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新たな悩み
しおりを挟む「…………ううっ…」
「お嬢様、目が覚めたんですか?」
目が覚めたら見慣れた天井で、屋敷の自室にいた。
どうして部屋にいるのか分からないけれど、それどころじゃない。
頭が、頭が痛いのだ。二日酔いってこんな感じなのか。頭がズキズキして辛い。
前世では二日酔いなんて感じたことなかったけど、今回のことでメイリアの体はお酒に弱いことが今回のことでよくわかった。
詳しくは覚えてないが、随分と飲んでしまった気がする。
「お嬢様? 大丈夫ですか?」
「おえぇ…みず、をちょうだい…」
「は、はい、少々お待ち下さい!」
リアが水差しで水を飲ませてくれた。
「ありがと…」
水を飲むといくらか胃がスッキリした。でも頭はまだ痛いし、食欲もない。
幸い、まだ夏季休暇はあと数日ある。だから今日一日はベッドで休むことにした。
眠りにつくまでは母や父が心配して見に来てくれたが、たかが二日酔いだったので大丈夫だと言い切った。
そしてそのあと、昨日の疲れもあってかすぐに眠りにつくことができた。
──そのとき、夢を見た。
前世の夢だ。今はもう前世の自分の名前すら思い出せなくなっていたけど、夢の中の景色は鮮明だった。
両親や友人に、好きだった俳優とか、映画とか。思い出したくない、私が今まで裏切られてきたクズ男まで出てきて最悪な気分にもなった。
でも、見たのはそれだけじゃなかった。街中の広告で流れてきたのは今世で見慣れた顔ぶれたち。
エドワードやその取り巻き達、レオナルド、ヒロインにメイリア。そして、クロムの姿。その下には大きく2と書いてあった。
ああ、私はここで見たんだ、クロムのことを。
そのあと流れ込んてきたのは2の内容。
ハッピーエンドを辿ったはずのヒロインが出会ったのはクロム。クロムは復活したメイリアを利用し、この国を手に入れようとする──
「悪役じゃないの!!」
メイリアがクロムの手を取るシーンで目が覚めた。勢いで飛び起きるとびっしょりと大量の汗をかいていたことに気づく。
「悪役?」
着替えなければと思ったとき、横から声が聞こえた。それはよく聞き慣れた、私の親友の声。
「ミリア!!?」
私がそちらを見ると、いつもと変わらないミリアの姿があった。久しぶりのミリアの姿が懐かしくて、何かがこみ上げてくる。
思わず抱きついてしまった。
「メイリア、本当に久しぶりね…会えて嬉しいわ」
「私も会えて嬉しいわミリア!」
「メイリアのところに行ったらまさか二日酔いで倒れているだなんて、驚いたわ。もう起き上がって大丈夫なの?」
「え、ええ…もう大分落ち着いたわ」
「なら良かったわ」
「…と、ところでミリア、忙しかったの? 連絡もくれないなんてひどいわ」
「ええ…それは本当にごめんなさい。メイリアからの手紙は読んだのだけれど、忙しくてどうしても返信できなくて…」
そうは言ってるけど忙しかった理由を話してはくれない。ミリアの握りしめている手は震えているにも見える。
「ねぇミリア、何があったの? 私で良ければ…」
「………いいえ、そんなもの無いわ。メイリアの気持ちは嬉しいけれど、ただ忙しかったの」
「そう…分かったわ」
なにか隠しているのは確かだけれど、ミリアが隠しておきたい以上詳しくは聞けない。
ならば私は待つだけだ。ミリアが話してくれることを期待して。ただ黙って傍観するわけにはいかないから、こちらはこちらで動いてみようと思うが。
「…そういえばさっきの悪役ってなんのこと?」
「へっ!?」
「変な夢でも見たの?」
「え、ええ…そうね、とても変な夢だったわ…」
「ふふ、メイリアったら」
「あはは…ミ、ミリアこそ以前おかしな夢を見たって言ったことあったでしょ?」
「ああ…そんなこともあったわね。…それよりもメイリア、レオナルドのことは解決したのかしら?」
レオナルド─その言葉を聞いてドキリとする。
昨夜のことを明確に覚えている訳じゃない。けれど私がレオナルドに馬鹿にみたいに不満をぶつけたことは覚えている。
「……解決なんて…してないわ」
「……そう」
またもや重い空気になってしまった。
この空気を打開しようとしたとき、部屋の扉がバンっと開いた。
「メイリア! 大変だ!」
「お父様!?」
「まぁ公爵様、どうなされたのですか?」
「皇太子殿下から、大量のプレゼントが届いたんだ!」
「皇太子殿下から?」
「メイリア、あなたいつの間に皇太子殿下とお知り合いになったの?」
「あはは…ちょっと昨日ね」
昨日のことを思い出して遠い目をする。
昨日のことはあまり思い出したくない。これをもしマリカに知られたら…絶対面倒くさいことになる。
「はぁ……」
「す、凄いわね」
玄関には、大量のプレゼントが山積みになっており、使用人たちが慌てて選別している。しかもまだまだ運ばれてくる様子だ。
近くにある箱を開けると、きらびやかな宝石のネックレスが入っていた。公爵家でもこんな豪華なもの買ったら暫くは散財できないくらい高価なものだろう。
「これ、どうしよう…」
「お嬢様、お花はどうしますか?」
そうして手渡された花束は、私が好きな白い花を使っているし、メッセージカードか入っていた。
カードを見ると『近々、貴女をお茶会にご招待しますね』と書かれていた。
そんなの断れるわけないじゃないの!
でも私は権力に負けない。よし、断ろう。
「ミリア、よかったら何か持っていかない?」
「え? でもこれはメイリア宛よ。私はいらないわ」
「いいからいいから、何か一つくらい気に入るのがあるでしょ」
「メイリアったら…処分したいのが目に見えてるわよ」
「えー、そんなわけないじゃない」
「皇太子殿下に失礼でしょう? メイリアが全部受け取って」
「そうだぞメイリア、ミリア嬢も困るだろう」
「う、はーい…」
だってこんな大量に貰ってもどう使えばいいのよ。公爵家だからドレスもアクセサリーも困ってないのに、こんなに貰ったら逆に困ってしまう。
あのときのレオナルドみたいに一つだけだったら。
私は去年の誕生日に、レオナルドからイヤリングを貰った。一つだけだったけど、一つだけだったからこそ、それを大事にしようって思えた。今でもたまに使ってるし、今は宝物として大切に保管してある。
多分クロムはそういうのは無いんだろう。ドレスもアクセサリーも消耗品だからこそ大量に送ったんだろうけど、もったいない精神がある私は一つで充分なのだ。
「皆、これは全部衣装室に置いといて」
「え? 中身は見ないんですか?」
「こんな大量の中身見るだけでもキツイわ。開ける方も大変だし、どうせ全部使えるわけではないから」
「はい、かしこまりました」
「ミリア、部屋に戻りましょ」
「ええ」
その後はミリアと他愛もない話をしながらお茶を愉しんだ。その頃には二日酔いも大分落ち着いていたので、のんびり楽しむことができた。
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