僕たちは正義の味方

八洲博士

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 前生徒会長の「スポーツ・チャンバラ部の設立に便宜を図った疑惑」について。
なんだか生徒会役員の私たちが片棒を担がされたようで、どうにもスッキリしないのだが。女子剣道部は全国大会で優勝できるようにと練習に励み、大会の後も生徒会役員として文化祭実行委員と共に、駆け抜けるような夏休みを過ごした。
 両者に違いがあるとすれば文化祭実行委員はクラスに所属しクラスのために動く。生徒会はその委員をサポートする、アドバイザーだ。実行委員を応援もするけど無理難題にはダメ出しもする。
 クラスの要望を取りまとめたり、学園との交渉役になる実行委員の働きは、常にクラスの仲間の目に映る。けれど生徒会役員の行動はそれぞれが所属するクラスメイトの目には中々映らないもの、らしい。まあ、クラスからの要望にはそのクラスの実行委員が応対するからねえ。もし直談判されたとしても答えは変わらないけどね。
 私たち生徒会役員の忙しさは理解されているけど、納得されているかと言えば怪しくなる。
 そんな私たち生徒会役員による、文化祭公開日のコスプレ見回り隊はクラスメイトとの間に出来た溝を修復するための気遣いなんだと。顔には出さなかったけど感謝していたのだよ。けっこうね、内心だけどさ。制服姿に、腕章を巻いただけの警備隊より、新撰組のコスプレ!というワン・クッション置いた見回り隊の方が、お遊び感というかユーモア感があって来校者に対しても厳めしい感じがない。だからと言って舐めてかかってくるならば、全国大会優勝の猛者が相手になるだけのお話だ。
 飾りや内装が壊れる、と嫌われ出禁にされたお化け屋敷以外からはおおむね歓迎された。
 「学園のために優勝旗を持ち帰ったのに、この扱いなのよ・・・」
 見え見えの泣きまねをすれば、お疲れ様と労われ、一緒に記念撮影が始まったり。喫茶店では臨時のウエイトレスで手伝ったり・・・。
 「ご注文の品で-す」
 緊張しながらウエイトレスする舞ちゃんを残りのメンバーが周囲を警戒し護衛しながら歩いたので。効率は悪かったが大げさな仕草はお客さんにはけっこうウケてた。
 おかげで私たちも文化祭を楽しめましたとの感謝が深かっただけに。計算ずくで利用されたという思いが気に入らないだけなんだけど。・・・うむ、納得はムリだ。
 ただ私たちの心象は、スポーツ・チャンバラ部の設立には関係ない。学園も特別、私たち女子剣道部に気を使うということも無いだろう。私たちだって抗議をしたり反対運動なんてしようとは思わないし。決めるのは学園だ。でも二匹目のドジョウを狙っているのは想像に難くないよね、きっと。

 
 私たちが直接関与することもないスポーツ・チャンバラ部の件など、些事に過ぎない。
 そう言い切れる問題を抱えてしまった私。きっかけは悟君のひと言。
 「幼稚園の時からずっと、同じクラスだったんだもの。どこまで同じクラスで一緒にいられるか。試してみたくもなるよね」
 うん、わかってた。悟君なら、言いそうなことではある。勇吾と違って勉強が苦にならない悟君は同じ都立高校でも、もっと偏差値の高い所に行けたはずだ。いわゆる、ちょっと
高嶺な有名校でも彼なら不安げなく受験できるだろう。そして彼が志望校を選ぶ際にかなりなウエイトを占める要素も。
 「へえ、次郎君は界皇学園を目指してるんだ。私立校ってのは意外だったけど。なかなかいい学校だよね、界皇学園も」
 なんて会話があったあと・・・間もなく彼は志望校を決めてしまった。そう、界皇学園に。
 幼い時から二人の友達付き合いをすぐそばで見てきた私は、私ならきっとこう応援するだろうな。
 「同じ高校でも同じクラスになれるかわからないけど、知り合いがいるのは心強いから。二人とも、頑張るんだよ。そして同じクラスになれたらいいね」
 ただそれだけの話ならよかったんだけど。・・・それだけ、ならね。
 特待生の件が絡むといろいろ問題が出てくる。
 まず学力面。次郎ちゃんには私が家庭教師みたいに付いて勉強を見ているけれど。これでやっと普段の悟君と同じ。肩を並べるレベルと言えそうかな、くらいなのだ。
次郎ちゃんが自分で食事を作ったり、または剣道教室に行っている時間も悟君は趣味とか自由に過ごせて、その趣味が読書や調べものという、内容が勉強と大差ないものだとしたら。
この時間差は埋められるものじゃないよ。少なくとも今からじゃ厳しい。
 次郎ちゃんのお母さんは、悟君とも仲がいいのね、なんてのどかに笑っているけど。
 次郎ちゃんには特待生の枠は受験テストの点数で上位三位までとしか話していない。
 ただでさえ狭い枠を狙う彼の前に仲のよかった悟君がライバルとして立ちふさがる。この構図は歓迎できないな。悟君にはその気はなくても次郎ちゃんからすれば嫌がらせにしか見えないはずだ。実際には中学生の部で全国大会の個人優勝を二期連勝した次郎ちゃんは上位一〇〇位に入れば特待生になれるのだけど。上位一〇〇位ならここまで勉強すれば大丈夫、なんて基準はどこにもないし、どこかで慢心すればもっとひどい点数を取るかもしれない。精神的にも厳しい受験生に余計な負担はかけたくない。けど試験日が迫れば気にするな、という方が無理だし。隠したところで試験会場で出会うよね。その方がショックが大きいかもしれない。
試験の直前にそんなショックを与えたくはないし、私にはその気もない。けど。
 だいたい上位一〇〇位入りするのに必要な点数なんて事前にわかるものじゃないし、それを目標にするのも違うと思う。調整して余力を残すより全力で挑もうよ。うん、次郎ちゃんに甘く、不確かな条件を隠した自分の判断を信じよう・・・。
 でも、悟君という要素をうっかり忘れたのは私のミスだよなぁ。うーん、どうしよう。
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