僕たちは正義の味方

八洲博士

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 心配した通りというか、予想通りというか。喫茶店で話し込む私と日向先輩のおしゃべりは情報交換もそこそこに思い出話に花が咲き、全開の満開になった。追加のコーヒーとケーキを余裕で平らげるくらいには。ドーナッツ・ショップと違って喫茶店のコーヒーはお替わり自由じゃないらしい。
 夏とか冬とか。暑さ寒さの厳しい季節は居心地のいい喫茶店は皆のたまり場になるため、一杯のコーヒーで長時間居座る技は必須スキルになっているとか。
本当かな。
 まだ三年生の私だけど、中学の学校生活は本当に目まぐるしかった。
 美央さんの、コーチのおかげで大会の個人戦に出る事ができた。その個人戦で優勝できたこともコーチの指導のおかげだ。準優勝が陽子ちゃんなのだ。無関係であるはずがない。
次郎ちゃんの個人戦での優勝もそうだ。
彼は私を通して、男子剣道部のなかでは一番、影響を受けているのだから。
美央さんと関わりが薄い、もう一人の男子部員はベスト8止まりだったしね。
美央さんのコーチ就任の原因にして、私たちが先輩たちと関わりを持つきっかけにもなったのが山下哲也の傷害事件だ。
あれがなければ美央さんの指導を受ける機会はなかったろうし、日向さん達も私たちの事を気にすることはなかったはずだ。
だからといって、私が、私たちが山下哲也を許すことはないし、庇いだてを
することもない。歴史の必然、必要悪だとでもいいたいのかもしれないが。今、功績を残せているのは当事者である私たちの努力によるもので、あいつがしたことは他人の人間性を踏みにじる、ただの犯罪行為でしかないしそれしかない。
 当事者が未成年ということで公にはならなかったがその罪を私は忘れない。
 目の前にいる日向さんも当事者になるのだろう。
 
 そんな考え事に沈んだ私の意識を日向先輩の言葉が釣り上げる。
 
 「さっき話したスポーツ特待生の申請だけど、今度からは受験の段階で出来るようになったから。在校中、大会で残した公式記録とか追跡調査ができるものが対象だけどね。あなたも陽子ちゃんも、入学試験の点数が良ければ特待生を狙えるわ」
 「それだと舞ちゃんが・・・」
 「個人戦の参加枠が二名までということを考えてもらえれば二年生の時に大会初参加で優勝したチームのメンバーということが考慮されるかも」
 ふうむ、まずは入学試験で上位の点数を狙わないとダメか。なんか厳しそうかな、これは。
 「うちの学校を進学校と勘違いした秀才君達のおかげでちょっとハードルの高さが読めないけれど。またみんなで集まって剣道部を立ち上げたら楽しそうよね」
 「・・・剣道部は、まだないんですか」
 「ないわ。学校側の勧めもあって経験のある有志がバスケ部やバレー部を始めたけれど、剣道部はまだ、ないわね」
 「あれ、じゃあ先輩たちは・・・」
 「今は経験を生かして、バスケやバレーの助っ人をしているの。授業の備品を流用できるから同好会扱いでも支障はないんだけれどね。剣道は始めるのが大変でしょう。どうせやるなら、鮮烈に華麗にデビューを飾りたいじゃない」
 苦笑いをしながら日向さんは続ける。
 「今、始めても部員が集まらなくて。大会にも出られないし。だから待ってる。
あなた達となら、初参加でも予選を突破して本選に乗り込んで見せるわ」
 すでに勝利を確信したような日向さんの笑顔に私もつられてしまう。
 久しぶりに会えることを楽しみにはしてたけど。ここまで期待されていたとは意外だ。会計は割り勘のつもりでいたのに、先輩としてオゴるという日向さんに押し切られてしまった。
 「あなた達を勧誘したいというのは、こちらの都合だから」と言われて。

 浮いたお金には新たな使命が課せられた。
 まだ時間も早いので、舞ちゃんと陽子ちゃんの話しを聞こうと待ち合わせをすることに。今度はドーナツ・ショップだ。
 予想以上に二人とも乗り気だった。
 先輩に頼られたということもあり、貴重な情報をもたらされたということもあり。元々私たちは先輩と仲がいい。他の部活と違って、しごいた、しごかれたという上下の感覚があまりない。困った私たちを助けにきてくれた先輩たちは
身体こそ鍛えていたが剣道の経験はなかったから。火中の栗を拾うように、迫る交流試合に向けて、ともに汗を流し稽古に励んでくれた。とにかく到ってフレンドリーなのだった。今日なども、珍しく先輩風を吹かせたと思ったら。
 『後輩なんだからおとなしく先輩に奢られてなさい』ときたくらいで。
 他の部活の子が聞いたら泣いてうらやましがるに違いない。
 ・・・それとも悔しがるかな。
 舞ちゃんも「大会初参加で優勝したチームが再結成するなんて注目の的」などと口説かれたらしい。界皇学園の制服姿の写メももらったようで。もう聞くまでもない様子だ。白を基調とした制服は私もかっこいいと思うけど。
 特待生を目指すなら、入学試験で少なくとも上位百番になる必要があるのだけど、そっちは大丈夫なのかな。
 私としては、別れ際にささやかれた日向さんの言葉が気になるけれど。
 「入学早々に学園に貢献して顔を売っておけば。榊次郎君が入学する時の力になれると思うけど」

うーん、気になる・・・。
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