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兄ー智則
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久々に兄に呼び出された。
正直、兄は苦手だ。
ことあるごとに、バースマウントをとってくるのだ
『そんだけ努力しても、その程度の成績だなんて。流石β。よくもまぁそんな無駄な事できるよな。合理性が無いのもβの特性か』
これで智則より優秀な成績であるならまだマトモだろうに、智則より劣る。
『俺はやればできるが面倒なんでやらないだけ。βの弟でさえこの成績なのだから、本気になりさえすれば、トップだって取れる自頭がある』
だったら、やれよ。
僕、やれば出来る子なの~
が、許されるのなんて、中坊位までだ。
優のように、やらなくてもできてしまう者もいるけど。
約束のホテルに着く。
実家で良かったのに、『秋葉商事の株で父さんにはまだ知らせるべきでない案件がある。カフェでは難しいから、ホテルを取った』と言われた。
実印を持って来いというくらいだから、ホテルも当然かもしれない。
ただ、こんな高級ホテルのスウィートの必要性がわからん。ビジネスホテルのツインでよくね?
そう伝えると、経費で落とすから大丈夫だと言われた。
何が大丈夫なのか。まだ、社員にもなってない輩が、経費を落とせる秋葉商事、ヤバくね?
いくら、時期社長といえど……親父は何を考えているのか。
とはいえ、実印は持ってきていない。即ハンコ押せなんて、どこのヤクザだ。書類は持ち帰って検討する。これは基本だ。
「おう、きたな」
部屋から迎い入れた一馬の嗤い方に、これはそう早々に帰ったほうが良さそうだと思った。ロクな事にならないだろう。着席して早々に実印を持って来てない事を伝えておく。
株の比率の話になった。
曰く、今の一馬の持ち率だと、大して権限がないから智則の分を譲渡しろ、と。智則がβだった事で一馬は被害を受けてきた、その慰謝料としてこれで手を打つと。
………
智則がβであったことで一馬が受けた損害というのはなんだというのか。
むしろ、βであったが故に、一馬は争う事なく次期社長として入社できる。
それが、会社の為になるかどうかは別だが。
最もαが苦手な智則が社長になるよりはマシかもしれない。
正直、九条に威圧を向けられた時、またα恐怖症がぶり返すのではと、怯えた
実際には大丈夫だったけれど。もしかしたら、その直前に九条を投げれた安心感があったからかもしれないが。
『お前は脳筋だからなぁ』
猛に呆れた声で言われた事を思い出す。
智則は株の譲渡を断った。慰謝料、などと言われたら、渡す気など起きやしない。
「お前がΩでない事でどれだけ迷惑を被っているか、考えろ。Ωだったら由希はまだ俺の友達だっぢろうし、由希だってあんな……」
「一馬さん」
いきなり、九条の声が聞こえた。一馬の言葉を遮る
そうか、それでスウィートか。九条が隠れられる場所を作るために。
「九条様、僕が合図するまで待機をしてくださるはずでは?」
「うん。でも、秋葉商事の話をするとか聞いてなかったし、その他諸々?」
「……本当にこいつがβなんかじゃなきゃ話は早かったのに。今頃は九条様に」
「一馬さん」
再び、九条が一馬の言葉を遮る。一馬がため息をついた。
「わかりました。それにそろそろ良い時間だ」
久々に真正面からみた九条はやつれていた。おもねるように智則を見てくる。
それでも、こんな騙し討に付き合ういわれはない。ソファーから立ち上がろうとして、倒れた
「「え?」」
同時にヒドい眠気がきた。薬を盛られた。けれど、どうやって。実印なんて言ってくる相手だから、飲み物は未開封な水を自分で選んだのに。
「智則っ」
九条が慌てて駆け寄ってきた。
「九条様、ご安心ください。ただの睡眠薬です。こいつ用心深いくせして所々抜けてるんですよね。全部のペットボトルに睡眠薬仕込んだとは思ってなかったみたいで」
「貴様っなんて事を!」
九条の威圧が一馬を直撃したようだ。一馬のくぐもった悲鳴が聞こえた。それでも九条は圧を弱めない。状況からするに九条は一馬から知らされてない?
「うぐ……」
やがてすえた匂いがしてきた。
薬のせいで頭がぐらついていて状況は見えないが、おそらく一馬が嘔吐したのであろう。それを考えると由希や殿山、岡田はそれなりに鍛えられているのだろう。同じように九条の圧を受けてもうずくまっただけだった。やはり一馬と彼らでは培ってきたものが違うのだ
「許さない、許さない…」
九条がつぶやいている。
智則にもう力は入らない。
九条の圧が更に強くなってアンモニアの臭いまでしてきた
「く、九条。そんなんでも一応俺の兄貴なんだ。これは兄弟ゲンカだ。怒気を納めてくれ」
そうだ。実印を持ってくるように言われていた。智則の意識を奪った後、書類にハンコを押すつもりだったのだろう。智則が同意しないことを予測していて。
この辺は、一馬は智則より優れている。水を飲む前に、実印を持ってきていないことを伝えておけばよかった。
この会合、九条と合わせることが目的だったのか、それとも株の譲渡が目的だったのか。どちらにしろ、このくだらない状態に巻き込まれたのは九条だ
「……智則がそう言うなら」
すえた匂いとアンモニア臭。おおよそスイートルームにはふさわしくない。そしてぐらぐらする頭。こんなところで沈没はしたくない
「すまん九条。迷惑をかけるが寝室まで運んでくれ」
あれだけ無視をしておいて虫がいい話だとはわかっているが、こんな悪臭漂うところで朝を迎えたくはない。
そして、そのまま意識を失った。
正直、兄は苦手だ。
ことあるごとに、バースマウントをとってくるのだ
『そんだけ努力しても、その程度の成績だなんて。流石β。よくもまぁそんな無駄な事できるよな。合理性が無いのもβの特性か』
これで智則より優秀な成績であるならまだマトモだろうに、智則より劣る。
『俺はやればできるが面倒なんでやらないだけ。βの弟でさえこの成績なのだから、本気になりさえすれば、トップだって取れる自頭がある』
だったら、やれよ。
僕、やれば出来る子なの~
が、許されるのなんて、中坊位までだ。
優のように、やらなくてもできてしまう者もいるけど。
約束のホテルに着く。
実家で良かったのに、『秋葉商事の株で父さんにはまだ知らせるべきでない案件がある。カフェでは難しいから、ホテルを取った』と言われた。
実印を持って来いというくらいだから、ホテルも当然かもしれない。
ただ、こんな高級ホテルのスウィートの必要性がわからん。ビジネスホテルのツインでよくね?
そう伝えると、経費で落とすから大丈夫だと言われた。
何が大丈夫なのか。まだ、社員にもなってない輩が、経費を落とせる秋葉商事、ヤバくね?
いくら、時期社長といえど……親父は何を考えているのか。
とはいえ、実印は持ってきていない。即ハンコ押せなんて、どこのヤクザだ。書類は持ち帰って検討する。これは基本だ。
「おう、きたな」
部屋から迎い入れた一馬の嗤い方に、これはそう早々に帰ったほうが良さそうだと思った。ロクな事にならないだろう。着席して早々に実印を持って来てない事を伝えておく。
株の比率の話になった。
曰く、今の一馬の持ち率だと、大して権限がないから智則の分を譲渡しろ、と。智則がβだった事で一馬は被害を受けてきた、その慰謝料としてこれで手を打つと。
………
智則がβであったことで一馬が受けた損害というのはなんだというのか。
むしろ、βであったが故に、一馬は争う事なく次期社長として入社できる。
それが、会社の為になるかどうかは別だが。
最もαが苦手な智則が社長になるよりはマシかもしれない。
正直、九条に威圧を向けられた時、またα恐怖症がぶり返すのではと、怯えた
実際には大丈夫だったけれど。もしかしたら、その直前に九条を投げれた安心感があったからかもしれないが。
『お前は脳筋だからなぁ』
猛に呆れた声で言われた事を思い出す。
智則は株の譲渡を断った。慰謝料、などと言われたら、渡す気など起きやしない。
「お前がΩでない事でどれだけ迷惑を被っているか、考えろ。Ωだったら由希はまだ俺の友達だっぢろうし、由希だってあんな……」
「一馬さん」
いきなり、九条の声が聞こえた。一馬の言葉を遮る
そうか、それでスウィートか。九条が隠れられる場所を作るために。
「九条様、僕が合図するまで待機をしてくださるはずでは?」
「うん。でも、秋葉商事の話をするとか聞いてなかったし、その他諸々?」
「……本当にこいつがβなんかじゃなきゃ話は早かったのに。今頃は九条様に」
「一馬さん」
再び、九条が一馬の言葉を遮る。一馬がため息をついた。
「わかりました。それにそろそろ良い時間だ」
久々に真正面からみた九条はやつれていた。おもねるように智則を見てくる。
それでも、こんな騙し討に付き合ういわれはない。ソファーから立ち上がろうとして、倒れた
「「え?」」
同時にヒドい眠気がきた。薬を盛られた。けれど、どうやって。実印なんて言ってくる相手だから、飲み物は未開封な水を自分で選んだのに。
「智則っ」
九条が慌てて駆け寄ってきた。
「九条様、ご安心ください。ただの睡眠薬です。こいつ用心深いくせして所々抜けてるんですよね。全部のペットボトルに睡眠薬仕込んだとは思ってなかったみたいで」
「貴様っなんて事を!」
九条の威圧が一馬を直撃したようだ。一馬のくぐもった悲鳴が聞こえた。それでも九条は圧を弱めない。状況からするに九条は一馬から知らされてない?
「うぐ……」
やがてすえた匂いがしてきた。
薬のせいで頭がぐらついていて状況は見えないが、おそらく一馬が嘔吐したのであろう。それを考えると由希や殿山、岡田はそれなりに鍛えられているのだろう。同じように九条の圧を受けてもうずくまっただけだった。やはり一馬と彼らでは培ってきたものが違うのだ
「許さない、許さない…」
九条がつぶやいている。
智則にもう力は入らない。
九条の圧が更に強くなってアンモニアの臭いまでしてきた
「く、九条。そんなんでも一応俺の兄貴なんだ。これは兄弟ゲンカだ。怒気を納めてくれ」
そうだ。実印を持ってくるように言われていた。智則の意識を奪った後、書類にハンコを押すつもりだったのだろう。智則が同意しないことを予測していて。
この辺は、一馬は智則より優れている。水を飲む前に、実印を持ってきていないことを伝えておけばよかった。
この会合、九条と合わせることが目的だったのか、それとも株の譲渡が目的だったのか。どちらにしろ、このくだらない状態に巻き込まれたのは九条だ
「……智則がそう言うなら」
すえた匂いとアンモニア臭。おおよそスイートルームにはふさわしくない。そしてぐらぐらする頭。こんなところで沈没はしたくない
「すまん九条。迷惑をかけるが寝室まで運んでくれ」
あれだけ無視をしておいて虫がいい話だとはわかっているが、こんな悪臭漂うところで朝を迎えたくはない。
そして、そのまま意識を失った。
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