僕たちは正義の味方

八洲博士

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  「ついに終わった、任務完了―!」
 界皇学園女子剣道部設立時の公約にしての使命。「剣道部設立後の、初参加の全国大会にて優勝旗を持ち帰る」をついに達成した。
 「ついに」といっても念願の、というわけではなくて。初参加の、と成功条件が付いているので今年達成できなければ任務は失敗となる。まあ約束した相手が先生であり学園なのだから任務失敗でも剣道部の廃止なんてことにはならないだろうけど。自校での実績もないのにいきなり備品を要求したり生徒会の承認を省略したり。いろいろとやりたい放題をした自覚がありますので、感じてます。先生方の期待感、他の部活からのプレッシャーなどなどなどの視線を。
 加えて中学校の時と比べてコーチもいないのだから、自分で自分を追い込むしかないわけで。ビリビリやガンガンなんてレベルじゃないドゴンドゴンというくらいの、砲撃みたいな圧を燃料にしてがんばってきたのだ。
 それも、やっと終わる。やっと夏休みを楽しめる。なにしろ中学校の夏休みに剣道の練習以外の思い出が浮かんでこないのだ。高校の夏休みに期待が高まるのはしょうがないじゃない。暑い時はゴロゴロと昼寝をしたりスイカを食べたり。みんなで集まって花火をしたり。夏しかできないことを楽しむのだ。
 ・・・そう思っていた時期が私にもありました・・・。

 いや、剣道部の予定表は新学期まで白紙、お休み続きなのだけれど。生徒会役員は違ったね。よその高校は九月の第四週に文化祭らしいけどウチの学園は第三週に文化祭が行われる。他より一週間早いのだ。よそと文化祭の日程が被ったらお互いに見学できないし。まあ初めての文化祭に夢やら希望やらが高まって、催し物に迷うのは分かる。分かるけど迷う間も時は流れるのだ。
 例えばあるクラスで寸劇を選択したとして。基本となるストーリーを元に台本を作らなければならない。配役を決める、衣装を作る、小道具がいるかもしれない。オリジナルな劇を希望するなら話を作る作家担当にも時間をあげないといけない。当然、練習にも時間は必要だ。
 あるクラスでは当日が楽だとビデオ上映会を選んだ、とする。撮影の前に台本や脚本といったものが必要になるし小道具の類いはいうまでもない。撮影や上映のための機材、編集のための機材の手配も。クラスメイトの家庭で調達できなければレンタルする必要がでてくる。上映機材もプロジェクターならサイズの対応が利くが、テレビを使うならサイズは変更が利かない。いざ、真面目に考えると必要な物は意外と多いしレンタルに頼ると一気に資金が枯渇する。
 演劇部は上演する劇の衣装を家庭科部とのコラボで調達するらしい。いくらかの材料費を演劇部が負担したり、上演の際に配布するパンフレットに家庭科部の協力を得た衣装をカラーページで掲載する約束を交わしたとか。当然のごとく、パンフレットの印刷費用は演劇部持ちである。新入部員獲得のための布石になるかどうかは、投資といえるだろうけど。

 生徒には本人用と家族用で二冊の文化祭パンフレットが配布される。最終のページには入場券が印刷されていて入場の際にページの隅を切り取らせてもらう決まりだ。
 入場券が切り取られたパンフレットを見せられても入場はできない。生徒の家族や友人以外、不特定多数な外部の立ち入りを制限するための施策の一つだ。
 このパンフレットは文化祭の直前、二日前に配られることになっている。
 この段階で「考え中」とか「ノー・イメージ」なんて言い訳は通用しない。
印刷入稿の締め切りは意外と早いのだ。加えて演劇部など、独自のパンフレットを印刷する場合も業者に渡す前の最終推敲は文化祭実行委員会及び生徒会役員が行っている。そりゃ忙しくもなるわ。
 ・・・夏休みなのに、休んでいるヒマがないっていうのはどうなんだろうか。
 とはいえ、二学期になれば授業も部活も再開する。部活のほうは融通が利くかもだけど。手直しとかほぼ仕上がりの段階まで進んでいないと毎週日曜日も学園に登校するようになる。あるいは某アニメのように何日も泊まり込むとか。
 何十年も経った後、笑い話になる思い出になりますように。なんてことを考えたけど、現在そんな余裕は欠片もないよ、まったく。
 今はまだ三年生がいないので文化祭に使われない教室があるのだが、施錠したうえで立入禁止区域を設定しようかな。こちらの決め事を守らない不心得者もでてくるだろうし、地下道の監視ロボを出動要請しようかなどと相談をしていたら。もう文化祭の当日だった。
 土曜日曜に催される文化祭、一日目は生徒同士のお披露目で、外部からのお客さんはこない。実際に、やってみたところで浮かび上がる問題点を修正できる、
最後のチャンスだ。対外的に学園を開放する、予行演習なのかもね。
 去年と同様、生徒会役員はクラスの催し物に参加できない者が多い。企画とかアイデア提供の段階ならともかく、劇に出たりビデオを撮影したりの時間は作ることができなかった。喫茶店にしても調理には慣れが必要だし、いつ呼び出されるかわからないのに、ウエイトレスな衣装は作れないよね。一着作ればその分費用が掛かるから。
 実際の催し物が申請された内容とかけ離れていないかの見回りから戻った私たちに、去年生徒会長を務めた吉田が満面の笑みで話しかけてきた。
 「生徒会役員の仕事に忙殺されてクラスでの文化祭に参加しそびれた貴女方に朗報です。明日の文化祭の一般公開でみんなから頼りにされるお役目を私が用意しました」
ナニ、ソレ?
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