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しおりを挟む界皇学園の地下を走る交通システムは環状線だ。普通の地下鉄とは違い鉄のレールはなくコンクリート舗装された通路をゴムのタイヤで走っている。見た目は地下鉄なんだけど、レールがないので鉄道とは言えないし環状線という呼び方も相応しいのかと気にもなるけど。問題というほどじゃないね、うん。
一般的な鉄道とは違い利用者は私達生徒しかいないので二両編成の車体は私達を降ろすと次の停車場に向かわずそのまま止まってしまったり、時に逆走をしたりする。多分乗り遅れた生徒に呼ばれたのだろう。AIが管理運行するこの車両はたまに意表を突いた動きをする。電車というよりエレベーターの使い勝手だ。規模は断然大きいけどね。
実際の地下鉄だと狭いトンネルの中を電車が走ることで気圧の変動があるらしいけどこの環状線には広めの側道があるので気にはされなかった。移動速度も時速十キロメートル程度、走る自転車よりも遅いのだ。だから昔の映画のようにスカートがめくれるような風は吹かないと思う。
ただ側道をランニングするとなると改修が必要と判断された。各停車場には地上に出るための大型のエレベーターが設置されていたけど停電時に備えた階段が作られた。普段は施錠されていて、排気のためのファンが回っている。屋根付きの吸気口が元からあるようだけど。メンテナンスや修理のために作った空間だものね、生徒が走り回るとは思わなかったのだろう。
視界と意識の外からボールが飛んでくるかもしれない体育館の壁際を走りまわるよりは安全になったのだろう。生徒からは人気があるようだ。
一応監視のカメラが増設されていて生徒のいない夜間は紛れ込んだネズミやヘビ、害虫を駆除するためのロボットが巡回してるとか。AI様々である。
地下のランニング限定で、部活によっては居残り時間が少し延びた。部外者が
入れないという意味ではグランドよりも安全だからだ。顧問の先生も居残る必要があったけど、職員室の自分の机で仕事をしながらたまにモニターを見ればよく、何かあればAIから警告がくるので居残る顧問からも不満はないようだ。
生徒のための生徒会として相応しい活動ができたと喜ぶ日向生徒会長。放課後の短時間なら帰宅部の生徒でもナビリングを通して地下コースでのランニングができるので一般的には、良い改革といえるのだろう。
ただ女子剣道部については両刃の剣になりつつある。全員が生徒会の役員を
兼任しているので生徒会の用事、議題が最優先だ。特に文化祭関連。活動予算は
すでに交付しているけど。お金が足りないとか暗幕が足りないとかの文句が結構、上がってきている。
「お金が足りないと言われても、予算は各クラス平等に渡していますのでその範囲でやり繰りして下さい。なくなったからくれ、なんて小中学生みたいな事を言わないで。クラス内で算段をつけて下さい」
「いくらお化け屋敷でも、ひとクラスに二十枚も暗幕を出せるか。廊下側の
窓はラシャ紙を貼れば塞げるから。暗幕に甘えず、クラスで知恵を絞って頑張ってみて下さい」
「喫茶の模擬店で店内を真っ暗にしないで。こんなに暗幕いらないでしょう。盛り付けの調理場を客の目から隠したい?ロッカーを衝立代わりにすれば・・・。ロッカーが重すぎる?なら中身を抜けば。それくらいはクラスで団結して下さいよ」
去年の経験があるからだろうか。流石の貫禄で、各クラスからのクレーマー、
もとい、陳情者を坂本実行委員長が切って捨てている。文化祭を頑張ろうという
気持ちは分かるけど。その熱意は予算増額じゃなくて創意工夫に回してほしいものだ。
女子剣道部の設立を認めてもらえるなら、三か月後の全国大会で優勝してみせます、と大口を叩いたのは確かに私たちだけど。ついでに引き受けた生徒会の役員でここまで時間を取られるとは予想外だった。去年生徒会を手伝った先輩達にとっても想定外、らしい。まあ生徒の数もクラスの数も二倍になったからね。
生徒会で精神的に疲れ、部活の練習で肉体的に疲れる。そこまで練習できること自体は、悪くはない。練習不足で大会で惨敗するよりは、はるかにマシだ。
私たちがここまで頑張る理由のひとつに、次郎ちゃんが界皇学園に来た時に、
彼を手助けできる力、発言力を得ておきたいという思いがある。
当然彼が界皇学園に入学できないと私たちの努力は水の泡になるので誰かが
彼の学力面をサポートしなければいけない。そしてその任務は隣に住んでいる
私が適任だということも。
よくわかっていますけど・・・。私だって疲れるんです。何度か意識が飛びそうになったし。大会が終わるまで、私の体力がもつといいけど。
さて今日も、ガンバロー。
肩越しに僕の勉強を見ていた理沙ねぇは、今日も寝落ちした。最初の頃こそ、慌てたり驚いたりしたけど。今や慣れた手つきでその頭を膝に乗せる。起こさないように慎重に、滑らかに。・・・うん、安らかに寝入ってる。倒れたりしたら危ないじゃん。
生徒会に入ったとは聞いたし、大会で優勝しなきゃいけないのに練習する場所がないと言っていたけど。その問題は片付いたらしい。ここまで疲れ切ってるのだから。そんな理沙ねぇに無理をさせている自分が不甲斐ないというか情けないというか。とにかく、ここ数日、毎日だからねえ、理沙ねぇの寝落ちは。
あの日偶然、治癒の力に目覚めた僕は理沙ねぇのアザを治して力尽き、眠りに落ちたんだよね。理沙ねぇの膝まくらで。心地よかったけど気が付いて起き上がろうとしたのに、力が入らなくて結構恥ずかしかったりしたのだ。
その意趣返しというわけじゃないけど。胡坐をかいた膝に理沙ねぇの頭を乗せて。目を覚まして、気が付いて。恥ずかしがるところを見れるのかなと思ったのに。
寝ぼけた彼女は何もなかったかのように、授業を続けたんだよね。少しは残念だったけど、そこまでの疲れ具合に驚いたのが大きいかった。僕のために無理をしている事実にも。
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