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しおりを挟む新年度の界皇学園生徒会が起動した。
なんていうとかっこよく聞こえるけれど、現状は「言葉の上では」と但し書きが必要、不可欠な状態だった。生徒総会での投票に先立って選挙運動をするものなのだが、今回も承認されて無投票当選になった。反対運動や対立候補は現れなかったのが実に残念だ。いやそこまで選挙がしたかったというわけではなくて。例えば私が生徒会の副会長を務めるのが嫌だと対立候補が現れた場合は、即座に出馬を取り消して、やる気のある候補さんにその役職をお願いする予定だったのだから。
出馬を取り消した私はどうするかといえば、兼任する予定の役職に立候補し直す算段だ。圧倒的に人手が足りないので、対立候補だからと蹴落とすような
勿体ない真似はしない。「おいでませ 生徒会」と書いた横断幕で歓迎して逃げだすスキを与えずに生徒会に取り込む作戦だったのに。
今でもいつでも、やる気のある人、ウエルカム。なのである。
生徒会長 日向咲子
副会長 早見里紗
書記 森近由美
庶務 坂本真知子
会計 志村舞
実行委員長 帯刀陽子
とまあ、こんな感じの生徒会だ。陽子ちゃんの実行委員長というのは本来なら
文化祭、体育祭、合唱祭と三人いるべき委員長の兼任というポジションだ。一応開催時期がずれているとはいえ、頭の中がこんがらないかと心配になる。この生徒会を象徴するようなポジションとも言える。
私の副会長という役職は生徒会長の補佐以外に決まった仕事はないらしい。
決まった仕事はないけれど、生徒会としてやらなきゃいけない仕事はいくらでもあるので。まさに「お手伝い」ポジションともいえる。かなり忙しいかも。
忙しさで負けてないのが庶務という分かりにくい役職を担当する坂本さんだ。
彼女の元には各委員会から選ばれた委員長が集まる。クラス委員を筆頭に意見や要望を集約整理して生徒会を通し、学園側に伝える役目。学園側からの返答、対応を連絡したりもする。こんな激務を再び引き受けるなんてと仲間内からは称賛されていたけど。
毎週金曜日は生徒会運営会議を開催し、生徒会役員と各委員長が出席することになっていて。残念だけどこの日は個人の部活動は諦めてもらっている。担当部門からの発言が五分しかなくても、部門の数が多いからね。どうしても全体の時間が長くなる。けど情報共有が一度で済むので楽にはなるのだ。
これが部門別の開催になると役員は情報共有のために同じ連絡をその都度、しないといけなくなるのだ。開催時間はいくらか短縮できるけど集合に遅れがちになりやすい。これが毎日続くと剣道部としては満足に活動時間が取れないことになるので。
他にも役員による生徒会室の常駐と開放があって。昼休みと放課後は役員が生徒会室に詰めていないといけないらしい。この仕組みはどこの学校でも同じなのだとか。
放課後は各委員長達で持ち回りにしてもらう。昼休みは女子剣道部の担当だ。私がいま押しているワゴンには、日替わりランチから作った仕出し弁当の箱が積んである。昼休み、生徒会室に常駐する役員は全員剣道部でスポーツ特待生だ。
つまり日替わりランチをお弁当に仕立ててもらっても料金はタダ。お金を預かったりお釣りを預かったりの手間もない。先に生徒会室のカギを開けに行った仲間の分もまとめて受け取り運ぶ。フロアが違うのでエレベーターの使用許可も取った。大きな機械を運ぶためのエレベーターは、私一人が乗るには勿体ないくらい広い。全てに係わっているのが左腕にはめたナビ・リングだ。識別コードが登録されているようで。一般生徒はエレベーターが使えない。便利過ぎて怖い気もするけど階段でも使えるワゴンを開発するよりは簡単なのだろう。
思えば私たちの生徒会が最初に決めた案件が生徒会役員のためのお弁当システムとか。業務用大型エレベーターの使用許可とか。
・・・なんか常識とはかけ離れた案件を限りなくプライベートに使っている、そんな気がしてきた。それはもう、ヤバイのレベルで。だいたい普通の高校にはここまで生徒に融通をきかせる学生食堂なんてないし、校舎にエレベーターが付いてる高校というのも聞いたことがないような。
うん、気にするところじゃないな。これは。
働く大人にしろ、勉強する生徒にしろ自由になる時間は昼休みという認識らしい。生徒会室にいると、たまに一般生徒が相談に来る。放課後に詰めてくれる委員長達は問題を預かるけれど、昼休みに来れば先輩達の経験で大まかに可否や学園からの回答を予想してしまうからね。反応が速いということだろう。
今日の相談者は一年生、かな。
「私達でマンガ研究部を作りたいんですけど。この申請で学園の審査を通るでしょうか」
相談に来た女生徒三人に坂本さんが応対する。
「マンガ研究部はすでにあったと思うけど。そこじゃダメなの?」
「あそこには読みたいマンガがないんですよぉ」
「うーん?マンガを描くための資料とかじゃなくて、マンガを読むためだけのマンガ研究部か。・・・ちょっと難しいかもねー」
「テレビゲームの部活はあるのにマンガはダメですか?」
「eスポーツ研究部のことかい。あれは最近、競技として認識されたからね。国内、国外とも交流戦や大会もあるし」
「・・・わかりましたぁ。ありがとうございます」
残念そうに立ち去る女生徒達。自分達が読みたいマンガを学園に買わせようとは、凄い発想だけど。どんなジャンルか気になるなぁ。
おっと、戻ってきた坂本さんを加えて会議を再開しないと。議題は生徒会活動と部活の両立に練習時間の確保について、なんだけど。
「生徒会の役員を兼任して話題性を高める方針。間違ってるとは思いたくないけど」
生徒会長の表情は暗い。
「問題は練習時間の確保、ですよねえ」
私は再度、議題を確認する。
「今の練習量じゃ不安だけど。これ以上は居残りできないわよね、しかも毎日となると」
坂本さんの表情も、なんというか渋い。
「メニューの一つを各自、自宅でこなすのは。ランニングとか」
「女子高生が夜中に一人でランニングは、危なくない?」
舞ちゃんの発想は悪くないけど、夜に一人のランニングでは不用心だよ。
「でも一人でできる練習メニューを各自、自宅で行うのは良いアイデアですよね。素振りはどうですか。先輩は江口先生の餞別、まだ持ってますか」
「江口先生の餞別?ああ、試合じゃ使えない竹刀のこと?」
美央さんが天元館で捨てられる竹刀を手入れした、リサイクル竹刀。重すぎて私たちじゃ試合には使えないけど素振りに使うぶんにはいい物だと、江口先生が買い取ってみんなに配ったものだ。
「無茶な交流試合に巻き込んだ謝罪」なんて言われたら断れないよね。後輩
に残そうかなと思ったら美央さんに止められたんだ。鍛えてからじゃないと腕とか痛めてしまうからと。
もちろん、今の私たちなら全く問題はない。夜中に女子高生が一人で・・・
なんて聞くと不用心みたいだけど。風切音を立てながら竹刀を振り回してれば痴漢も寄ってこないでしょう。ヘンタイ避けにもなるし。敢えて迫ってくるならば、こちらは正当防衛なのだよ。試合には使えないけど護身用にはぴったりかも。
私の説明にうなずく、みんなの笑顔がちょい悪だったのは内緒だね。
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