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脳筋ー智則
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雅紀が嗤った。
「やっとお許しが。優ばっかり寝技決めてて、ずるいって思ってたんですよね。二言は無しですよ」
雅紀が、合図も無しに飛びかかってきた。一馬にホネを折られた時の事がフラッシュバックした。体が凍りついた
けれど、実際に床に延びているのは、雅紀で。
智則は混乱した。
「雅紀、ここは道場だ。礼も取らずに挑む恥知らずはいらん。出ていけ。優、お前も威圧を抑え込むことをそろそろ覚えろ。智則はついてこい」
猛と休憩スペースに向かった。
「智則、お前がどう思おうと、大抵のαはお前より弱い。恐怖で体が強張っていても、とっさに反撃出来る位にお前は強くなっている。体が覚えているんだ。それだけお前は努力して、その結果が雅紀だ。雅紀も多少なりとも心得がある。それを下したんだ。何度も言っている、犬程度を怖がるな」
「犬じゃないっエイリアンだ!」
叫んで、しまったと思った。猛だってαなのだ。
「す、すみません」
「気にするな」
猛は智則の頭に手を伸ばし、髪の毛をくしゃくしゃっとかき混ぜた
「俺の手は大丈夫なのにな」
「先生の手は変形しないから。……現実では兄さんに対して平気なのに、夢の中では兄さんの手が怖いんです。変形するんですよ、あの人の手。食虫植物のようにぶわっと広がって、首をしめてくるんです。骨を折られたあの時の痛みと首を絞められたあの苦しさを思い出して夜中に飛び起きます。夢の中で必死になって兄さんの手を、実際には自分のかきむしるから、この時期でも俺はハイネックしか着れない。吉川線っていうんだって。名前までついてるなんて笑える」
「……ホントにアイツラは……」
「夢に優も出てくるんです。俺は優の陰に隠れて。夢の中の俺は全く成長していない。でも現実のおれは、優が怖い。優を怖がる自分が嫌だ」
猛が、智則のセリフを区切って智則の後ろに声をかけた
「どうした」
智則が振り返るとそこには雅紀がいた
「先生、智則、申し訳ありませんでした。卑怯なのは分かってました。でも、ズルをしてでも勝ちたかったんです」
深々と頭を下げた
不思議だ。さっきまで怖かったのに今は雅紀が全く怖くない
「智則?」
「あ、いえ。俺は全く気にしていません」
「そこはちょっとは気にして欲しいけどな……。どうして俺がそこまでして勝ちたかったかとかさ」
雅紀が呟いた
「なんで勝ちたかったの」
「内緒」
……よくわからない人だな。聞いてほしいみたいだから聞いたのに、そしたら内緒って返すって一体……
「雅紀、憑き物が落ちたようだな。智則も気にしてないようだし、今回の件はなかったことにしてやる」
「ありがとうございます。ついでにもう一つお願いがあるんです。可能であれば、優と勝負をしたい。俺は由希の二の舞は嫌だ
」
「え?由希にぃがどうかしたの?」
「どうもしないよ。ただ、俺は区切りをつけたいんです」
雅紀は猛の目を見て言った。それだけで意味が通じたようだ。猛は頷いた。
「5本勝負、先に3本取ったほうの勝ち」
「智則、握手してもいい?力がもらえる気がする」
智則はためらいつつも手を伸ばした。握手をしてみたが、雅紀のことが全く怖くなかった。なんでだろう。雅紀を負かせたからか、雅紀に脅かされることはないと分かったからだろうか。優を負かせられれば怖くなくなる?
「脳筋だな」
考えが表情に出てたようで猛に笑われた
雅紀は優に完敗した。それでも当人は晴れやかだった。
雅紀が羨ましかった。優はあんな風に全力で智則には向かってこない。全力で向かって全力で叩き返されて、負けるのがわかっていても向かっていて、そして、憂いもなくなる。
結局、雅紀は道場をやめた。最低限の護身術は身につけたから。ボディーガードにもいるし、勉強に精を出すと言って去っていった。
雅紀にありがとうと伝えた。悩みの解決の道筋を作ってくれたように思えたから
「やっとお許しが。優ばっかり寝技決めてて、ずるいって思ってたんですよね。二言は無しですよ」
雅紀が、合図も無しに飛びかかってきた。一馬にホネを折られた時の事がフラッシュバックした。体が凍りついた
けれど、実際に床に延びているのは、雅紀で。
智則は混乱した。
「雅紀、ここは道場だ。礼も取らずに挑む恥知らずはいらん。出ていけ。優、お前も威圧を抑え込むことをそろそろ覚えろ。智則はついてこい」
猛と休憩スペースに向かった。
「智則、お前がどう思おうと、大抵のαはお前より弱い。恐怖で体が強張っていても、とっさに反撃出来る位にお前は強くなっている。体が覚えているんだ。それだけお前は努力して、その結果が雅紀だ。雅紀も多少なりとも心得がある。それを下したんだ。何度も言っている、犬程度を怖がるな」
「犬じゃないっエイリアンだ!」
叫んで、しまったと思った。猛だってαなのだ。
「す、すみません」
「気にするな」
猛は智則の頭に手を伸ばし、髪の毛をくしゃくしゃっとかき混ぜた
「俺の手は大丈夫なのにな」
「先生の手は変形しないから。……現実では兄さんに対して平気なのに、夢の中では兄さんの手が怖いんです。変形するんですよ、あの人の手。食虫植物のようにぶわっと広がって、首をしめてくるんです。骨を折られたあの時の痛みと首を絞められたあの苦しさを思い出して夜中に飛び起きます。夢の中で必死になって兄さんの手を、実際には自分のかきむしるから、この時期でも俺はハイネックしか着れない。吉川線っていうんだって。名前までついてるなんて笑える」
「……ホントにアイツラは……」
「夢に優も出てくるんです。俺は優の陰に隠れて。夢の中の俺は全く成長していない。でも現実のおれは、優が怖い。優を怖がる自分が嫌だ」
猛が、智則のセリフを区切って智則の後ろに声をかけた
「どうした」
智則が振り返るとそこには雅紀がいた
「先生、智則、申し訳ありませんでした。卑怯なのは分かってました。でも、ズルをしてでも勝ちたかったんです」
深々と頭を下げた
不思議だ。さっきまで怖かったのに今は雅紀が全く怖くない
「智則?」
「あ、いえ。俺は全く気にしていません」
「そこはちょっとは気にして欲しいけどな……。どうして俺がそこまでして勝ちたかったかとかさ」
雅紀が呟いた
「なんで勝ちたかったの」
「内緒」
……よくわからない人だな。聞いてほしいみたいだから聞いたのに、そしたら内緒って返すって一体……
「雅紀、憑き物が落ちたようだな。智則も気にしてないようだし、今回の件はなかったことにしてやる」
「ありがとうございます。ついでにもう一つお願いがあるんです。可能であれば、優と勝負をしたい。俺は由希の二の舞は嫌だ
」
「え?由希にぃがどうかしたの?」
「どうもしないよ。ただ、俺は区切りをつけたいんです」
雅紀は猛の目を見て言った。それだけで意味が通じたようだ。猛は頷いた。
「5本勝負、先に3本取ったほうの勝ち」
「智則、握手してもいい?力がもらえる気がする」
智則はためらいつつも手を伸ばした。握手をしてみたが、雅紀のことが全く怖くなかった。なんでだろう。雅紀を負かせたからか、雅紀に脅かされることはないと分かったからだろうか。優を負かせられれば怖くなくなる?
「脳筋だな」
考えが表情に出てたようで猛に笑われた
雅紀は優に完敗した。それでも当人は晴れやかだった。
雅紀が羨ましかった。優はあんな風に全力で智則には向かってこない。全力で向かって全力で叩き返されて、負けるのがわかっていても向かっていて、そして、憂いもなくなる。
結局、雅紀は道場をやめた。最低限の護身術は身につけたから。ボディーガードにもいるし、勉強に精を出すと言って去っていった。
雅紀にありがとうと伝えた。悩みの解決の道筋を作ってくれたように思えたから
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