僕たちは正義の味方

八洲博士

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 昼休み、界皇学園の学生食堂の片隅で、ある計画について話し合う女生徒六人。
別に悪企みをしているつもりはないのだけれど。みんな次郎ちゃんに恩を感じているのが共通点だ。体に痕が残るような傷を跡形もなく治してもらった私と舞ちゃん。陽子ちゃんは片目を失明するほどのケガだったけど完治して後遺症もでてない。うーん、ありがたやありがたや。
 人数不足で申し込まれた交流試合に対応できない私たちのために、元いたクラブから剣道部の部員になってくれた先輩達。思い出作りのつもりで参加した
大会で優勝できたのは稽古をした次郎ちゃんのおかげだと口をそろえる。先輩女子からの公私に渉る質問攻めという裏技で何度か休憩時間をごまかす必要があるほどの稽古ではあったのだが。まあ、初参加の大会で優勝という最高の思い出作りができたので、いいのかな。
 おまけの効果というのか、先輩達は次郎ちゃんの個人情報に詳しくなってしまった。もう少し体を休めたい、とばかりに質問をしまくった結果だ。そして問題に気づく。これから彼が成長するにつれ、今の防具は体に合わなくなっていく事に。
 剣道が好きで、素質にも恵まれている彼が新たな防具を用意できないだけで高校での剣道を諦めるというのは、いかにも勿体ない話である。だが通常の高校に進学すれば、ほぼ確定の未来図でもあった。
 例外のひとつがここ、界皇学園なのである。
 生徒個人の可能性を最大限に引き出し、そのサポートを惜しまない環境がここにはある。界皇学園でなら榊次郎は剣道を続けられる。
 そこに到るレールを敷くために、私たちは話し合っていた。

 「そういえば、彼の受け皿になる、剣道部ってどうなんですか」
 「現状、影も形もないわね」
 私の疑問に答える日向先輩、回答が速い。
 現在の部員がゼロというのは厳しい。次郎ちゃんの同級生だけで必要な部員数が集まるのかといえば不安が残る。参加資格になるのなら同好会でもいいけれど、難しそうだよね。
 「次郎君なら個人戦での優勝も見込めるし、例え一人でも部として仮にでも認めちゃえばいいのよ。優勝して注目を集めれば部員が増えるかもしれないし。
全国大会一位の実績を、部員数が足らないくらいでなかったことにはしないでしょう、個人の部門なんだし」
 日向さんの中では次郎ちゃんの大会優勝は確定らしいです。それって大会の参加者で次郎ちゃんが最強ということなんですが。かくいう私も受験勉強で練習不足に陥りがちな一年生でなら次郎ちゃんの最強に一票入れたい。それくらいはやらかしそうなところがあるからだ。
 「剣道で、部員数一人で、同好会を飛び越して部に認定する。そんな発言力が生徒にあるんですか。難しそうだけど」
 陽子ちゃんが冷静に質問する。
「生徒会になら、あるんじゃない?どう、みんなで生徒会に乗り込まない?」
「日向先輩、それってカチコミのお誘いですか」
 ちょっと舞ちゃん。不穏当な発言はやめる。あとその目付き、こわいから。
 「カチコミ?いやいや、殴りこむとは言っていないよ」
 「去年の生徒会副会長は日向さんなんだよ」
 坂本さんの言葉に照れる日向先輩。
 「二学期からだけどね。私たちの学年には、界皇学園を単なる進学校のひとつとして認識してきた生徒が多くてね。機能不全を起こしてた生徒会に先生方も困っていたから。軽く助っ人のつもりだったんだけど」
 「生徒側の傾向は今年も変わらないだろうから、今年の生徒会も人手不足で苦労しそうなんだよね。ちなみに私は庶務、森近さんは書記と会計を兼務している」
 「会計はホラ、普段はヒマだから」
 上品に笑う森近先輩とは対照的に顔を横に振る坂本先輩。
 「今年の生徒数は去年の倍だよ。兼務なんて言ってる場合じゃない」
 「その代わりに、先生方の覚えは良くなったと思う。このまま貢献度を上げれば多少の無理も通せるよ、きっと」
 続ける日向先輩。
 「それに女子剣道部が注目を集めて記事になる時、部員全員が生徒会の役員だなんて格好いいと思わない?箔がつく、っていうのかな」
 「去年もこんな感じだったんだよねえ。日向さんだけを手伝うつもりだったのに、気付いたら役員やってた」
 「みんなで相談することもあったけど、手分けしてやったほうが効率もいいし」
 多分に忠告を含んだ坂本先輩の発言をフォローする森近先輩。でも私は日向先輩の言葉にすっかり乗せられていた。私たちの入学と時を同じくして女子剣道部を立ち上げる。出来たばかりの剣道部が初参加の全国大会で優勝を勝ち取る。元々日向先輩はそう言っていた。先輩の考えではすでに確定事項であり、
そんな事を実現させれば当然、マスコミ各社からのインタビューも受けることになるだろう。優勝したチームの部員全員が生徒会の役員についていたとなれば、それなり話題になるかもしれない。
 かつて主人公が剣道に励む設定の、昔のドラマを再放送しただけで、剣道ブームが起こったのだから私たちが話題になれば再び剣道ブームが起こるかもしれない。文武両道は界皇学園のモットーでもある。
 これを広く知らしめるのは学園の意向にも沿ったものだろう。
 生徒数が去年の倍といっても全学年がそろえば去年の三倍になる。来年よりは今年の方が、まだマシだと言える。
 生徒会の選挙活動にも興味はあったんだけど、役員に対して立候補者の数が足りていないのだから。無投票選挙になるんだろうな、きっと。

 役員のほとんどを私たちが担当するので女子剣道部の主張が反映されやすい
生徒会になるかもだけど、それくらいはいいよね。
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