僕たちは正義の味方

八洲博士

文字の大きさ
上 下
123 / 144

123

しおりを挟む


 暦は六月になった。去年の経験がある先輩達のおかげで生徒会もなんとか運営できている。切羽詰まったら臨時の招集をしようかと考えていた生徒会運営会議も週一回で、今のところ問題はない。
 まあ議題が少なすぎるんだよね。中間テストも終わり、各部活の活動自粛も解除されているけれど。学生の本分は勉強なのだから、と言われたら反論はできないが広く解釈すれば部活動や生徒会、委員会の活動も勉強の一部だ。もちろん学校行事も。
 十一月開催の合唱祭はひと月前に曲目が決まっても間に合いそうなので、その気になれないというのも分かるし、体育祭は学年合同のクラス別で応援団を作るらしいけど。これもまだまだ余裕がある。
 ただ文化祭についてはそうも言ってられないので急いで欲しいのが生徒会および文化祭実行委員会からの要望だ。
 何をするかによって必要な物が変わってくるのは理解しているがなかなかクラスがまとまらないのだそうだが。
 ただクラスの希望がそのまま通るとは考えないでほしい。
 寸劇やミニ映画の作成と上映ならお互いに被ることもないだろうけど。喫茶の模擬店やお化け屋敷とかに出し物が偏ったら、さすがに文化祭実行委員会としては介入、調整に乗り出さないとね。
 想像してみて欲しい。ワンフロアの端から端まで、各クラスの出し物がお化け屋敷だなんて状況を。
 界皇学園は、ホラーの館ですかという話になっちゃうよ。
 あと理解しがたいのが模擬店の喫茶店だ。高校の喫茶店では火が使えないので料理は出来ない。せいぜいが電子レンジでチンするくらいだ。あるいは飲み物をコップに移すくらい。
最初に言ったはずだけど。文化祭の出し物で利益を得ることは許されていない。例えいくら稼いでも、そのお金は慈善団体か施設に寄付される運命にある。決して生徒達の懐に入ることは、無いというのに。
 それともアレなのかな。ウエイトレスやウエイターの格好をしたいというコスプレなのだろうか。男子はともかく、かわいい制服を着て、ウエイトレスのマネ事をしてみたい女子の気持ちはわかるけど。
 男子もそうなんだろうか。なかにはウエイター姿ではなくウエイトレスの制服が似合いそうな男子もいるけどね。
ちなみにPTAの有志がバザーというかフリーマーケットをやるらしい。流行の断捨離で生まれた中古品なのか、未使用、箱付きの新品なのかは問い詰められないけど。

 話がそれたかな。
 
 今、動きが目立つのは図書委員会くらいだろう。
 界皇学園の図書室も高等学校に相応しい書籍を揃えているけど、生徒の要望に応えた新刊や名作を用意するのも図書委員の役目といえる。当然予算との相談は欠かせないのだけどね。今、話題になっているからと同じ本を何冊も購入するのは考えものだ。作家にとっても売れたはずの本を図書室がタダで貸し出しては生活に関わる。一冊くらいならまだしも、何冊もの本が何回も貸し出されたら。もう泣いちゃうかもね。
 晴耕雨読なんて言葉があるように、雨で外に出歩けなければ家で本を読むしかないのか。
 
 じきに梅雨ともなれば運動部には受難の季節となるのだろうか。
 余裕を持って造られた第一体育館は確かに大きいけれど、男女バレーボール部と男女バスケットボール部、野球同好会に女子剣道部が集まれば。
 手狭になるよね、どうしても。
 肩身が狭い剣道部は校舎に隣接した第一体育館を出てかなり離れた第二体育館に向かう。地下の輸送システムのおかげで雨に濡れることもないが。なんで肩身が狭いかっていえば追加された第二体育館は二階建てで一階は柔剣道ができる板張りなのだ。天井は高くないのでバレーボールやバスケットボールには向いていない。もっとも奥の壁は一面鏡張りで、手すりもある。中ほどには柔道用の畳が積み上げられていた。柔道にも剣道にも使えるし、
バレエ部にもダンス部にも使える作りだ。
 奥の壁が鏡張りのせいで体育館はとても広く見えるので剣道部六人で使うにはさみしいくらいだ。
 下校時刻も迫り、電車で校舎に戻る。電気で走るので電車で間違いはないが。公共のそれと比べると一回り車体が小さい。車輪も鉄ではなく、ゴムタイヤなので音も静かだ。
 よくある地下駐車場並みの薄暗い通路を前照灯が照らしていく。界皇学園の地下で使う分には雨も降らないのでワイパーなど不要なのだが、検証中に流用された車体ゆえ一通りの装備がついている。操作パネルにはプラスチック板がはめ込まれており乗客による操作を防いでいるが透明な板ごしに走行状態を見ることができた。制御はAIが行っている自動運転だ。行先などはナビリングでリクエストできる。
 することもなく通路を見ればその隣には側道が続いている。現場に配備された後の故障は修理や乗客に避難など安全確保が難しいのだが、まだ検証中のこの通路には避難修理用の側道が用意されていたのだ。
 「これは使えるかも」
 思わずつぶやいた私は日向先輩に声をかける。
 部長としてではなく、生徒会長として。
 雨でグランドが使えないこの時期、ランニングのスペースを確保するのが難しかったのだが。これで解決できるかもしれない。
 「生徒会役員専用のお弁当や大型エレベーターの使用許可に比べると難しい交渉になりそうだけど。今度はみんなのためになる交渉かもね」
 笑顔で語る日向さんだった。
                                               
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

(完)私を捨てるですって? ウィンザー候爵家を立て直したのは私ですよ?

青空一夏
恋愛
私はエリザベート・ウィンザー侯爵夫人。愛する夫の事業が失敗して意気消沈している夫を支える為に奮闘したわ。 私は実は転生者。だから、前世の実家での知識をもとに頑張ってみたの。お陰で儲かる事業に立て直すことができた。 ところが夫は私に言ったわ。 「君の役目は終わったよ」って。 私は・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風ですが、日本と同じような食材あり。調味料も日本とほぼ似ているようなものあり。コメディのゆるふわ設定。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...