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出会い‐英樹
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英樹は講堂へと向かっていた。新入生代表として挨拶があるからだ。
正直、入学式など行くのは時間の無駄であるし、断るつもりであったのだが、次席がβであった為一部の選民思想のαどもが『β風情が総代などと烏滸がましい』というのだ。そのβ風情に勝てなかった奴がなにを言っているのかと思わないでもないが、煩いことに関わりたくはない。
受け入れて、講堂へ向かう途中、芝生の広場があった。
人が寝てる?
普段なら通りすぎるのに、何故か足がその男のもとに引き寄せられた。寝ているくせに、空気感が違うのだ。
覗きこんだ瞬間に男が、目を開けた。黒い黒いとても美しい瞳だ。何かを美しいと思ったのは、これが初めてだった。
「あ、俺寝ちゃったんだ。すみません、講堂はどっちでしょうか?」
英樹を真っ直ぐに見つめて問いかける。自分に臆せず質問してくる者も珍しい。そして、自分もまた、珍しく親切にしたいと思った。
「君も新入生?僕もなので、一緒にいこう。」
「おー、ありがとうな。あ、俺、経済学部の秋葉智則よろしくな」
「奇遇だね。僕も経済学部で九条英樹」
「お~よろしくな」
九条英樹、と名乗ったのに特別な反応がない。いや反応がない方が特別か。初めて英樹見た者は皆、惚け、そして、九条と知るとΩは番を狙いαは側近を望みβはおこぼれ期待する。
だが、智則にはその反応がない。こちらを誘惑するフェロモンを発しもしない。フリーのΩではないのか。
苛立ちのあまりに威圧が漏れるも智則に、変化がない。最上位αの威圧は番もちだろうが全ての人に影響が出るものなのに。智則は変わらず柔らかい笑顔のままに話しかけてくる。
「俺は山下教授のゼミに入りたいんだよ~。倍率きついから頑張らないとな」
日本の最高学府と言われるこの大学の入学式、皆多少は浮かれるものだろうに、智則はすでに次の目標に向かっているのか。努力を出来る人なのだろう。いや、Ωでありながらもこの大学に入れるのであれば、努力家だ。
そんな姿勢も好ましい。
………好ましい? 好ましい?俺がこのΩを??
軽く首を振る。馬鹿な。自分にそんな感情はない。
今まで、周りの風景だって、スクリーン越しに見るようなそんな、何の感情も揺さぶられることはなかったのに?
そうだ、珍しいから、だから興味を覚えただけだ。
智則が、目を輝かせながら、山下について語るのが、気にくわない。智則が見つめる先は俺だけでいい。
「ヤルか」
「?何か言った?」
聞き取れなかったのだろう、智則が、キョトンとしながら、こちらを見上げてくる。
あらわになる首筋に思わず喉がなる。
噛みたいっ
「英樹様」
講堂に付くと側近の達也が声をかけてきた。それを見た智則が離れていく。
「ついた~ありがとうな。」
「いや、またあとでな」
両手で智則の手を包み込みながら言った。同時にフェロモンもまとわせる。同じαならは、俺の物に手を出す奴は容赦しないというメッセージを読み取る。
智則の番もこの威嚇を前に、触りたくても触れない状態になり、苦悩する。そうだ、智則の初めてを奪ったαなど、どこまでも苦しむがいい
……おそらく、自分は智則に惚れてしまったのだろう、そうでなければ、見たこともない智則の番に対しここまでの感情を抱くことはないはずだ。
自分が最上位αであることに感謝したのはこれが初めてだ。番っているαよりもランクが著しく上位であれば、運命以外は番契約の上書きが可能なのだ。これに対する恐怖で、番を軟禁してしまうαも多い。
αのランク付けは厳格だ、本能といっていい。
上位のαであればあるほど、優秀であり番は一人、その執着も強い。
逆に下位のαであれば、βよりポテンシャルは高いが、と言ったところで、番に対する執着は人それぞれ。唯一をもつ者もいれば、何人ものΩを番している者もいる。
智則の番が上位なのか下位なのかは不明だが、最上位αである自分が上書きできない番契約など存在しないのだ。
智則の番の苦悩を思うとくつくつと暗い嗤いが漏れる。この先、平穏が訪れると思うな、生きていることを後悔させるくらいの目に合わせてやる。
「英樹様?」
「いや、さっきの男、経済学部一年の秋葉智則について調べろ」
「秋葉智則?英樹様の次点で入学したβですね」
「ベータっ!?Ωではなく?」
「流石にΩで次点は不可能でしょう、むしろ、後天性αの可能性もあるため、何度かバース検査を受けていますが、βの判定が覆ることはなかったようです。父親は秋葉商事の社長、長男は秋葉一馬この大学の4年生、成績は普通、秋葉商事への就職が決まっています。次男の智則は次点を取るだけあって高校の成績も優秀、弓道部に所属し、インターハイで2位になってますね。βが次点者であったため、軽くしらべてありましたが、更に調査を勧めます」
俺のマーキングを見て何かを感じたのだろう。電話で指示をしていた。
しかし、βか。
厄介だ…
正直、入学式など行くのは時間の無駄であるし、断るつもりであったのだが、次席がβであった為一部の選民思想のαどもが『β風情が総代などと烏滸がましい』というのだ。そのβ風情に勝てなかった奴がなにを言っているのかと思わないでもないが、煩いことに関わりたくはない。
受け入れて、講堂へ向かう途中、芝生の広場があった。
人が寝てる?
普段なら通りすぎるのに、何故か足がその男のもとに引き寄せられた。寝ているくせに、空気感が違うのだ。
覗きこんだ瞬間に男が、目を開けた。黒い黒いとても美しい瞳だ。何かを美しいと思ったのは、これが初めてだった。
「あ、俺寝ちゃったんだ。すみません、講堂はどっちでしょうか?」
英樹を真っ直ぐに見つめて問いかける。自分に臆せず質問してくる者も珍しい。そして、自分もまた、珍しく親切にしたいと思った。
「君も新入生?僕もなので、一緒にいこう。」
「おー、ありがとうな。あ、俺、経済学部の秋葉智則よろしくな」
「奇遇だね。僕も経済学部で九条英樹」
「お~よろしくな」
九条英樹、と名乗ったのに特別な反応がない。いや反応がない方が特別か。初めて英樹見た者は皆、惚け、そして、九条と知るとΩは番を狙いαは側近を望みβはおこぼれ期待する。
だが、智則にはその反応がない。こちらを誘惑するフェロモンを発しもしない。フリーのΩではないのか。
苛立ちのあまりに威圧が漏れるも智則に、変化がない。最上位αの威圧は番もちだろうが全ての人に影響が出るものなのに。智則は変わらず柔らかい笑顔のままに話しかけてくる。
「俺は山下教授のゼミに入りたいんだよ~。倍率きついから頑張らないとな」
日本の最高学府と言われるこの大学の入学式、皆多少は浮かれるものだろうに、智則はすでに次の目標に向かっているのか。努力を出来る人なのだろう。いや、Ωでありながらもこの大学に入れるのであれば、努力家だ。
そんな姿勢も好ましい。
………好ましい? 好ましい?俺がこのΩを??
軽く首を振る。馬鹿な。自分にそんな感情はない。
今まで、周りの風景だって、スクリーン越しに見るようなそんな、何の感情も揺さぶられることはなかったのに?
そうだ、珍しいから、だから興味を覚えただけだ。
智則が、目を輝かせながら、山下について語るのが、気にくわない。智則が見つめる先は俺だけでいい。
「ヤルか」
「?何か言った?」
聞き取れなかったのだろう、智則が、キョトンとしながら、こちらを見上げてくる。
あらわになる首筋に思わず喉がなる。
噛みたいっ
「英樹様」
講堂に付くと側近の達也が声をかけてきた。それを見た智則が離れていく。
「ついた~ありがとうな。」
「いや、またあとでな」
両手で智則の手を包み込みながら言った。同時にフェロモンもまとわせる。同じαならは、俺の物に手を出す奴は容赦しないというメッセージを読み取る。
智則の番もこの威嚇を前に、触りたくても触れない状態になり、苦悩する。そうだ、智則の初めてを奪ったαなど、どこまでも苦しむがいい
……おそらく、自分は智則に惚れてしまったのだろう、そうでなければ、見たこともない智則の番に対しここまでの感情を抱くことはないはずだ。
自分が最上位αであることに感謝したのはこれが初めてだ。番っているαよりもランクが著しく上位であれば、運命以外は番契約の上書きが可能なのだ。これに対する恐怖で、番を軟禁してしまうαも多い。
αのランク付けは厳格だ、本能といっていい。
上位のαであればあるほど、優秀であり番は一人、その執着も強い。
逆に下位のαであれば、βよりポテンシャルは高いが、と言ったところで、番に対する執着は人それぞれ。唯一をもつ者もいれば、何人ものΩを番している者もいる。
智則の番が上位なのか下位なのかは不明だが、最上位αである自分が上書きできない番契約など存在しないのだ。
智則の番の苦悩を思うとくつくつと暗い嗤いが漏れる。この先、平穏が訪れると思うな、生きていることを後悔させるくらいの目に合わせてやる。
「英樹様?」
「いや、さっきの男、経済学部一年の秋葉智則について調べろ」
「秋葉智則?英樹様の次点で入学したβですね」
「ベータっ!?Ωではなく?」
「流石にΩで次点は不可能でしょう、むしろ、後天性αの可能性もあるため、何度かバース検査を受けていますが、βの判定が覆ることはなかったようです。父親は秋葉商事の社長、長男は秋葉一馬この大学の4年生、成績は普通、秋葉商事への就職が決まっています。次男の智則は次点を取るだけあって高校の成績も優秀、弓道部に所属し、インターハイで2位になってますね。βが次点者であったため、軽くしらべてありましたが、更に調査を勧めます」
俺のマーキングを見て何かを感じたのだろう。電話で指示をしていた。
しかし、βか。
厄介だ…
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