努力に勝るαなし

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唐澤の過去ー英樹

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「落ち着かれましたか?」

達也に声をかけられた。

「……ああ。みっともない所を見せたな。済まない。……それで、唐澤については」

「唐澤由希ですが、小学5年まで秋葉一馬のクラスメイトでした。家に泊まるなど親しくしていたようです。ただ、骨折した智則様に暴力を振るおうとしたとして、小5で転校。動機は智則様に頼られたかったと」

頼らないならば頼らせればいいのだ。高位αならば、その動機は共感する。するが、俺の番になにを!

「………そうか。骨折も唐澤のせいか?」

「いえ、骨を折ったのは……」

達也が言い淀む。骨が折れたではなく、骨を折った??

「言え」

「……骨を折ったのは秋葉一馬です」

「……他にも隠している事は」

英樹が智則に惹かれた時点で達也はそのあたりは調べたはずだ。ただ、英樹には伝えなかった。
あの時点では、一馬という駒がどう役に立かは不明で、英樹が怒りで処分することを避けたかったのだろう

「智則さまですが、病院に運ばれた際には、その……吉川線が確認されました」

吉川線……首を絞めたられたものが抵抗する際につくあれか。怒りで歯がギジリと鳴った。

「その後、α恐怖症を発症、ご両親もαである為、病院から登校されていたとの事です。いつ克服なさったのかは不明ですが、深澤猛の家で月の半数近くを過ごすこともあったようです」

α恐怖症、克服したとはいえ、そんな過去がある智則に威圧を浴びせてしまった。これは……

「イエローカードですね。あの様子ですと」

「だよな」

あ~、凹む

「智則様の件でご報告していないのは以上です。唐澤ですが、転校後に鬱病になりました。親は標準的なαだったので、理解不足もあるのでしょう」

……まあ、そうだろうな。唐澤も上位αだ。執着相手と離れる事で心身を病んだのだろう。下位のαには、辛い事だとはわかっても、どれ程のことだかは理解できなかったのだろう。離れれば別の相手が見つかる、なんてのは、下位αの特性だ。
 
だからこそ、英樹の両親や達也はβであっても智則を排除しない。英樹が壊れるのを分っているからだ

「高校2年から症状が良くなり、帝都大学を目指して勉学に励んだとあります。帝都大学入学後は成績上位をキープし山下ゼミに入りました。番ですが………フェロモンレイプをされての番契約です。故意にヒートしたΩにラット誘発剤を注射されたとなっており、物的証拠もあります。ただ、唐澤は被害届をだしていません」

智則に心を持っていかれた唐澤に番がいる事に違和感を覚えていたが、そういうことか。納得だ。


ため息が出る。
唐澤は、英樹の別の未来だ。
智則を失い心を失って、レイプされても抵抗する気力も意味も見出だせずに番契約したのだ。虚無のままに。


だが、それは唐澤が幼かったが為、無力だったが為におきたことだ。

英樹は違う。

智則を失うという選択肢自体がない。心が手に入らなくても、体だけでも手にいれられる実権があるのだ。

完全に智則を失う、などということは起きないのだ。


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