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9話 天使能力テスト、開始。 1
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「これより、天使能力試験を行う!」
青空の下、俺は高らかに宣言した。
ここは近所の公園。平日の午前中だからか、俺とエル以外に人はいなかった。エルは、昨日琴葉がくれたお下がりの学校指定ジャージを着て、やけにやつれた顔をしていた。
「教官、疲れたので帰ってもいいですか?」
「まだ何もしてないのに勝手に疲れるな!とりあえずこれでも飲め!」
俺はエルにスポーツドリンクを手渡す。家から公園までちょびっと歩いただけとはいえ、真夏だからな。水分補給は大事だ。
今日はエルが現状、天使の能力をどれだけ扱えるのか、試すのが目的だ。琴葉も来たがっていたが、家の用事で来れないらしい。
今日これを実行するに当たって、俺は事前にあのデバイスを使っていくつか確認をとっていた。
デバイスを使って通話を繋げると、前回と同じような声の女性が出た。
『お電話ありがとうございます。こちら天界受付センターです』
『あ、横峯です。質問があるんですけど、まず、天使の羽とかっていうのは俺以外には見えないんですよね?』
『はい、普通の人には見えないように認識阻害が働いています。見ることができるのは貴方と天使くらいのものです』
『わかりました・・・・ではもう一つ。天使が使う能力、例えば"聖なる弓"とかも普通の人には見えないですか?』
『はい、見えません』
そんな感じで、デバイスの向こう側の人は、結構普通に質問に答えてくれた。
やはり、俺以外には天使の羽とかは見えていなかった。それを最初から教えてくれれば、琴葉にめんどくさい勘違いされなくて済んだものを・・・・。しかし、あちらは自主的には教えてくれないが聞いたら教えてくれるようなことも多そうだ、ということがわかったのは収穫だ。
さて、エルが能力を使おうが、自分を宙に浮かせたりさえしなければ周りに見られて騒ぎになることはないということがわかった。それで安心して、外での訓練を決行することにしたのだ。
俺は手に持った天使説明書のページをめくる。
「えーと、まずは"聖なる弓"にするか。エル、これを出してみてくれ」
俺は説明書に描かれた、弓を引く天使の絵をエルに見せた。
「出すっていったって・・・・え、何もないところから弓を出すんですか?普通に考えて無理ですよね?」
「めちゃくちゃ常識的な反応を返すな!俺だって自分に疑問抱きながらやってんだ!つべこべ言わずやってみる!」
「ひいい・・・・」
エルもそうなんだろうが、訳が分からないのは俺も同じだ。しかし、すべてがわけわからなくて、すべてが常識はずれなこの状況だ。とにかくやってみるしか道はない。
「とりあえず、弓を構えるしぐさをしてみよう」
「は、はあ・・・・・こう、ですか?」
エルはぎこちなくそれっぽいポーズをとる。ポーズをとっただけでは発動はしないか。
「よし。そしてイメージするんだ。弓に矢をセットして、引くイメージで」
「むむむむむむ・・・・・・・」
エルは目をつむり、イメージを膨らませる。さあ、何か起きるか・・・・?
俺は彼女の手の先を見つめる。すると、なにか光のようなものが湧いているのが見えた。
「おお・・・・?」
少しずつ光は大きくなっていって、そしていくつかの光の玉がエルの手の周りをうごめき始めた。
「も、もうすこしだエル!弓をイメージして、形づくるんだ!」
「はああああああ!」
どんどん光の量が増え、何かの形を作ろうとしていく。これはいける!初日にしてまさかのマスターか!?
しかし、突然光は全て霧散した。
「え・・・っ!?ど、どうしたエル?」
エルは構えていた手をおろしてこちらを向き、腕で額の汗を拭う。
「ふぅー、なんかこれ疲れますねー」
「いや、もうちょっとだったぞ!?弓の形作れそうだったし、もう少し頑張れよ!」
「えー・・・・でもなんか体力消耗するというか、なんか吸われていったんで・・・・・。この能力は使わない方がいいですね!」
めちゃくちゃ能天気なことを言い放つ天使。俺は頭を抱えた。
「お前な・・・この”聖なる弓”は一番地球滅亡回避に使えそうだから覚えてほしいんだが・・・・まあいいや」
もう少し訓練すれば使いこなせそうだ、ということがわかっただけでも収穫だ。
俺はエルの肩をがっしり掴み、にっこりと笑う。
「あとはお前の頑張り次第だな」
「ま、まあ頑張っても無理なことはありますよねー」
エルは目をそらしまくりながら言う。うーむ、この逃げ腰な性格もある程度直さなければ、巨大な敵と戦うときに足を引っ張るかもしれんな。巨大な敵が出てくるかは定かではないが。
「今日はもう終わりですよね?私頑張ったから、ハンバーグが食べたいです!」
「いやいや、まだ終わらんぞ」
「え・・・もう十分やったじゃないですか!めっちゃ弓構えるポーズやりましたよ、めっちゃ疲れましたよ!?」
「まだ一つの能力しか試してないじゃん。少なくともあと”飛翔能力”、”バリア”、”光の輪”は試さないとな!」
「そ、そんなぁ・・・・私の体が皮と骨だけになるまで酷使つもりだこの人・・・・」
エルはなぜか泣きながら俺を鬼教官のように言っているが、公園に来てからまだ10分ほどしかたっていないし、今日中にできるだけエルが現状できることを知っておきたい。
天使能力試験はまだまだ続く。
青空の下、俺は高らかに宣言した。
ここは近所の公園。平日の午前中だからか、俺とエル以外に人はいなかった。エルは、昨日琴葉がくれたお下がりの学校指定ジャージを着て、やけにやつれた顔をしていた。
「教官、疲れたので帰ってもいいですか?」
「まだ何もしてないのに勝手に疲れるな!とりあえずこれでも飲め!」
俺はエルにスポーツドリンクを手渡す。家から公園までちょびっと歩いただけとはいえ、真夏だからな。水分補給は大事だ。
今日はエルが現状、天使の能力をどれだけ扱えるのか、試すのが目的だ。琴葉も来たがっていたが、家の用事で来れないらしい。
今日これを実行するに当たって、俺は事前にあのデバイスを使っていくつか確認をとっていた。
デバイスを使って通話を繋げると、前回と同じような声の女性が出た。
『お電話ありがとうございます。こちら天界受付センターです』
『あ、横峯です。質問があるんですけど、まず、天使の羽とかっていうのは俺以外には見えないんですよね?』
『はい、普通の人には見えないように認識阻害が働いています。見ることができるのは貴方と天使くらいのものです』
『わかりました・・・・ではもう一つ。天使が使う能力、例えば"聖なる弓"とかも普通の人には見えないですか?』
『はい、見えません』
そんな感じで、デバイスの向こう側の人は、結構普通に質問に答えてくれた。
やはり、俺以外には天使の羽とかは見えていなかった。それを最初から教えてくれれば、琴葉にめんどくさい勘違いされなくて済んだものを・・・・。しかし、あちらは自主的には教えてくれないが聞いたら教えてくれるようなことも多そうだ、ということがわかったのは収穫だ。
さて、エルが能力を使おうが、自分を宙に浮かせたりさえしなければ周りに見られて騒ぎになることはないということがわかった。それで安心して、外での訓練を決行することにしたのだ。
俺は手に持った天使説明書のページをめくる。
「えーと、まずは"聖なる弓"にするか。エル、これを出してみてくれ」
俺は説明書に描かれた、弓を引く天使の絵をエルに見せた。
「出すっていったって・・・・え、何もないところから弓を出すんですか?普通に考えて無理ですよね?」
「めちゃくちゃ常識的な反応を返すな!俺だって自分に疑問抱きながらやってんだ!つべこべ言わずやってみる!」
「ひいい・・・・」
エルもそうなんだろうが、訳が分からないのは俺も同じだ。しかし、すべてがわけわからなくて、すべてが常識はずれなこの状況だ。とにかくやってみるしか道はない。
「とりあえず、弓を構えるしぐさをしてみよう」
「は、はあ・・・・・こう、ですか?」
エルはぎこちなくそれっぽいポーズをとる。ポーズをとっただけでは発動はしないか。
「よし。そしてイメージするんだ。弓に矢をセットして、引くイメージで」
「むむむむむむ・・・・・・・」
エルは目をつむり、イメージを膨らませる。さあ、何か起きるか・・・・?
俺は彼女の手の先を見つめる。すると、なにか光のようなものが湧いているのが見えた。
「おお・・・・?」
少しずつ光は大きくなっていって、そしていくつかの光の玉がエルの手の周りをうごめき始めた。
「も、もうすこしだエル!弓をイメージして、形づくるんだ!」
「はああああああ!」
どんどん光の量が増え、何かの形を作ろうとしていく。これはいける!初日にしてまさかのマスターか!?
しかし、突然光は全て霧散した。
「え・・・っ!?ど、どうしたエル?」
エルは構えていた手をおろしてこちらを向き、腕で額の汗を拭う。
「ふぅー、なんかこれ疲れますねー」
「いや、もうちょっとだったぞ!?弓の形作れそうだったし、もう少し頑張れよ!」
「えー・・・・でもなんか体力消耗するというか、なんか吸われていったんで・・・・・。この能力は使わない方がいいですね!」
めちゃくちゃ能天気なことを言い放つ天使。俺は頭を抱えた。
「お前な・・・この”聖なる弓”は一番地球滅亡回避に使えそうだから覚えてほしいんだが・・・・まあいいや」
もう少し訓練すれば使いこなせそうだ、ということがわかっただけでも収穫だ。
俺はエルの肩をがっしり掴み、にっこりと笑う。
「あとはお前の頑張り次第だな」
「ま、まあ頑張っても無理なことはありますよねー」
エルは目をそらしまくりながら言う。うーむ、この逃げ腰な性格もある程度直さなければ、巨大な敵と戦うときに足を引っ張るかもしれんな。巨大な敵が出てくるかは定かではないが。
「今日はもう終わりですよね?私頑張ったから、ハンバーグが食べたいです!」
「いやいや、まだ終わらんぞ」
「え・・・もう十分やったじゃないですか!めっちゃ弓構えるポーズやりましたよ、めっちゃ疲れましたよ!?」
「まだ一つの能力しか試してないじゃん。少なくともあと”飛翔能力”、”バリア”、”光の輪”は試さないとな!」
「そ、そんなぁ・・・・私の体が皮と骨だけになるまで酷使つもりだこの人・・・・」
エルはなぜか泣きながら俺を鬼教官のように言っているが、公園に来てからまだ10分ほどしかたっていないし、今日中にできるだけエルが現状できることを知っておきたい。
天使能力試験はまだまだ続く。
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