努力に勝るαなし

美しいΩー智則

高校に入り、部活動を見て回った。どこに入部しようか

たまたま弓道場を見たら、とても美しい人がいた
ぴんと伸びた背筋に、張り詰めた空気。
智則に気がついてその美しい男は言った
「入部希望者？」
「はい」
何も考えずただ頷いてしまった

その先輩は奄美と言った。
Ωだった

高校になって学んだことがある。
βにも嗜虐性があるということだ。小学校中学校とバース比率のゆがんだあの世界では、少数派でポテンシャルも低いβは搾取される側だった。だが公立高校という世間一般の人口比率の社会に入ると、そこではβは多数派で、Ωは搾取される側でαは尊敬の念を集める立場であった。

奄美先輩は一般家庭出のΩだった。俗に言う先祖返りというやつだ。後ろ盾のないΩというものはβやタチの悪いαに狙われる。ヒート誘発剤を打たれてレイプされてしまうことがあるのだ。
それでも、奄美は真っ直ぐに立っていた。
その立ち姿に惹かれた

智則はそんな奄美の側を離れず、ボディーガードに徹した。

奄美は卒業と同時にある家の後妻に入ることが決定している。
βの一般家庭のΩはそうなることも多い。もっともらしい事を言いながら、親が売るのだ。
後ろ盾が無いどころか、品位の悪い家に嫁ぐことが決まっているΩに対する周囲の扱いは過激だ。
智則は嗜虐心というものが、全バースに存在することを実感させられた。あれ程恐れていたαの嗜虐性も怖くなくなった。エイリアン特有のものではなかったのだから。

奄美はいつも弓道場に来ていた
嫁入りが決まっている以上、奄美が弓道場に来たところで何にもならない
1年後には弓を持つことすらできなくなるのだ
それでも奄美は通ってピンと伸びた背筋のまま的を射る
『人生に無駄なものなど無いのだ』
山下教授の言葉が巡る
そうだ、奄美が弓道を続けていた結果、智則は弓道部に入った。弓道部に入るにあたり防具などいろいろを購入した。どこかのお金になり誰かの給料になっている。そして智則は一学年ながらインターハイに出場した。奄美は智則にそんな経験をくれたのだ。

そして奄美は智則の応援に来た日に、運命に出会った。
智則の対戦相手で、お互いを健闘し合っている時に、奄美が智則の元にきたのだ。
奄美を見た瞬間のαは凄かった。運命の絆こは、こういうものなのだと、αの相手はΩで、Ωの相手はαなのだと、智則にしらしめた。

色々なゴタゴタはあったものの、奄美は運命と結ばれ、後妻の件はなくなった。番が上位αということもあり、巨大な後ろ盾を得た奄美に下卑た事を仕掛ける馬鹿はいなくなった。見せしめも聞いたのだろう。奄美の番は、彼に非道を働いたものを調べ上げ処分した。
文字通りの処分だ。

奄美を溺愛し、とてつもない優しさを見せる番は、ありえないほど冷酷無比に彼らを処分し、そして、奄美はそれを喜んだ。凛とした奄美、慈愛に満ちた奄美なのに、番が自分の為に行なった事は、別と、素直に喜ぶ奄美に、無理だと感じた

智則には、αの恋愛もΩの恋愛も理解はできない、と実感した。体だけでなく、心もβとは別の生物なのだと。