僕たちは正義の味方

八洲博士

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 今回は試合に出る事のなかった里紗ねぇを含めて大会の優勝チームとしての写真の撮影が行われた。もちろん、防具は全て外し、トロフィーや賞状を手に
しての撮影である。それ自体は珍しくもない光景なのだろうが、僕の目から見ても明らかに取材陣の数が多かった。まあ大会関係者以外にも注目を集める要因はあるのだが。
 大会の予選、本選を一度も負けることなく勝ち進んだ無名の学校。その剣道部が大会初参加で、去年出来たばかりとくれば。話題性は十分、朝の情報番組にて
取り上げられてもおかしくはない。剣道に関心がない人でも聞き流せないほどのインパクトがある。にもかかわらず情報量が少なすぎた。今、夏休みだし。
予選での公式な記録としては参加者氏名と各試合の結果のみ。毎年行われる地方予選にはそれで十分だったのだが。常勝者の没落とそれに入れ替わる者の力の片鱗が垣間見えるなかに、異物としか言えないものが紛れ込んだのだ。余りにも現実感の乏しい展開に大会役員達はただ淡々と記録を残すにとどまった。試合結果の異様さに気付いた者が詳細を調べたくとも規定以上の手掛かりはなく、ただ会場に足を運んだ者のみが語る感想を集めて当日の状況を再構築するしか手段がなかったのである。
毎年、勝ちあがってくる好敵手を下した新参者。敗者の不様を笑うことなく、新たな敵の情報に聞き耳を立てる用心深さを持つ者だけが対抗策に辿り着けたのだろう。その策がどこまで通用するかは別問題として。
取材する側にとってもうちの学校は厄介な存在だったと思う。お互いがブッキングしないように決められた活動日こそ守ったけれど、活動時間を早朝にずらしたので取材にした人はすべて無駄足を踏んだことになる。あんまりに気温が高すぎたからの対応なんだけどね。
結局、話半分で取材に来たら僕たちが大番狂わせをやらかしたので。それは当然ニュースとして報道する価値があるけれど、試合の動画だけじゃカッコがつかない。解説にもコメントにも情報が足らないのだ。それを取材するチャンスは今しか無い。選手たちに注目が集まる影で山下コーチが早々に姿をくらませた。
一年生部員十五名の引率として一足先に帰還すると。あまり根ほり葉ほり聞かれると、答えづらい質問がくるかもしれないし。
 選手たちも着替えに退席した。いくら優勝したからといって道着のまま帰るわけにもいかないし、インタビューに答えるのは顧問の香川先生にお任せだ。
決して香川先生を囮とかイケニエしようとかは考えていなかった。ほかに適任がいなかっただけだと弁明しておく。
 先輩たちからはトロフィーを預かり、一年女子のみんなからは大きめの袋に入った大量のタオルを受け取った。
 「「「使ってください」」」
 とは、言われたものの。何に使えと言うのかコレを。
 しばらく悩んでようやく彼女たちの考えに気が付いた。先輩たちと合流するべく取材の人達の目を逃れていたのだが、このトロフィーは目立ちすぎる。そこでトロフィーにタオルを巻き付け剥がれないように上からビニール袋を被せる。これで発見されにくくなったかな。
今日試合をしたグループ以外にも泊りがけで参加した学校の選手が宿泊地を引き払っていたのであちこちに防具を担いだ集団が見受けられる。トロフィーさえ目立たなくすれば、取材陣から逃れられるかもしれない。

 「「「次郎君、お待たせー」」」
 程なく先輩たちとは合流出来た。
 「あれ、トロフィーは?」
 「それならコレ。一年女子が応援で振り回してたタオルで包んである」
 「何でまた、そんな事を」
 「さすがにトロフィーは目立つじゃん。取材の人に捕まりたくないし」
 「ああ、それねー」
 今の僕たちは取材を受けたくなかった。優勝インタビューともなればダンマリを決め込むのは不自然だし、変な繋がりで山下コーチに関する質問をされたくはなかったのだ。見方によっては山下哲也の暴力行為を学校側が隠したことになる。
それが山下コーチの就任の原因となれば。うかつなことは言えないのだ。
 難しい応対は香川先生にお願いしておこう。

 結果としては里紗ねぇたち女子剣道部のピンチに駆けつけてくれた先輩達を大会に参加させることが出来たし、番狂わせの優勝までできたのだから。当人の努力もあるけど、いい思い出が出来たと思う。あとは高校受験に頑張ってもらうばかりだと、思っていたのだが。

 二学期が始まったところで散発的に剣道部に取材が来るようになってしまったのだ。全国大会優勝のインタビューにおいて孤立無援で対応した香川先生は
顧問としての自分が経験不足の常識知らずな面を強調することで乗り切ったのだが、少々取材陣を煙に巻き過ぎたらしい。
 「顧問の先生にお聞きしますが、選手たちの戦い方が独特な印象を受けました。これは先生の指導でしょうか」
 「私が顧問をするのは剣道部が初めてでして、私自身特に剣道に詳しいということはないんです。部員には自主的に剣道教室に通っている者もおりますので生徒同士で話し合ったのかもしれません」
 「えーっと、そうですか。相手の竹刀を狙って弾き飛ばすというのはなかなか目にしない斬新な発想に思えますが、どうなんでしょう」
 「そうなんですか?相手の攻めてくる竹刀を防がなかったら一本取られてしまいます。特に疑問は感じませんでしたがそれって斬新なんですか」
 「私はそう感じましたが。今回が初出場の大会で優勝したわけですが、何か
秘訣のようなものはありますか。特殊なトレーニングとか」
 「先程も申し上げた通り、私は顧問としては経験不足で、見かねた男子部員が練習を手伝ってくれたくらいです。これといった特別な指導なんて出来ませんし。優勝も選手各人が頑張ったからとしか言えませんね」
 「・・・そうですか。インタビューに応じていただきありがとうございました」
 お花畑な空気をまとって取材陣をいなした香川先生は大物だな、というのが部員の共通認識になったのだった。
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