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御伽噺の真実
しおりを挟む人間たちが暮らすこの世界とは別に、天界と呼ばれる世界が存在します。
天界には、世界を管理する神々やその神々の補佐や雑用を行う天使と呼ばれるものがいます。
しかし、天使の中には己の役目によっては天界ではなく人間たちの世界で暮らす天使も存在します……とある王国のスラム街に居た、パスメもその天使のうちの1人でした。
パスメは人間のことが大好きでした。
己の尊く、儚い命を他者のために使うことができる者、はたまた、己の私利私欲を満たすためだけに行動する者。同じ人間だというのに様々な思考をもち、様々なものを生み出す彼らを見るのはとても楽しかったからです。
だからパスメはスラム街という多くの人が死ぬ場所で、その命が消えてしまわないようにするために、生きる術を伝えていました。
しかし、
神は、それを良いことだと思いませんでした。
故に神は、
己の手下も同然である勇者を利用して、
“パスメを殺す”ことにしました。
パスメは勇者を裏切ってなどいません。むしろ裏切ったのは勇者でした。
……勇者はわざとスラム街の者にも分け隔てなく接しているように見せて、スラム街のものを売ろうとしたのです。しかも、パスメに見せつけるかのように分かりやすく。
だからパスメは自分たちを裏切った勇者を、勇者であれば軽傷を負うくらいで帰ってこれるであろう少し魔物が多く生息している森にに置き去りにしました。
しかし、勇者は死んでしまった。という噂が流れてきます。
それで、勇者があの程度で死ぬはずがないのにどういうことだ、と混乱するパスメに構わず、誰がその森に置き去りにしたのかの犯人探しが始まりました。
そして、すぐにパスメが犯人だとばれて……
パスメは、国の人たちに惨殺されました。
……死んだ者に発言権などありません。死んだ者は、生きている者が作り出した話を否定することはできません。元はと言えば勇者が悪かった、という事実を話す術はありません。
それに、生きている者でも否定することはできませんでした。向こうと張り合うには圧倒的にに数が足りなかったのです。だから、特にパスメに助けられたスラム街の人たちが頑張って反抗しても、なんの意味もなかったのです。
そしてなにより、一番最悪な点はこれです。実際には勇者は死んでいないということです。
勇者はパスメを間接的に、とは言え殺したというのに。
つまり、何を言いたいのかというと、
損を負ったのは、パスメだけなんです。
◇◇◇◇◇
「なぜ、あの子だけが、パスメだけが、損をしなくてはならないんですか?」
シスターが、泣きながら膝から崩れ落ちる。
「あの子は、何も悪くないじゃないですか」
「天使は、我々は人に関わってはならない?なら、なぜ、今の時代は我々が人と関わってもなんの罰も与えられないのですか?」
「あの子が、何か天界の者達にとって不利益となるようなことをしましたか?」
「何故! あの子が殺されなければなかったんですか!!」
シスターは、背中から白銀の美しい羽を生やし、そのシスター服が破れてしまっていることにも気付かず、1人で、叫び続けた。
さて、貴方はいくらでも変えることのできる“史実”と、天使が語った“御伽噺”、そのどちらを信じますか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パスメ(パスメノス)=ギリシャ語で、堕ちた者
実は死ぬ直前に神によって天使から堕天使に落とされています。
【追記】
神が何故わざわざこんな遠回りなことをしてパスメを殺したのか。それは己が信じていた人間に、町の住民に裏切られたパスメはどうなってしまうのか、それすらも美しいと思っていた私利私欲のために動く、という人間の行動が自分に向いたときどんな反応をするのか。それを知りたかったからだそうです。
ちなみに勇者はパスメ殺害に手を貸せばチート能力あげる♪と言われて神に手を貸しました。
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