獣たちは闇夜に踊る

第１章 獣たちは暗躍する

2.獣、帰還する。

　エルがターゲットを始末した夜から2日後。
　闇ギルド『ナイトダンス』のギルドマスター・『黒』は窓から差し込む暖かな陽射しを全身に浴びながら椅子に座って微睡んでいた。
　今日は外部の客と会う予定はない。書類仕事も急を要するものは午前中に片付いた。30分くらいはこうして休憩してもいいだろう、と判断したからである。
　休めるときに休まねば。いつも突然部屋に乱入してくる不届き者も丁度不ざ「ただいま帰りました『黒』！！！　今日もかわ「うるっっせえな！！！！！　人が気持ちよく微睡んでるっっつーのに邪魔すんじゃねえど阿呆が！！！！！」」
　『黒』はその辺にあった厚さ７ｃｍはある分厚い本をは目にもとまらぬ速さでひっつかんで微睡みを邪魔した不届き者メンバー・エル目掛けてぶん投げた。
　ヒュッという音が認識された次の瞬間にはどっっぐおぉーーーーん！！！！！　と派手な音を立てて『黒』にぶん投げられた分厚い本は壁に激突した。ただし慣れたものでエルには簡単に避けられた。当たるとは端から期待していなかったがチッッと『黒』は舌打ちする。セリフからも分かるように、寝起きの『黒』は覚醒は人一倍早いがその代わりに機嫌も人一倍最悪なのが常だった。
　ちなみにAランク以上の冒険者でようやく残像を捉えられるかどうかという恐ろしい速度で飛ばされた本とそんな凶器を真っ正面からぶつけられてしまったダークブラウンの木造の壁は幸いどちらも無駄に高度な防御魔法がかかっているので無事だった。かかってなかったら？即死です。
　寝起きの機嫌の悪さが本をぶん投げるという運動によって多少改善された『黒』は、まだ額に青筋を浮かべつつも普段の穏やかな口調でエルに問いかけた。
「エル......お前はいつもいつも何故静かに入ってこられないんだ？？　僕が今休憩中なのは下でマリーから聞いているはずだよね？？？」
エルはにっこり笑いながら問いに対して、
「ええ、確かにマリーはちゃんと伝えてくれましたよ。ですが俺が『黒』に会いたかったのは仕事目的ではなく、恋人成分の補給目的だったので」
　そしてドヤ顔でこうのたまった。
「つつしんでスルーさせていただきました！！！」
「よし一発殴らせろ」
　『黒』は無駄にスタイルのいいエルの脇腹に割と強めにパンチを一撃お見舞いした。自分よりも筋肉がついていたのでよりムカついた。
　こんな感じでぎゃいぎゃいと騒ぎながらいちゃつくエルと『黒』のバカップルの声は1階まで聞こえていたが、ギルドメンバーたちはもう慣れっこなので今日も平和でなによりだとそれをつまみに酒を飲むのであった。