僕たちは正義の味方

八洲博士

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 日向さんたち先輩が卒業して私たちが三年生になった。初めての大会参加で優勝したり、陽子ちゃんが部活中に大ケガしたり。それを次郎ちゃんがこっそりと治したりといろいろあった。特に陽子ちゃんの件は校医さんだけでなく病院の先生まで巻き込んでしまったのでなかなか騒ぎが落ち着かなかった。
わかるよ。病院の都合も。大ケガをして応急処置を施した入院患者が、翌日には痕も残さずに全快して退院しちゃったら。困るよね、病院としては。女子中学生が片目を失明するようなケガをして、全快した、それ自体は喜ばしいことなんだけど。その理由とか理屈とかがわからないと同じような患者さんが来た時にお手上げ状態になってしまう。痛みを抑えただけで治す行為は何もしていないのだから。
 患者さんにも逆恨みされそうだ。同じような患者を治せたと聞いたからここに来たのに。何で私は治してもらえないのか、とか。
 まぁ、病院の医師でもない次郎ちゃんが、神様からもらった力で治しているのでどう頑張ってもよそでは治せないことになるのだけど。いやできない事はないかもしれないが、もんのすごく大変だよ。多分。
 一方で事故を起こした犯人ともいえる三年の尾豊だけど、本人曰く停学期間をゲーム三昧で過ごしたようで。親子そろって反省や謝罪の気持ちを欠片も持たなかったということか。手入れもしないで毛羽立ちはじめた竹刀なんて私に言わせればヒビが広がって一部が欠け落ちたガラスビンと同じだ。下手にさわればケガをする。そんなモノを他人に投げつけるヤツとは付き合ってられない。当然というか学校にきた尾豊は孤立した。クラスでも部活でも。どこにいても
さげすむ視線を浴びる事に気付いた彼は学校に居場所がなくなり引きこもりになっていった。
 私たちが責任を問われることはないし、よくある自業自得なお話のひとつになるのだろうけど。なんというか気持ち的にすっきりしない。関係があるのかといえば被害者と加害者の関係くらいかな。それでも尾豊が学校を休む度に注目を集めるのはいただけない。秘密の力を使った治療だからね。細かく追及されると落ち着かないし、同じ条件を揃えればまた治るのかを実験したいなんてバカなことをいいだす奴もいて。まつ毛とか小さなゴミでも目に入ったら痛いのに何を言っているのかな。そんなに大事な意義を感じるなら自分で試せばいい、と思う。結果がどうなっても知らないけれど。

 そんな落ち着かない雰囲気で気がつけば三学期が終わってしまった。
 まあ悪い事ばかりあったわけじゃなくて。驚いたのは日向さんたち先輩三人が揃いもそろって界皇学園に入学したことだ。もしかして三人共、いいところのお嬢様だったりするのかな。詳しくは聞けてないけど。剣道もスポーツだとはいえ、足の裏の皮が厚くなったり手に豆ができるのは問題ないのかな。その程度のことは気にしないのがお嬢様、という気もするし。

 去る者がいれば新たにくる者もいる。学校も同じだ。先輩達が卒業した後には
新入生が入ってくる。そのなかには笑顔の雫ちゃんがいた。勇吾の話では去年の内からあと何日とカウントダウンを始めたらしい。気が早すぎるとは思うけど、
本人の期待の表れだということで。
 ただ期待が高すぎると現実とのギャップに打ちのめされることもある。彼女にすれば正義の味方の仲間がそろったことで、充実感あふれる毎日が再び訪れるという期待もあったらしく予想と違う現実にぶつかり、日に日に元気がなくなっていった。
 あの頃の私たちは幼いながらもどこからか寄ってくるオヤジ狩りたちと負けられない戦いをしていたのだ。悪者のカンは鋭いのか、私たちが正義の味方だということがオヤジ狩りにはバレていたようだ。もちろん親には気づかれていないのだが。オヤジ狩りも私たちの個人情報は知らない。名前とか住所、素顔も。
わかっているのは何かの力を使ってオヤジ狩りを懲らしめていること。だからこそ、奴らに負けて捕まって、身元がバレることがないようにしていた。必死になって戦い、勝ち続けていたのだ。・・・普通の子供がすることじゃないよね。
 結局のところ正義の味方としての夜のパトロールはオヤジ狩りの徘徊に気付いた親たちに止められてしまった。こんな危ない時期に出歩くな、と。体力作りを理由にした夜のランニング、という建前だったのでこの強制終了には逆らえなかった。私たちの事を正義の心をもった妖怪、ザシキワラシと思い込んだ悪者達は自らの最強を証明しようとあちこちから集まり、ことごとく警察に捕まっていった。逮捕イコール、ザシキワラシに敗北と思い込んだオヤジ狩りは自分が一番、を証明しようと集まり、警察も情報を訂正しなかったのでオヤジ狩り狩りはしばらく続いたという。
 私としては自ら望んでザシキワラシの再デビューをしようとは思わないが。
みんな体力的にボロボロだったからねえ。ただあの頃の自分たちに比べれば今の私たちは格段に強くなったので、新たな被害者が出たら考えよう。今は聞かないのよ、オヤジ狩りのことを。警察ががんばった結果だろう。
 なんとなく懐かしさを感じるのはあの時生まれた強烈な連帯感のせいかな。
もちろんそれは今でも健在だ。幼かった雫ちゃんは一番その影響を受けているのかもしれない。
 私や次郎ちゃんがいるからか、雫ちゃんも剣道部を希望したのだが経済的な理由であきらめたみたい。初期費用が高いんだよねえ、剣道は。
 美央さんが寄付してくれた防具一式は全部私たちの後輩の二年生が使ってしまっている。日向さんたち卒業する三年生が使っていた分も一年生が仮入部中に抽選会をして引き継がれていった。お古とはいえ先輩たちが活躍したことにあやかろうというのか、新品よりも人気があったのが笑えたけど。
 入部が確定したところで道着を、無い人は防具も用意しなければならない。
それまでは体育の授業で使うジャージでよかったんだけどね。
 結局、雫ちゃんは勇吾と同じ囲碁将棋部に入ることになったのだった。

 せっかくみんなと同じ学校に通えるようになったのに。なんでこうも思い通りにはいかないのだろう。お兄ちゃんからそれとなく聞き出した情報によれば、
無料で剣道を教えてくれるコーチの人がたくさんの防具を寄付してくれて入部すればその防具を使わせてもらえるらしい。うちはお母さんが働いているだけなので家計が少々苦しい。意外とお兄ちゃんは気を使って家の事を手伝ったりしていた。中学校でも道具にお金のかかる運動部はあきらめていたようだし。
私は次郎ちゃんと同じ剣道をやりたかった。里紗ねえさんがいるのも心強いし、問題の防具は貸してもらえるのだからと。お金はかからないのだと。
 ちょっと考えが甘かった。
 無料でコーチをしてくれる人が、毎年防具を寄付するはずもないのだ。しかも
次郎ちゃんが練習を手伝ったりするから、初めて参加した大会なのに優勝してしまった。そりゃ話題にもなるし、人気も出るよね。まともに買えば十万円はする防具らしいから進んで自腹を切る人はいないか。卒業する先輩が使っていた
防具三人分も抽選にもれちゃったし。くやしいことにみんなは防具が買えないわけじゃなくて、大会初参加で優勝した先輩の防具を自分が受け継ぎたかったの思いが強いのだ。まあ、くじで負けた私も悪いと、奥の手を使おうとしたら。中学の部活にマネージャーは要らないと言われてしまった。
 私が奥の手に気づいたマンガ、舞台は高校だったっけ。
桐崎雫、一生の不覚だわ。うーん、無念。
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