努力に勝るαなし

認認家族

文字の大きさ
上 下
50 / 178

兄ー智則

しおりを挟む
久々に兄に呼び出された。

正直、兄は苦手だ。
ことあるごとに、バースマウントをとってくるのだ

『そんだけ努力しても、その程度の成績だなんて。流石β。よくもまぁそんな無駄な事できるよな。合理性が無いのもβの特性か』

これで智則より優秀な成績であるならまだマトモだろうに、智則より劣る。

『俺はやればできるが面倒なんでやらないだけ。βの弟でさえこの成績なのだから、本気になりさえすれば、トップだって取れる自頭がある』

だったら、やれよ。
僕、やれば出来る子なの~
が、許されるのなんて、中坊位までだ。

優のように、やらなくてもできてしまう者もいるけど。


約束のホテルに着く。
実家で良かったのに、『秋葉商事の株で父さんにはまだ知らせるべきでない案件がある。カフェでは難しいから、ホテルを取った』と言われた。

実印を持って来いというくらいだから、ホテルも当然かもしれない。
ただ、こんな高級ホテルのスウィートの必要性がわからん。ビジネスホテルのツインでよくね?
そう伝えると、経費で落とすから大丈夫だと言われた。
何が大丈夫なのか。まだ、社員にもなってない輩が、経費を落とせる秋葉商事、ヤバくね?
いくら、時期社長といえど……親父は何を考えているのか。

とはいえ、実印は持ってきていない。即ハンコ押せなんて、どこのヤクザだ。書類は持ち帰って検討する。これは基本だ。


「おう、きたな」
部屋から迎い入れた一馬の嗤い方に、これはそう早々に帰ったほうが良さそうだと思った。ロクな事にならないだろう。着席して早々に実印を持って来てない事を伝えておく。


株の比率の話になった。
曰く、今の一馬の持ち率だと、大して権限がないから智則の分を譲渡しろ、と。智則がβだった事で一馬は被害を受けてきた、その慰謝料としてこれで手を打つと。

………
智則がβであったことで一馬が受けた損害というのはなんだというのか。
むしろ、βであったが故に、一馬は争う事なく次期社長として入社できる。
それが、会社の為になるかどうかは別だが。
最もαが苦手な智則が社長になるよりはマシかもしれない。

正直、九条に威圧を向けられた時、またα恐怖症がぶり返すのではと、怯えた
実際には大丈夫だったけれど。もしかしたら、その直前に九条を投げれた安心感があったからかもしれないが。
『お前は脳筋だからなぁ』
猛に呆れた声で言われた事を思い出す。


智則は株の譲渡を断った。慰謝料、などと言われたら、渡す気など起きやしない。


「お前がΩでない事でどれだけ迷惑を被っているか、考えろ。Ωだったら由希はまだ俺の友達だっぢろうし、由希だってあんな……」

「一馬さん」

いきなり、九条の声が聞こえた。一馬の言葉を遮る

そうか、それでスウィートか。九条が隠れられる場所を作るために。


「九条様、僕が合図するまで待機をしてくださるはずでは?」

「うん。でも、秋葉商事の話をするとか聞いてなかったし、その他諸々?」

「……本当にこいつがβなんかじゃなきゃ話は早かったのに。今頃は九条様に」

「一馬さん」

再び、九条が一馬の言葉を遮る。一馬がため息をついた。

「わかりました。それにそろそろ良い時間だ」


久々に真正面からみた九条はやつれていた。おもねるように智則を見てくる。

それでも、こんな騙し討に付き合ういわれはない。ソファーから立ち上がろうとして、倒れた

「「え?」」

同時にヒドい眠気がきた。薬を盛られた。けれど、どうやって。実印なんて言ってくる相手だから、飲み物は未開封な水を自分で選んだのに。

「智則っ」
九条が慌てて駆け寄ってきた。

「九条様、ご安心ください。ただの睡眠薬です。こいつ用心深いくせして所々抜けてるんですよね。全部のペットボトルに睡眠薬仕込んだとは思ってなかったみたいで」

「貴様っなんて事を!」

九条の威圧が一馬を直撃したようだ。一馬のくぐもった悲鳴が聞こえた。それでも九条は圧を弱めない。状況からするに九条は一馬から知らされてない?

「うぐ……」 

やがてすえた匂いがしてきた。
薬のせいで頭がぐらついていて状況は見えないが、おそらく一馬が嘔吐したのであろう。それを考えると由希や殿山、岡田はそれなりに鍛えられているのだろう。同じように九条の圧を受けてもうずくまっただけだった。やはり一馬と彼らでは培ってきたものが違うのだ


「許さない、許さない…」

九条がつぶやいている。
智則にもう力は入らない。
九条の圧が更に強くなってアンモニアの臭いまでしてきた

「く、九条。そんなんでも一応俺の兄貴なんだ。これは兄弟ゲンカだ。怒気を納めてくれ」

そうだ。実印を持ってくるように言われていた。智則の意識を奪った後、書類にハンコを押すつもりだったのだろう。智則が同意しないことを予測していて。
この辺は、一馬は智則より優れている。水を飲む前に、実印を持ってきていないことを伝えておけばよかった。

この会合、九条と合わせることが目的だったのか、それとも株の譲渡が目的だったのか。どちらにしろ、このくだらない状態に巻き込まれたのは九条だ


「……智則がそう言うなら」

すえた匂いとアンモニア臭。おおよそスイートルームにはふさわしくない。そしてぐらぐらする頭。こんなところで沈没はしたくない

「すまん九条。迷惑をかけるが寝室まで運んでくれ」

あれだけ無視をしておいて虫がいい話だとはわかっているが、こんな悪臭漂うところで朝を迎えたくはない。

そして、そのまま意識を失った。


































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

5人の幼馴染と俺

まいど
BL
目を覚ますと軟禁されていた。5人のヤンデレに囲われる平凡の話。一番病んでいるのは誰なのか。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

処理中です...