から離れられなかった。
あんな大泣き、幼稚園児か

被害届を出すかを聞かれたが、断った。診察を勧められたが、それも断った。
猛がいるから断ったのかと邪推されたが違うと言いきった。
優のやった事は許せない、けれど、大事な幼馴染なのだ。尊敬し、一時は彼を目指した。そして……智則もまた、優を傷つけ続けたのだ。優は体を傷つけたが、智則は優の心を傷つけた。優が罰せられるのであれば、智則も罰せられなくてはならない

はるかは納得はしていないようだったがとりあえず去っていった。

「智則、すまない」

猛に再度、頭を下げられた。

「………」

猛は、優が暴走するかもしれないと考えていたはずだ。
そうでなければ、AEDなのど、一個人宅においていかない。
『智則、俺の一番は番なんだ。次が優と勝。次が智則だ。すまない』
AEDを置いってた日に言っていた言葉が蘇る。
あの時はなんの事を言っているのか分からなかった。

「……叔父さんは、俺が九条にマーキングされているの、知っていた…優が暴走するのも予測していた、んだね」

「ああ、あの九条のパーティで会った時、ショックだったよ。優がお前を諦めたのは、お前がβと纏まった方が幸せになると思っていたからなのに、なんでよりによって九条家、しかも最高位αなんてタチの悪いヤツにマーキングされてんだって」

マーキングの件で猛を恨むのはお門違いだ。
再会したあの日、猛は九条からかばってくれた。
『これはまだ幼い。何卒ご容赦を』
『智則、俺の口癖を、思い出せ。αは…』
そうだ。
九条家より格下の深澤家として、ギリギリのラインで智則に警告をくれていた。
汲み取れなかったのは智則の能力不足だ。

「優のことは………普通に考えれば、九条にマーキングされてるお前に手を出したりせず、諦めるだろうが、優は俺よりも高位αだから、その執着がどれ程のものかは想像がつかなかった。だから……念のために用意したんだよ。使う事態にはなって欲しくなかったが」

『最高位αの執着を舐めるな』

「……高位になればなるほど執着は強くなるの?」

「そうだな。だから九条英樹がお前を諦めることはないだろう」


『でも、智則。覚えておいて。僕は大切なものを奪われるのは我慢ならない。俺のモノを奪うヤツに未来はない。最高位αの執着を舐めるな。軽んじた者には報いを受けてもらう。奪うものを許さない。当人だけではなく一族郎党許さない』

「……九条は奪われるのは許さないと言ったけど俺は別に九条のものじゃない」

「目をつけた時点で、九条英樹の中では自分のモノになってる」

なんだよそれ、ジャイアンよりヒドいじゃないか。

「…、今回のは奪ったことになるの。」

「……なる、な…」

「そう……」

『一族郎党許さない』

ブルリと震えた。奄美の番よりも高位のα、優は、猛は無事でいられるのか。

「安心しろ、ウチは九条に到底敵わんが、ウチに恩義がある高位αは多い。束になれば、九条といえどめんどい。その辺は考慮するだろ」

『綾小路は番を奪った一族郎党を…』

体がカタカタと震える。
智則にとって、猛達は大事な家族だ。心情的には、実の両親より大切な人達だ。
九条は警告していた。智則にも、大切な者を守りたいなら奪われるな、と。だったら、あんな回りくどい警告なんかじゃなくて、直球でいいやがれ。と思いはするももの、失う恐怖に震えはとまらない。

「智則、大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ……深呼吸して」
軽く抱きしめられる。
「吸って吐いて吸って吐いて……」
猛は昔からそうだ。厳しいのに優しい。

「大丈夫か?」

「うん。叔父さんにはいつも助けてもらえてる」
苦虫を噛み潰した様な顔をされた。九条の事について、具体的な注意喚起をできなかった事、優が智則にしたこと、それらの件だろう。


「智則、落ちついたのなら、聞いてほしい。すぐそこのホテルをとった。香苗が待っている。今すぐ、体を洗ってきてくれないか。」

「吐いたから臭いよね、ゴメン。でも、叔父さんから離れるのは、まだ怖い」

ため息をつかれた。

「お前は、トコトンβだな」

頭をぐじゃぐじゃとされた。

「香苗をここに呼ぶよ。それなら、大丈夫だろう?暫くもしたら、九条英樹がここを突き止めるだろう。俺は優を守りたい。」

そうか、だから、気を失った智則をここであやしていたのか。

「今のお前を見られるのは不味い。お前からは優の匂いがする。そんなお前を見られたら、皆無事ではいられない。番が他の者にマーキングされて堪えられる者はいない」

マーキング……いや、考えるな。そんな時間はない。怯えるな。頭を振った

「それで、気付かれない?」

「一月位、九条から離れられればな。だが、九条はお前を逃さないし、優のカルテを見れば一目瞭然だ。お前に触れた所は爛れているはずだからな。無理だ。だが、今のお前だけは不味い。お前も含め、無傷ではいられない」

『綾小路は番を奪った一族郎党を…』
震えが止まらない。


コツン、と音がして、
顔をあげると
「そうだよ、智則。だから、警告したじゃないか」
無表情の九条が立っていた





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