僕たちは正義の味方

八洲博士

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 先輩たちからのお願い。
 ひとつには私と舞ちゃん、陽子ちゃんが界皇学園に入学して先輩たちと剣道部を立ち上げること。
 私たちが入学できたら即座に剣道部を立ち上げて大会に参加申請を出す予定なのだとか。中学生の時には「出来て間がない剣道部が初参加の大会に優勝」を
果たしたのだが。高校生として「出来たばかりの剣道部で初参加の大会に優勝」を狙っているようだ。あの時は男子しかいなかった剣道部に女子部員が入って女子剣道部が派生したような形になっている。大会参加はその一年後だ。今度は正真正銘、出来立てほやほやの状態で優勝する気らしい。
 「あなたたちと鮮烈、華麗なデビューができたらいいかなって思ったの」
 笑いながら話されると冗談にも聞こえるけれど、未だに先輩たちは特定の部に所属しないで、試合や大会の迫った他の部で臨時に助っ人をしているとか。
 本気と書いてマジと読む、というヤツだ。
 先輩たちの期待に応えるためにも、まず私たちが界皇学園に入学しないといけない。
 もうひとつ、次郎ちゃんが高校生になっても、今と変わらず剣道ができる環境を提供したいという、希望。
 あの時、部員が三人の一年生しかいない女子剣道部は二か月後に交流試合をしなければならなくなり、部員を急募するも同級生からの反応は芳しくなくて。万策尽きた私たちを見かねた二年生の日向さん達が剣道部の部員になってくれたのだけど、先輩の手を煩わせることもなく圧勝しちゃったんだよね。このままだと一回も試合せずに卒業となってしまうので、公式な試合経験のない先輩に初参加の大会で思い出作りをと考えて。いろいろと訳アリで就任した山下美央コーチは私たちの専属みたいな状態だったので、稽古相手の不足を補うために男子剣道部から借りてきたのが次郎ちゃんだったのだ。
 スタミナお化けと畏れられながら三年生を鍛え上げた次郎ちゃんは大会初参加での優勝に大きく貢献した訳だけど。その才能を認めた日向さん達からすれば、高校進学において経済的な理由で彼が剣道を諦めずに済む選択肢を示しておきたかったらしい。ぶっちゃけ、もったいないと。
 彼がもし、界皇学園で個人戦に参加できる体裁を整えてさえしまえば。学園側が注目せざるをえない結果をもちかえるはずであるとも言い切ったよ。
 次郎ちゃんに対する日向さん達の評価が少々過大な気もするけれど、そこは
彼の人望というか人柄なんだろう。
 家が隣同士の舞ちゃんと陽子ちゃんはお互いに切磋琢磨してもらうとして。
 次郎ちゃんの学力面でのサポートをするのは・・・・・私が適任なんだろうな。家も隣だし。問題はどうやって彼を誘導するか、なんだけどね。
 
 「ねえ次郎ちゃん、私の受験勉強を手伝ってくれないかな」
 「・・・へ?ナニそれ。言ってる意味がわかりませんが」
 「意味も何も、言葉の通りだよ。私の受験勉強を手伝ってほしいんだけど」
 「・・・里紗ねえ、一体何をしたいの」
 「剣道部の先輩たちが待ってるから、界皇学園に行きたいんだけど。人に教えるつもりで勉強すると理解が深まるとかいうし、私の復習に付き合ってほしいということよ」
 「受験勉強でしょう。呼ばれたから行くなんて、ホームパーティーに誘われたみたいなノリでやってていいの?それに界皇学園は私立だよ、大丈夫なの?」
 「入学試験の点数で、上位三人までを特待生にしてくれるから。教科書はもちろん諸々の備品まで学校が負担してくれるんだよ。公立高校より負担が軽くて、奨学金のように返さなくていいの。ああ、なんて親孝行な私」
 「ふうん、で、僕に何か、メリットはあるの」
 「あるある。次郎ちゃんはお金を払わずに、私を家庭教師として雇ったようなものなんだけど、どう?」
 「里紗ねえが、家庭教師?」
 「次郎ちゃんが部活の間は三年生になってから習ったことを復習するとして。
次郎ちゃんがきたら、一年生の時に習ったことを私が教えてあげる。なんなら
もう少し遡ってもいいけど。自分でも気がつかない弱点や苦手なところを分かりやすく教えてあげるから。この里紗ねえさんにまかせなさい」
 「・・・まあ、いいけどね」
 よし。これで言質は取った。
 まあ、それを盾に無理強いをしなくて済むように努力はするけどね。
 受験勉強なんて集中力と本人のやる気が大事だからね。嫌がるところを無理やり勉強させても能率なんて上がらないし。
 そうそう、うちと次郎ちゃんのお母さんに一言断っておかないと。勉強の場を借りる次郎ちゃんのお母さんには上位百人の、上から三人がスポーツ特待生になれることも。あまり条件が厳しいように伝えると、費用がかかる私立高校の受験そのものを認めてくれないかもしれない。逆に、次郎ちゃんにスポーツ特待生の枠の甘さを伝えると。慢心とかされたら困るからね。彼は、大丈夫と思いたいけど。
 実際に状況は甘くないと思う。その日限りの、一回切りのテストでスポーツ特待生になれる得点をピンポイントで予想するなんて。できる訳ないじゃん。
界皇学園を受験する受験生の全データ、学力や模試の結果、当日の体調とかが、事前に分かると言うなら可能かもしれないけれどね。スパコンが要るよ、これ。
 無理矢理に三人目を狙うより、トップを狙える学力を身に付けた方が確実で精神衛生の面からも望ましいな、うん。
 そういえば昔、スパコンの事業仕分けで「二位じゃダメなんですか」と言って予算を削ろうとした議員がいたらしいけど。一位じゃなくてもいいので予算はこんなもので・・・。一位じゃなくてもいいので規模はこんなもので・・・。一位じゃなくてもいいのでかける手間もこんなもので・・・。そんな条件で開発されたモノに使い道があるものだろうかと私は思うけどね。
 取り急ぎ、学習予定のプランでも考えた方がいいのかな。あまり時間はかけてられない。プランよりも実践した勉強の方が大事なのだ。わかりきったことだけどね。そんなことは。
 
 ああ、なんか、頭が痛い・・・。
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