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嘔吐-f
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大学内のトイレで嘔吐した場合は、どこかに申告しなければいけないのだろうか。衛生面に関する対処法などには疎いし、当事者ではないので、どうしたものかと毎回腕を組む。今日もまた、トイレの個室であの子が吐きながら泣いている。必死に声を抑えようとしながらも、嘔吐は堪えられないようで、トイレ中にその音が響き渡る。このトイレは大学のほとんど人が通らない校舎の奥にある。私は人が少ないところを好んで選ぶ傾向にあるので、このトイレによく来る。その中で、この子と遭遇する場面が幾度かあった。
初めて遭遇したのは、その子がトイレの個室から出てくるタイミングだった。目が合った時にすぐに分かった。この子は辛い目に遭っていると。虚ろな目、目立つ隈、荒れた唇、雑に束ねられた髪。そして、ボロボロの爪。どこか闇を孕んだような雰囲気に、既視感を覚える。そうだ、過去の私にそっくりなんだ。きっとこの子はここで泣きながら吐いてた。直感した。
その子は私と目が合って直ぐに軽く頭をさげて走り去ってしまった。
ある日、その子が私と同じ授業を、とっていることに気づいた。その子はその子の友達たちと一緒に授業を受けているようで、休憩時間話しているのを見かけた。でも彼女の目は虚ろのままで、上手な愛想笑いをしているようにしか見えなかった。それはきっと、私が過去にそういう風に過ごしていたから。少し気になりつつも、名前も知らない話したことない相手におせっかいをやく趣味はないので、特に気にとめずに過ごすことにした。きっとその子は感情を押し殺している。やり場がなくて内部でぐちゃぐちゃになっている。かつての私のように。
ある日、また例のトイレであの子は泣いていた。今日は何か特別辛いことがあったのか、こらえること無く嘔吐しているようだった。多分屈んでて、足を拳で叩いているような音がする。安易に状況を想像出来てしまうくらいには、私と同じな気がした。別に何をするでもないのに、しばらく私は隣の個室でその子が落ち着くまで待っていた。授業はあったけれど、出席カードは書いたから座ってなくても大丈夫だった。その子は私が見つけてから1時間くらいでトイレから出ていった。私の存在には気づかずに行ったようだ。なんで彼女が落ち着くまで待ってたのか。全然知らない子なのに。答えは間違いなく「過去の私に似ているから」なのだが、似てるからなんなのだと聞かれると、それはまだ分からない。
それから数度、彼女がトイレで吐いている現場に遭遇した。可能な時は傍で彼女が落ち着くの待っていた。気づかれないように。何かやらかしそうになった時には止めに入れるようにという意図も働いていたかもしれない。明確な理由が自分でも分からないので、すこしモヤモヤする気持ちもあったが、結局いつも変わらずこういう対応をしてしまい、慣れてしまった。
ある日、パソコンルームでレポートをしていると、向かいあわせの席にその子が座った。今日の彼女の顔はある程度落ち着いてるような感じではあった。数時間向かいあわせのままお互いの用事をしてる状態が続いていたのだが、突然、その子は息が荒くなってきたようだった。おそらくフラッシュバックだ。何かしらの刺激や影響を受けた時などに起こることが多いが、何も無い時に急に思い出して苦しくなるなんてことがある。今も私はそういうふうになったりする。だから彼女もそんな感じだろうと思った。予想だと、このまま放っておいたら彼女はこの場で息荒らげて周りの人に苦しむ様子を見られてしまう。今まで隠れて1人でこらえて泣いていた彼女が今、大学で過ごしにくくなるか否かの瀬戸際にいる。
おせっかいをやく主義ではない。回復してきているとはいえ、私が優先すべきなのは私。私自身のケア。でも、でも。
放っておけないんだな、他人なのに。
私は立ち上がり、その子に声をかけた。
「ねえ、私と話さない?」
彼女はビックリした様子で私を眺めている。そりゃあそうだ。誰かも知らない女から急に話さないかと声をかけられるなんて。しかもフラッシュバックしてすぐに。彼女は口をパクパクさせながら私を見上げている。私は彼女の手を握り、引っ張って歩き出す。ひたすら無言で引っ張る。彼女に抵抗する素振りはなかったので、振り返らずに、例のトイレまで連れて行った。着いて手を離し、彼女を見ると、彼女は、え?なんでこの場所知ってるの?と言わんばかりの顔をしていた。たいそう驚いているようで。
困惑する彼女に向かって私は話しはじめる。
「君は何に期待して生きているの?」
初めて遭遇したのは、その子がトイレの個室から出てくるタイミングだった。目が合った時にすぐに分かった。この子は辛い目に遭っていると。虚ろな目、目立つ隈、荒れた唇、雑に束ねられた髪。そして、ボロボロの爪。どこか闇を孕んだような雰囲気に、既視感を覚える。そうだ、過去の私にそっくりなんだ。きっとこの子はここで泣きながら吐いてた。直感した。
その子は私と目が合って直ぐに軽く頭をさげて走り去ってしまった。
ある日、その子が私と同じ授業を、とっていることに気づいた。その子はその子の友達たちと一緒に授業を受けているようで、休憩時間話しているのを見かけた。でも彼女の目は虚ろのままで、上手な愛想笑いをしているようにしか見えなかった。それはきっと、私が過去にそういう風に過ごしていたから。少し気になりつつも、名前も知らない話したことない相手におせっかいをやく趣味はないので、特に気にとめずに過ごすことにした。きっとその子は感情を押し殺している。やり場がなくて内部でぐちゃぐちゃになっている。かつての私のように。
ある日、また例のトイレであの子は泣いていた。今日は何か特別辛いことがあったのか、こらえること無く嘔吐しているようだった。多分屈んでて、足を拳で叩いているような音がする。安易に状況を想像出来てしまうくらいには、私と同じな気がした。別に何をするでもないのに、しばらく私は隣の個室でその子が落ち着くまで待っていた。授業はあったけれど、出席カードは書いたから座ってなくても大丈夫だった。その子は私が見つけてから1時間くらいでトイレから出ていった。私の存在には気づかずに行ったようだ。なんで彼女が落ち着くまで待ってたのか。全然知らない子なのに。答えは間違いなく「過去の私に似ているから」なのだが、似てるからなんなのだと聞かれると、それはまだ分からない。
それから数度、彼女がトイレで吐いている現場に遭遇した。可能な時は傍で彼女が落ち着くの待っていた。気づかれないように。何かやらかしそうになった時には止めに入れるようにという意図も働いていたかもしれない。明確な理由が自分でも分からないので、すこしモヤモヤする気持ちもあったが、結局いつも変わらずこういう対応をしてしまい、慣れてしまった。
ある日、パソコンルームでレポートをしていると、向かいあわせの席にその子が座った。今日の彼女の顔はある程度落ち着いてるような感じではあった。数時間向かいあわせのままお互いの用事をしてる状態が続いていたのだが、突然、その子は息が荒くなってきたようだった。おそらくフラッシュバックだ。何かしらの刺激や影響を受けた時などに起こることが多いが、何も無い時に急に思い出して苦しくなるなんてことがある。今も私はそういうふうになったりする。だから彼女もそんな感じだろうと思った。予想だと、このまま放っておいたら彼女はこの場で息荒らげて周りの人に苦しむ様子を見られてしまう。今まで隠れて1人でこらえて泣いていた彼女が今、大学で過ごしにくくなるか否かの瀬戸際にいる。
おせっかいをやく主義ではない。回復してきているとはいえ、私が優先すべきなのは私。私自身のケア。でも、でも。
放っておけないんだな、他人なのに。
私は立ち上がり、その子に声をかけた。
「ねえ、私と話さない?」
彼女はビックリした様子で私を眺めている。そりゃあそうだ。誰かも知らない女から急に話さないかと声をかけられるなんて。しかもフラッシュバックしてすぐに。彼女は口をパクパクさせながら私を見上げている。私は彼女の手を握り、引っ張って歩き出す。ひたすら無言で引っ張る。彼女に抵抗する素振りはなかったので、振り返らずに、例のトイレまで連れて行った。着いて手を離し、彼女を見ると、彼女は、え?なんでこの場所知ってるの?と言わんばかりの顔をしていた。たいそう驚いているようで。
困惑する彼女に向かって私は話しはじめる。
「君は何に期待して生きているの?」
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