カエ

赫沙

文字の大きさ
上 下
4 / 10

踊り場

しおりを挟む
 次に僕は、高校の屋上に続く階段の踊り場に向かった。学校の屋上は閉鎖されており、その踊り場は倉庫のように要らなくなった備品や机、ソファが積み上げられていた。文化祭で使用した造花と思われる向日葵が窓から差し込む光でオレンジに輝いている。掃除も特にはされていないのでホコリがあちこちに積もっている。基本誰も近寄らないような場所。
 
 ここは僕とカエが一番気に入っている場所だ。僕とカエ以外近寄らない。僕達だけの場所。僕らの絆の始まりの場所。学校でカエが見当たらない時は大抵ここに居る。教室が五月蝿くて居づらい時、1人になりたい時、考え事をしたい時などは、僕もカエも大抵ここに来る。お互いがお互いの心境に邪魔を入れることは無いし、何か話したかったら好きなように話しかけていい。そんな関係が成り立っていて、とても居心地が良かったんだ。

 夏休みだというのに文化祭準備のために学校に駆り出されている。文化祭まであと1ヶ月と少し。僕のクラスは、クラス全員の手形を絵の具でつけて、ひとつの大きな絵を描くというものだった。僕は買い出し係と、自分の手形を1つ押す係。真っ赤なペンキを手に塗りたくって、手形1つ。もう用済みなようなので、踊り場へ。今日もカエは居た。カエのクラスは舞台発表だそうだ。ダンスをするそうで、カエは照明役になったから舞台に立たなくていいと喜んでいた。練習もリハーサルくらいで良いらしく、文化祭準備に追われることは無いようだ。夏休みなのにどうして居るのかと尋ねたら、目を細めて笑いながら言った。

「君がクラスの友達たちと仲良しこよししてる所を拝みにきたんだよ」

僕らはクラスの馴れ合いなどは嫌いだ。だからこそ成り立つ他愛ない冗談。本当は?と尋ねると、カエはフフっと鼻で笑った後、考え事しに来たと答えた。
こんなクソ暑い真夏でも、冷房もなくて風も通らない踊り場にやってくる。それくらいにはその場所が好き。それだけ。

 じゃんけんに負けた僕は、カエと僕の分のいちごミルクを買いに行った。再び長く暑い階段を登る。高校生活最後の夏。世間一般がいう青春とはかけ離れているかもしれないが、僕は充実した気持ちで過ごせていた。カエが僕の日常を淡く染めてくれる。きっとカエの日常も、僕が淡く色付けている。お互い不思議な信頼や絆を感じている。
 
 そんなカエが今目の前でカッターナイフを弄んでいる。僕は何をする気だと尋ねる。カエは答える。

「人を殺そうかと思って」

続けて言う。

「美しい殺し方をしようと思って」
「死は美しいものでないとね」

僕は誰を殺すのかと尋ねたが、カエがなんて答えたかは覚えていない。ただ、カエは人を殺そうとしていた。

「計画しましょう。美しいフィナーレを」

僕はきっとタチの悪い冗談だろうと捉えて、一緒に計画を考えた。
もともと突拍子のない女だ。また今回も訳分からない戯言を言っているだけだろう。

 どこか狂ったカエの命は、僕には一番美しく見える。
燃えたぎる命。燃え盛る命。

灯火が消えるまではあっという間なのかもしれない

ーえ?

なんでそんなこと思ったんだ僕は

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

SS集「高校生」

あおみなみ
青春
今まで書いたもののうち、高校生を主人公もしくはメインキャラにした5,000字未満の作品集です。

ジャグラック デリュージョン!

Life up+α
青春
陽気で自由奔放な咲凪(さなぎ)は唯一無二の幼馴染、親友マリアから長年の片想い気付かず、咲凪はあくまで彼女を男友達として扱っていた。 いつも通り縮まらない関係を続けていた二人だが、ある日突然マリアが行方不明になってしまう。 マリアを探しに向かったその先で、咲凪が手に入れたのは誰も持っていないような不思議な能力だった。 停滞していた咲凪の青春は、急速に動き出す。 「二人が死を分かっても、天国だろうが地獄だろうが、どこまでも一緒に行くぜマイハニー!」 自分勝手で楽しく生きていたいだけの少年は、常識も後悔もかなぐり捨てて、何度でも親友の背中を追いかける! もしよろしければ、とりあえず4~6話までお付き合い頂けたら嬉しいです…! ※ラブコメ要素が強いですが、シリアス展開もあります!※

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

ガイアセイバーズ spin-off -T大理学部生の波乱-

独楽 悠
青春
優秀な若い頭脳が集う都内の旧帝大へ、新入生として足を踏み入れた川崎 諒。 国内最高峰の大学に入学したものの、目的も展望もあまり描けておらずモチベーションが冷めていたが、入学式で式場中の注目を集める美青年・髙城 蒼矢と鮮烈な出会いをする。 席が隣のよしみで言葉を交わす機会を得たが、それだけに留まらず、同じく意気投合した沖本 啓介をはじめクラスメイトの理学部生たちも巻き込んで、目立ち過ぎる蒼矢にまつわるひと騒動に巻き込まれていく―― およそ1年半前の大学入学当初、蒼矢と川崎&沖本との出会いを、川崎視点で追った話。 ※大学生の日常ものです。ヒーロー要素、ファンタジー要素はありません。 ◆更新日時・間隔…2023/7/28から、20:40に毎日更新(第2話以降は1ページずつ更新) ◆注意事項 ・ナンバリング作品群『ガイアセイバーズ』のスピンオフ作品になります。 時系列はメインストーリーから1年半ほど過去の話になります。 ・作品群『ガイアセイバーズ』のいち作品となりますが、メインテーマであるヒーロー要素,ファンタジー要素はありません。また、他作品との関連性はほぼありません。 他作からの予備知識が無くても今作単体でお楽しみ頂けますが、他ナンバリング作品へお目通し頂けていますとより詳細な背景をご理頂いた上でお読み頂けます。 ・年齢制限指定はありません。他作品はあらかた年齢制限有ですので、お読みの際はご注意下さい。

斎藤先輩はSらしい

こみあ
青春
恋愛初心者マークの塔子(とうこ)が打算100%で始める、ぴゅあぴゅあ青春ラブコメディー。 友人二人には彼氏がいる。 季節は秋。 このまま行くと私はボッチだ。 そんな危機感に迫られて、打算100%で交際を申し込んだ『冴えない三年生』の斎藤先輩には、塔子の知らない「抜け駆け禁止」の協定があって…… 恋愛初心者マークの市川塔子(とうこ)と、図書室の常連『斎藤先輩』の、打算から始まるお付き合いは果たしてどんな恋に進展するのか? 注:舞台は近未来、広域ウィルス感染症が収束したあとのどこかの日本です。 83話で完結しました! 一話が短めなので軽く読めると思います〜 登場人物はこちらにまとめました: http://komiakomia.bloggeek.jp/archives/26325601.html

あなたの内心は僕にはわからないけど・・・

soma08
青春
誰もが本心を持っていることを題材にした小説です。 そのことを僕は、わからないけどとあることをきっかけに奇跡が起こるかも?

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

処理中です...