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語られる史実
しおりを挟む「勇者さま!遊ぼ!」
「いいよ。何して遊ぶ?」
「えっとね!鬼ごっこ!勇者さまが逃げて、僕たちが追いかけるの!」
「りょーかい」
とある王国の首都にあるスラム街。今日はここに魔王を倒すべく他の世界から呼ばれた【勇者】が訪れていました。今日は、なんて言ってもここのところ毎日来ているのですが。
「勇者様。すみません、ここのところずっと子供たちの相手をさせてしまって……」
そんな勇者に声をかけたのは、15歳くらいであろう白髪の少女でした。
「あはは。子供たちの相手って……君も子供だろう?大人が手伝うのは当然のことだよ」
「え、あ、あぁ。そう、ですね。ありがとうございます」
勇者の言葉にその少女は少しつまりながらも感謝の言葉を口にしました。
その男が現れたのは、勇者が王宮に帰ってから数時間がたった後のことでした。
「スラム街の取り締まり役、パスメさん」
その男は真っ黒なマントに身を包んだ状態で、パスメさん、と呼んだ少女――今日の昼に勇者と話していた少女に親しげな声で話しかけました。
「……スラム街に取り締まり役も何も存在しません。ここで生きる者のモットーは自己責任ですから」
しかしそれに反して少女――パスメは心底話したくない、と言うかのような冷たい声で返事をしました。
「まぁまぁ、そう言わずに。……我々が貴女に求めることはただ1つ」
男がゆっくり、ゆっくりとパスメの元へ歩いて来ます。
「勇者を死の森に誘導していただく、それだけです。たったそれだけのことで貴女はこのスラム街を建て直すのに必要なお金を手に入れる……不都合なんてないでしょう?」
男はパスメの前に行き、長い己の指でパスメの顔を自身に向けます。
それにより、パスメの屈辱に濡れた表情が露となりました。
「……私は、勇者様を裏切るつもりは、ありません」
パスメは男に対して明確な拒絶の意思を示して、己の仲間が待つ寝床へと向かっていきました。
「あぁ……残念です」
男以外誰も居なくなったその場所で、男はそう、呟きました。
パスメがそのことを知ったのはあの男が現れてから3日後の早朝のことでした。
「ご、めん、な、さい。ごめんな、さい。」
「ルナ?どうかしたの?」
日が昇ってすぐ、パスメの元に先日7歳になったばかりの少女が泣きながらやって来ました。
「あの、ね。ダメって、言ってたのに、ね、変な人から、お金、借りちゃっ、た。おねぇちゃんの、病気、治したく、て」
「そっか……おねぇちゃんの病気は治せた?」
パスメは少女に問いながら少女をなでます。
「うん!治ったよ!」
「それならいいよ。でも、どんな人から貰ったか教えてくれるかな?」
「えっとね、真っ黒なマントを被った男の人から貸してもらったの」
パスメがにこにことした笑顔のまま固まりまし。それは勿論心当たりがありすぎたからでした。
「……外道め」
一瞬、瞬きしている間とほぼ変わらないくらいの時間の間、パスメの瞳が、声が、聞いたものを射貫くような冷たいものへと変わります。
「パスメおねぇちゃん?どうかしたの?」
しかし、幸いなことに少女はそれに気付きませんでした。
「ん?何でもないよ。ところでいつ取り立てに来るか分かる?」
「今日の夜にもう一度来るって言ってたよ」
「今日の夜だね。じゃあ、他の人たちに今日は出歩くなって連絡しておいて貰ってもいいかな?」
「うん!」
パスメの言葉に、少女は元気よく頷きます。
「……たとえ何があっても、皆に迷惑がかからないようにしないと」
パスメは皮肉なことに、3日前の夜、あの男が最後に居た場所でそんな風に呟いたのでした。
そして、翌日。
「勇者様、子供が“死の森”という場所に行ってから帰ってこなくて……探しに行ってもらえませんか?」
「構わないよ!」
勇者は、1度入れば生きて戻れないと言われる“死の森”へと向かっていきました。
それから1週間後、“死の森”へ行った勇者が死んだとの情報が入ってきました。
それを聞いてパスメは……
「勇者様を裏切った私には、生きている価値等ありません」
そう呟いて、自ら命をたったそうです。
◇◇◇◇◇
「これで、『勇者と裏切り』を終わります」
パチパチパチパチ
御伽噺の朗読会が終わり、聞き手であった孤児院の子供たちから拍手が聞こえてきます。
「さて、それじゃあ自室に帰っても遊んできてもいいですよ」
朗読をしていたシスター服を纏った女性が子供たちにそう声をかけるや否や、子供たちはすぐに椅子から降りて外に向かっていきました。
「よくわかんねー話だったな」
「てか何であんなの聞かされなきゃなんねぇーの?」
「あれだよ、ゆーめーな話だから知っとけってだけだよ」
「あ~そういう?でもこんなん聞かされるとか時間の無駄だよな~」
「な~」
こんな会話を残して
「……私だって、こんな塗り替えられた史実を話したくなんてないんですよ」
シスター服を纏った女性はこの話の真実を、本当の“御伽噺”を、静かに、されどよく通る声で話しはじめました。
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