僕たちは正義の味方

八洲博士

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 「ああ、待たせちまったかね」
 電話を終えたおばさんは目つきに険を残しながらも私達の話を聞いてくれそうだ。
 最後はけんか腰のやりとりで終わった電話の内容は、私達にはもうダダ漏れだった。
 海外からの観光客向けに竹を使ったイベントを企画する会社がさっきの電話の相手だったのだけど。ここ数年、来日する観光客が減ったところに国内では不要不急な外出を控えさせるほどの高気温な夏が続き。竹の需要が一気に減ったのだという。
びっしりと埋まった予約のほとんどがキャンセルされてしまいイベント会社は大量に抱えた在庫の消化に四苦八苦の真っ最中らしい。ちなみに竹林の管理、といっても大きく育った竹を切り倒して搬出することで丁度いいバランスが取れていたらしく。まだしばらくは、追加の竹は要らないという話だった。
つまり放置された竹林に人の手が入ることは、当分の間ないことになる。
雨後の筍のように、なんて言い回しがあるように。竹は所構わずどんどんと生えてくる。ましてや今年は災害級の雨が度々降っていた。おばさんの竹林は、もう密集状態と言ってもいいくらいに竹が生い茂っていた。
「なんてこと・・・。早急に手を入れないといけないってぇのに。手配の見積もり、経費が・・・」
自分が代表取締役、社長だからと同行したおばさんが頭を抱えているところに悟君が囁く。
「間伐を急ぐなら僕たちもお手伝いをしましょうか。なんなら明日からでも」
「それは有り難いけど。手当たり次第に刈られても困るんだよ。一応、売り物だし」
「あまり太い竹だと切り倒すにも危ないし、運ぶのも大変なんで。手首の太さくらいまでの竹を間伐する、ということでどうでしょう」
「間伐した竹が報酬でいいのなら、その話乗った。お願いできるかい?」
「お願いに来たのはこちらです。よろこんでお引き受けしますよ」
あとは社長さんに竹の切り方、選び方を聞いて一度学園に戻ることになった。
道中、泣きそうだった文化祭委員に細かくアドバイスをしていく悟君。
「鉄パイプのつもりだったのに、材料を竹に変えて大丈夫かな」
「問題ないよ。パンフレットにはすべり台のサイズは書いてあるけど何で作ったかまでは書いてないからね。昔の足場は竹で組んでいたはずだから強度も十分。まあ今のビル工事に使うのは無理があるだろうけど。あと、君はクラスの男子にノコギリの準備、手配するのを忘れずに」
「分かってる。材料の確保が大ごとだけど。お陰で目途がついたよ。ありがとう」
「悟君の話だと男子はみんな、ノコギリを持っているのが前提みたいだけど。そういうものなの?」
「中学の技術の授業で木工を習うからね。カンナやトンカチも全員が教材として買わされてるはずさ」
そういえば悟君も次郎ちゃんもたまにノコギリとかを入れた道具袋を提げて登校しているときがあったっけ。
翌日、件のクラスの男女生徒が例の竹林に向かう姿が見受けられたが男子達の腰にはもれなく同じサイズのノコギリが差し込まれていたとか。
社長のおばさんも学生に丸投げするのは気が引けたのか何度も立ち会ってくれたらしい。
「来たね若者よ。日当たりと風通しを良くするために、切って欲しい竹にはビニール紐を巻いておいたから。数があるけどよろしくねー」
「わかりました。(材料費が掛からないのはいいけど、文化祭に間に合うのかな。これ、かなり量がありそうだけど)」
「竹の切り口でケガをすることが多いから、運ぶ時には気を付けるんだよ。地面の近くを切るように」
「はい、気をつけます。(しゃがんでノコギリ引きか。思った以上に腰がキツイそうだ。絶対筋肉痛になるよね、これ)」
竹を切る前から冷や汗をかく生徒達だったがすでに退路は無い。そして時間もなかった。



広い竹林に密生した竹は悟君の想定を上回り、「日当りと風通しを良くする」ために切り出した竹の量は教室に収まらないほどの山になった。社長さんの目的は今後を見据えた竹の育成環境を整えることだ。必要な竹材を確保したからといって約束を反故にはできない。
良好な関係を築くことが出来れば後々同じような問題が起きても助けてもらえるかもしれないのだ。もちろん約束を破ればその可能性は消える、ということで。悟君と次郎ちゃんはちょくちょく間伐の手伝いをしていた。竹の切り口に水が溜まらないように切り込みを入れるという後始末も。ここで手を抜くと雨水などが溜まり竹林が丸ごと蚊の養殖場になってしまう。
蚊に食われながらの間伐作業なんて罰ゲームにしかならないからね。
 件のクラスの夏休みを塗りつぶした間伐作業で竹林はすっきりしたけど。竹が運び込まれた学園にはその反動が出る。校舎と体育館をつなぐ渡り廊下。その脇に仮置きした竹の山が本当に、凄いことになっていた。雨が降っても濡れずに校舎と体育館を行き来できるように屋根がついた渡り廊下は通る人間がいれば、その姿は校庭から丸見えになるはずなのだが、竹の葉が茂った部分が重なり目隠しした状態になってしまっていた。
 何がどうとは言えないけれど、防犯上よろしくないので早急に対応するように、と学園側から苦情が出た。そう告げたのは件の文化祭委員だ。彼らが泣きついたのは生徒会役員達だ。
工作物を一時的に保管する倉庫代わりのスペースはあるけど彼らだけを優遇することはできない。単管の代わりに竹をと、アドバイスはしたけれどね。どうしたものかな、次郎君。
 「はいこれ。お化け屋敷、模擬縁日や喫茶店を催すクラスを書き出したから。どうせ竹の葉っぱが茂った先端部分なんて君達は使わないでしょ。なら、使う所にタダで上げちゃえば。
見本になる竹を持って各クラスに交渉してみてよ。先方に所有権が移れば問題無いから」
 ああ、そうだ。共有スペースをどこかのクラスが独占するのはよろしくない。でも共有のスペースをみんなで使う分にはなんの問題もない、か。
やれやれ、すでに新学期は始まり文化祭までカウントダウンをしてもいい頃合いだ。もう
いい加減、相談事にはお腹いっぱいだよと頷きあう生徒会の面々だった。
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