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10話 天使能力テスト、開始。 2
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「次は飛んでみよう」
俺は天使説明書を見ながら言う。
「その立派な羽を使うだけだし、結構簡単に飛べるんじゃないか?」
「簡単に言いますね・・・・まあ、やってみます」
エルはしゃがみこんで力を溜める。
「むむむむ・・・・・ほっ!!」
そしておもいっきりジャンプした。が、すぐに着地する。
「ちょっと飛べました・・・・!」
「いやジャンプしただけだが。なんなら常人より飛べてないが」
そんな『なん・・・・だと・・・・!?』みたいな顔されても。
「一回その場で、羽を動かしてみてくれ」
羽を動かす感覚を覚えればそのまま飛べるかもしれない。エルは頷き、羽を動かすことに集中する。
すると少しずつ羽は揺れ動き始めた。
「お・・・・!いい感じだ。もっとはばたかせるようにに動かすんだ!」
「むぅー!おりゃー!うぐー!」
半ばやけくそ気味の声を上げるエル。掛け声に呼応するように、白い羽ははばたき始める。その姿からは、鳥のような力強さはではなく、優しく包み込むかのような神秘さを感じられた。さすが天使、といったところか。
「エル、そのまま飛ぶんだ!飛べ!そのための羽が、お前にはもうついてるんだ!」
俺はそれっぽい言葉でエルを激励し、背中を押す。
エルは羽を徐々に大きく羽ばたかせた。次第に風が巻き起こり、周囲の草木を薙ぐ。
これはいけるんじゃないか?気持ちが沸き立つ。
そして、エルはついに飛び上がりーーーーーーすぐに着地した。
さっきとほぼ同じ光景だった。ただのジャンプだった。だというのに、エルは目をキラキラさせてこちらを向く。
「と・・・・べた・・・・・!?」
「いやいやいや飛べてない飛べてない。ぜんっぜん飛べてないから」
エルは納得いってないかのように大きく首を傾げた。
さっきからなぜあれで飛んだ気になっているかがわからない。
俺はため息をついた。あの無駄に飛べそう感は何だったんだ。俺の期待を返して欲しい。
しかし・・・・・・少しでも浮ければと思ったのだが、全く浮くことすらできないとは。
地球滅亡に備えて、飛翔能力は聖なる弓と並んで必要になる可能性が高い。滅亡を阻止するために、はるか上空に出向かなきゃいけないかもしれないし、この町から遠い場所にその震源地があるかもしれない。まあ、俺に天使の育成を頼んでいる時点で、地球の裏側だとかはるか彼方まで出向かなきゃいけないということはない気はするが・・・・・。とにかく飛べるようにすることは必須だと思うから、やり方を考える必要があるな。
「飛ぶっていうイメージが足りないのかね・・・・一度崖から落としてみたら本能で飛べるかも・・・・」
「こ、この人目的のためなら平気で人を殺すタイプだ・・・・!」
「冗談だよ」
さすがの俺もそこまで鬼じゃない。正直崖から落としたら飛べるだろうとは思っているが、人道的じゃないから駄目だ。
とりあえず、今日はエルの能力の現状を知ることが目的だから、飛翔能力については置いておいて次の能力の検証に移ることにした。
「あとバリアと輪っかだ。まずバリアだな・・・・」
俺は天使説明書を開く。これも役に立ちそうだ。説明書を見ると、どうやら一口にバリアといっても、特定の形を持つものではないらしい。使いこなせば、常に自分の形にバリアーを貼り続けることも可能なようだ。天使の基本的な防御能力、みたいな書かれ方だった。
エルはというと、脱力してゾンビみたいな風貌になっていた。
「いつになったら終わるんでしょうか・・・・・今にも内臓が溶けだしそうです・・・・」
こいつ・・・・。まあ、この異常な体力のなさ(根性のなさ)も毎日外に連れ出していれば少しずつ改善していくだろう。
「わかったわかった。あと10分で終わらせる、約束する」
「ほんとですか・・・・!もちろん、ご褒美もあるんですよね?」
図々しいセリフを吐きやがるやつだが、モチベーションの維持に繋がるならご褒美をちらつかせるのも大事だろう。
「今日夕方に琴葉がお菓子をもってうちに来るらしいぞ」
「おおっ!!こうしちゃいられません、早く帰ってお菓子を食べる準備をしないと!」
急に元気を取り戻しその場から走り出そうとするエルの首根っこを、俺はがっしりと掴む。
「もちろん、あと10分ちゃんとやらなかったらお菓子はなしだけどな?あとお菓子の準備ってなんだよ」
「い、いやだなーもちろんちゃんとやりますよ?ちょっと走りたくなっちゃっただけで」
「ほら、ぱっとやってぱっと終わらせるぞ。まずぱっとバリアを出す!」
「もう、強引なんですから・・・・バリア行きます。はっ!」
エルは両手を前に突き出し、息を吐いた。するとその両手の前面に四角い膜のようなものが現れる。大きさは2メートル四方くらいで、エルをすっぽり覆える大きさだった。まさかの、一発成功だった。
「あ、できました」
「ま、まじか・・・・やればできるじゃんエル!」
二人とも、思わず笑みがこぼれる。
「すごいな!どうなってんだこれ?」
透明なんだけど、ガラスのようになっていて、目で見てバリアだとわかる。俺は感触を確かめようと手をバリアにくっつける・・・・・と同時にそれは音を立てて崩れた。
「「あ・・・・・」」
俺とエルは同時に間の抜けた声を出す。バリアは粉々に崩れ、地面に散らばりやがて消えていった。
二人は顔を見合わせる。
何を思ってか、エルは俺に指を突き付けてきた。
「壊したー!」
「いや壊れるなよ!触ったぐらいで!」
エルが作ったバリアは、ガラスよりももろいバリアだった。いやもうバリアじゃない何かだよそれは。ただの透明なもろい板だよ。
「ま、まさか春秋さんが壊したのにまたバリア貼らせるつもりですか・・・・!?」
「いやいいよもう、次いこう。でも俺のせいにすんな」
なぜか俺をとがめてくるエル。友人の部屋のものを、ちょっと触っただけなのに壊してしまった時の感情に似ている。俺は悪くない!いやそのパターンは俺もちょっと悪い。
ともかく、俺は最後の輪っか投げについて説明書で調べる。ふむふむ、輪っかを頭上から外して投げる。シンプルなものみたいだ。輪っかは思い通りに操れるらしい。
「その頭の上の輪っか、外せるか?」
「ん・・・・あ、とれました」
思った以上にすんなり取れた。取り外し可能で便利なのはいいが、なんで頭の上についてるんだろうか・・・・天使っぽさの演出?
「えい。・・・・・おー、とんでくとんでく!あ、戻ってきた」
エルの手から離れた天使の輪は横に回転しながら真っ直ぐとんでいき、10メートルくらいで折り返してエルのもとへと帰ってきた。そして吸い込まれるようにエルの手にすぽっと収まる。
「へー、ブーメランみたいなものか」
初めてまともに能力を使えている気がする。今の段階では能力というか道具って感じだが。
「これ結構楽しいですね」
エルは輪投げが気に入ったのか、天使の輪を何回も投げて遊んでいた。確かに、あんな超高性能なブーメラン会ったら楽しいだろうな。
「あっ・・・・・春秋さん!そっち行きました!」
「へ?」
横を見ると天使の輪が俺めがけて飛んできていた。存外スピードが速く、よけるのが間に合わない。
「おわあああ!」
ぶつかる感覚はなかった。天使の輪は俺をすり抜け、その輪の中にすっぽりと俺を入れてしまったのだ。同時に、それは俺を腕ごときつく締め付けた。
「うわっ!?なんだこれ!く、うぅ・・・・!」
なんとか拘束から逃れようと足掻くが、締め付ける力は強くびくともしない。
「春秋さん!」
エルが駆け寄ってくる。
「ちょ、エル、これとれない!解除してくれ!」
「全然外せないですか?」
「ああ、俺の力じゃ無理みたいだ。エルなら自由に操れるはずだから、これをとってくれ!」
「へえ・・・・そうなんですね」
「・・・・・エル?」
エルは特に俺の拘束を解こうとはせず・・・・・ニタァといやらしい笑みを浮かべた。
「ふーん、春秋さんそれ外せないんですねぇ。うぷぷ。似合ってますよそれ」
「おい、エルてめえ、どういうつもりだ・・・・?」
「そうカッカしちゃダメですよ。私じゃないとそれ外せないんですから。ご機嫌とりしたほうがいいんじゃないんですかー?」
楽しそうに俺の体をちょんちょんしてくるエル。こいつ、ここぞとばかりに調子に乗りやがって・・・・・!
「お前これ外れたら覚えておけよ、タダじゃ済まさんぞ・・・・!」
「えぇ、外せたらいいですねえ!そしたらどんな罰だって特訓だって受けてあげますよそりゃ?まあ外せたら、ですけ、ど・・・・ね・・・・・・え??」
「あ」
気づけば天使の輪は消失していて、俺は解放されていた。エルは天使の輪があったはずの場所を見つめて硬直する。冷や汗をダラダラと垂らしながら。
俺は拘束から解放された腕で、手をポキポキと鳴らした。
「それで、拘束を外せたらなんだっけ?なあ、エル」
「ごごごごめんなさい今の奴はジョークっていうかお戯れっていうかあはは、やだなあ春秋さん・・・・!」
あわあわと目を泳がせるエルとニッコリ笑顔の俺。俺は笑顔のまま無言でにじり寄る。
「すみませんごめんなさい許してくださいぃ!!」
「だーめ」
許しを請いながら泣き叫ぶエルのこめかみを、容赦なくグーでぐりぐりする。
「あがががががが許して許して・・・・・・!!!!!」
「天使の輪は非常時以外使用禁止!わかったな?」
「わ、わかりました!わかりました!」
「よし」
俺はエルをぐりぐり地獄から解放した。エルはその場にへたり込んでぐりぐりされた場所を抑える。
「やっぱり鬼です、春秋さんは鬼です・・・・・」
「すぐ解除しなかった自分を恨め。ほら、今日の特訓はもう終わりだから」
「長かった・・・・」
「うん長くはなかったけど」
公園滞在時間、約30分。小学生の一コマ分の授業の方が長い。
俺は咳払いをして喉の調子を整え、周囲にに人がいないことを確認してから高らかに宣言した。
「これで天使第一次能力試験を終了する!解散!帰宅!」
「いぇっさー!・・・・『第一次』?」
俺の宣言とともに、天使能力試験は一先ず幕を閉じた。
まだまだ使い物にならないものばかりで先行きが不安だが・・・・まあ、特訓すれば何とかなるだろう。思うに、能力を習得するのはそんなに難しくないんじゃなかろうか。そうじゃなければこれといったヒントもなしに、天界の奴らから『育成しろ』とだけ言われて天使を託されて、それで地球滅亡の危機を救えだなんて無理ゲーすぎるし。・・・なんてのは、楽観しすぎだろうか。
とりあえず今日の四つの能力は一回目の危機に何とか間に合わせたいところだ。
唯一現状でも使える天使の輪も、結構使い道がありそうだ。図らずも身を持って体験することになったが、あの拘束能力はなかなかいい。
家に帰ってから、エルは速攻で眠りについた。今日の外出時間は40分。こいつ体力上限はどうなっているんだ。もちろん、力を使うのに体力を消費したのかもしれないが・・・・。
エルが起きたのは、夕方ごろ、お菓子を携えて琴葉がやってきた時だった。
俺は天使説明書を見ながら言う。
「その立派な羽を使うだけだし、結構簡単に飛べるんじゃないか?」
「簡単に言いますね・・・・まあ、やってみます」
エルはしゃがみこんで力を溜める。
「むむむむ・・・・・ほっ!!」
そしておもいっきりジャンプした。が、すぐに着地する。
「ちょっと飛べました・・・・!」
「いやジャンプしただけだが。なんなら常人より飛べてないが」
そんな『なん・・・・だと・・・・!?』みたいな顔されても。
「一回その場で、羽を動かしてみてくれ」
羽を動かす感覚を覚えればそのまま飛べるかもしれない。エルは頷き、羽を動かすことに集中する。
すると少しずつ羽は揺れ動き始めた。
「お・・・・!いい感じだ。もっとはばたかせるようにに動かすんだ!」
「むぅー!おりゃー!うぐー!」
半ばやけくそ気味の声を上げるエル。掛け声に呼応するように、白い羽ははばたき始める。その姿からは、鳥のような力強さはではなく、優しく包み込むかのような神秘さを感じられた。さすが天使、といったところか。
「エル、そのまま飛ぶんだ!飛べ!そのための羽が、お前にはもうついてるんだ!」
俺はそれっぽい言葉でエルを激励し、背中を押す。
エルは羽を徐々に大きく羽ばたかせた。次第に風が巻き起こり、周囲の草木を薙ぐ。
これはいけるんじゃないか?気持ちが沸き立つ。
そして、エルはついに飛び上がりーーーーーーすぐに着地した。
さっきとほぼ同じ光景だった。ただのジャンプだった。だというのに、エルは目をキラキラさせてこちらを向く。
「と・・・・べた・・・・・!?」
「いやいやいや飛べてない飛べてない。ぜんっぜん飛べてないから」
エルは納得いってないかのように大きく首を傾げた。
さっきからなぜあれで飛んだ気になっているかがわからない。
俺はため息をついた。あの無駄に飛べそう感は何だったんだ。俺の期待を返して欲しい。
しかし・・・・・・少しでも浮ければと思ったのだが、全く浮くことすらできないとは。
地球滅亡に備えて、飛翔能力は聖なる弓と並んで必要になる可能性が高い。滅亡を阻止するために、はるか上空に出向かなきゃいけないかもしれないし、この町から遠い場所にその震源地があるかもしれない。まあ、俺に天使の育成を頼んでいる時点で、地球の裏側だとかはるか彼方まで出向かなきゃいけないということはない気はするが・・・・・。とにかく飛べるようにすることは必須だと思うから、やり方を考える必要があるな。
「飛ぶっていうイメージが足りないのかね・・・・一度崖から落としてみたら本能で飛べるかも・・・・」
「こ、この人目的のためなら平気で人を殺すタイプだ・・・・!」
「冗談だよ」
さすがの俺もそこまで鬼じゃない。正直崖から落としたら飛べるだろうとは思っているが、人道的じゃないから駄目だ。
とりあえず、今日はエルの能力の現状を知ることが目的だから、飛翔能力については置いておいて次の能力の検証に移ることにした。
「あとバリアと輪っかだ。まずバリアだな・・・・」
俺は天使説明書を開く。これも役に立ちそうだ。説明書を見ると、どうやら一口にバリアといっても、特定の形を持つものではないらしい。使いこなせば、常に自分の形にバリアーを貼り続けることも可能なようだ。天使の基本的な防御能力、みたいな書かれ方だった。
エルはというと、脱力してゾンビみたいな風貌になっていた。
「いつになったら終わるんでしょうか・・・・・今にも内臓が溶けだしそうです・・・・」
こいつ・・・・。まあ、この異常な体力のなさ(根性のなさ)も毎日外に連れ出していれば少しずつ改善していくだろう。
「わかったわかった。あと10分で終わらせる、約束する」
「ほんとですか・・・・!もちろん、ご褒美もあるんですよね?」
図々しいセリフを吐きやがるやつだが、モチベーションの維持に繋がるならご褒美をちらつかせるのも大事だろう。
「今日夕方に琴葉がお菓子をもってうちに来るらしいぞ」
「おおっ!!こうしちゃいられません、早く帰ってお菓子を食べる準備をしないと!」
急に元気を取り戻しその場から走り出そうとするエルの首根っこを、俺はがっしりと掴む。
「もちろん、あと10分ちゃんとやらなかったらお菓子はなしだけどな?あとお菓子の準備ってなんだよ」
「い、いやだなーもちろんちゃんとやりますよ?ちょっと走りたくなっちゃっただけで」
「ほら、ぱっとやってぱっと終わらせるぞ。まずぱっとバリアを出す!」
「もう、強引なんですから・・・・バリア行きます。はっ!」
エルは両手を前に突き出し、息を吐いた。するとその両手の前面に四角い膜のようなものが現れる。大きさは2メートル四方くらいで、エルをすっぽり覆える大きさだった。まさかの、一発成功だった。
「あ、できました」
「ま、まじか・・・・やればできるじゃんエル!」
二人とも、思わず笑みがこぼれる。
「すごいな!どうなってんだこれ?」
透明なんだけど、ガラスのようになっていて、目で見てバリアだとわかる。俺は感触を確かめようと手をバリアにくっつける・・・・・と同時にそれは音を立てて崩れた。
「「あ・・・・・」」
俺とエルは同時に間の抜けた声を出す。バリアは粉々に崩れ、地面に散らばりやがて消えていった。
二人は顔を見合わせる。
何を思ってか、エルは俺に指を突き付けてきた。
「壊したー!」
「いや壊れるなよ!触ったぐらいで!」
エルが作ったバリアは、ガラスよりももろいバリアだった。いやもうバリアじゃない何かだよそれは。ただの透明なもろい板だよ。
「ま、まさか春秋さんが壊したのにまたバリア貼らせるつもりですか・・・・!?」
「いやいいよもう、次いこう。でも俺のせいにすんな」
なぜか俺をとがめてくるエル。友人の部屋のものを、ちょっと触っただけなのに壊してしまった時の感情に似ている。俺は悪くない!いやそのパターンは俺もちょっと悪い。
ともかく、俺は最後の輪っか投げについて説明書で調べる。ふむふむ、輪っかを頭上から外して投げる。シンプルなものみたいだ。輪っかは思い通りに操れるらしい。
「その頭の上の輪っか、外せるか?」
「ん・・・・あ、とれました」
思った以上にすんなり取れた。取り外し可能で便利なのはいいが、なんで頭の上についてるんだろうか・・・・天使っぽさの演出?
「えい。・・・・・おー、とんでくとんでく!あ、戻ってきた」
エルの手から離れた天使の輪は横に回転しながら真っ直ぐとんでいき、10メートルくらいで折り返してエルのもとへと帰ってきた。そして吸い込まれるようにエルの手にすぽっと収まる。
「へー、ブーメランみたいなものか」
初めてまともに能力を使えている気がする。今の段階では能力というか道具って感じだが。
「これ結構楽しいですね」
エルは輪投げが気に入ったのか、天使の輪を何回も投げて遊んでいた。確かに、あんな超高性能なブーメラン会ったら楽しいだろうな。
「あっ・・・・・春秋さん!そっち行きました!」
「へ?」
横を見ると天使の輪が俺めがけて飛んできていた。存外スピードが速く、よけるのが間に合わない。
「おわあああ!」
ぶつかる感覚はなかった。天使の輪は俺をすり抜け、その輪の中にすっぽりと俺を入れてしまったのだ。同時に、それは俺を腕ごときつく締め付けた。
「うわっ!?なんだこれ!く、うぅ・・・・!」
なんとか拘束から逃れようと足掻くが、締め付ける力は強くびくともしない。
「春秋さん!」
エルが駆け寄ってくる。
「ちょ、エル、これとれない!解除してくれ!」
「全然外せないですか?」
「ああ、俺の力じゃ無理みたいだ。エルなら自由に操れるはずだから、これをとってくれ!」
「へえ・・・・そうなんですね」
「・・・・・エル?」
エルは特に俺の拘束を解こうとはせず・・・・・ニタァといやらしい笑みを浮かべた。
「ふーん、春秋さんそれ外せないんですねぇ。うぷぷ。似合ってますよそれ」
「おい、エルてめえ、どういうつもりだ・・・・?」
「そうカッカしちゃダメですよ。私じゃないとそれ外せないんですから。ご機嫌とりしたほうがいいんじゃないんですかー?」
楽しそうに俺の体をちょんちょんしてくるエル。こいつ、ここぞとばかりに調子に乗りやがって・・・・・!
「お前これ外れたら覚えておけよ、タダじゃ済まさんぞ・・・・!」
「えぇ、外せたらいいですねえ!そしたらどんな罰だって特訓だって受けてあげますよそりゃ?まあ外せたら、ですけ、ど・・・・ね・・・・・・え??」
「あ」
気づけば天使の輪は消失していて、俺は解放されていた。エルは天使の輪があったはずの場所を見つめて硬直する。冷や汗をダラダラと垂らしながら。
俺は拘束から解放された腕で、手をポキポキと鳴らした。
「それで、拘束を外せたらなんだっけ?なあ、エル」
「ごごごごめんなさい今の奴はジョークっていうかお戯れっていうかあはは、やだなあ春秋さん・・・・!」
あわあわと目を泳がせるエルとニッコリ笑顔の俺。俺は笑顔のまま無言でにじり寄る。
「すみませんごめんなさい許してくださいぃ!!」
「だーめ」
許しを請いながら泣き叫ぶエルのこめかみを、容赦なくグーでぐりぐりする。
「あがががががが許して許して・・・・・・!!!!!」
「天使の輪は非常時以外使用禁止!わかったな?」
「わ、わかりました!わかりました!」
「よし」
俺はエルをぐりぐり地獄から解放した。エルはその場にへたり込んでぐりぐりされた場所を抑える。
「やっぱり鬼です、春秋さんは鬼です・・・・・」
「すぐ解除しなかった自分を恨め。ほら、今日の特訓はもう終わりだから」
「長かった・・・・」
「うん長くはなかったけど」
公園滞在時間、約30分。小学生の一コマ分の授業の方が長い。
俺は咳払いをして喉の調子を整え、周囲にに人がいないことを確認してから高らかに宣言した。
「これで天使第一次能力試験を終了する!解散!帰宅!」
「いぇっさー!・・・・『第一次』?」
俺の宣言とともに、天使能力試験は一先ず幕を閉じた。
まだまだ使い物にならないものばかりで先行きが不安だが・・・・まあ、特訓すれば何とかなるだろう。思うに、能力を習得するのはそんなに難しくないんじゃなかろうか。そうじゃなければこれといったヒントもなしに、天界の奴らから『育成しろ』とだけ言われて天使を託されて、それで地球滅亡の危機を救えだなんて無理ゲーすぎるし。・・・なんてのは、楽観しすぎだろうか。
とりあえず今日の四つの能力は一回目の危機に何とか間に合わせたいところだ。
唯一現状でも使える天使の輪も、結構使い道がありそうだ。図らずも身を持って体験することになったが、あの拘束能力はなかなかいい。
家に帰ってから、エルは速攻で眠りについた。今日の外出時間は40分。こいつ体力上限はどうなっているんだ。もちろん、力を使うのに体力を消費したのかもしれないが・・・・。
エルが起きたのは、夕方ごろ、お菓子を携えて琴葉がやってきた時だった。
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