僕たちは正義の味方

八洲博士

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 嫌な予感はよく当たる、というよりはいい加減、学習させられた予測の範囲になるのだろう。今夜もオヤジ狩りと遭遇した。中学校の隣にあるグランド周辺。道路に立ちふさがっての待ち伏せだった。
 「お前等が座敷童か」
 「違います!」
 リーダーなのか、一人が僕たちを問い詰めるが即答で否定する。でも座敷童の童という字と学童保育の童という字は同じだから年齢的には合っているのか。僕たちは生徒ではなく、児童と呼ばれているし。でも座敷童という妖怪ではないのだ。嘘をついてはいない。
 「なら、精霊なのか」
 「・・・違います!」
 しくじったかな。返答が少し遅れてしまった。精霊って言葉がかっこよく聞こえるな、とか考えてしまって。座敷童と呼ばれるよりは精霊と呼ばれた方が断然カッコイイと思う。男子児童としては譲れない考え方だ。だけど、女の子たちの理解は得難いようで呆れと怒りの視線を背中に感じる。
 「・・・まあ、どうでもいい。座敷童だか精霊だか知らんが、そいつらがこの辺りに出没するってのは調べがついてる。あとは餌になる奴をいたぶって誘き出すだけだ。中年のオヤジでも、夜遊びするガキでも、奴らが釣れるならどっちでもかまわん。せいぜい泣き叫べ」
 リーダー以外の男達は黙ったまま武器を構える。見たところは動きにスキがなくこれまで戦ってきたオヤジ狩りのなかでは一番強いかもしれない。相手は五人。今日はスタンガンを持った奴はいないようだが油断はできない。こちらは連日の疲労があるのだ。苦戦は免れないだろうと気を引き締めていたのだが。

圧勝でした。流石、初見殺しの必勝パターン。我ながらすごい作戦を考えたものだよ。悟君との合作だけどもね。今回の相手も流れるように策にはまり、路面のコンクリートに拘束されていく。ここまできれいに策にはまると、いっそスタンガンを持ってきていればまとめて自爆感電させられるので無力化が楽なのにとさえ思ってしまう。オヤジ狩り達は泣き叫ぶほど、僕たちをいたぶるつもりだったようなので反省を促すオシオキタイムに突入する。あとで彼らを捕まえる警察も楽ができるように。
 時間はまだ早いけど今夜はこれで引き上げよう。疲れてる上に無理を重ねることもない。中学校の隣にある公園は、野球やソフトボールなどの球技が出来るバックネットだけがあるグランドの周りを遊歩道が囲み、外周には木々が林のように植えられている。思うに打球が公園を飛び出さないための柵がわりなのだろう。ここを突っ切ってショートカットをしよう。さっきのオヤジ狩りの気になる発言もあるし。
 奴らはこの辺りに出没する座敷童や精霊を誘き出すために僕たちに襲いかかったと言った。テレビや新聞で騒がれる座敷童、精霊とは僕たちのことだ。
なぜか奴らは人を襲い、お金を奪う事よりも僕たちと戦うことを優先している。
そして僕たちがここを通ることを調べて待ち伏せしていた。でもどうやって?
秘境の探検じゃない、ただのランニングのコースだ。悟君が考えて僕たちで決めた。どこかに届けを出したり、許可をもらうようなものじゃない。どこにも記録なんて残っていないはずなのに。何を調べた?
 グランド外周の遊歩道を外れて林の中を突っ切りながら考える。当然ながら歩道と違い林の中には街灯もない。影絵のような木のシルエットを避けながら土の地面をゆっくりと走る。木の根に足を取られないように。
 オヤジ狩りは酔っ払いは通るけど、人気のない場所で行われる。駅から僕たちの住む団地までのコース上で、夜に人気のなくなる学校と隣り合う公園の周辺。僕たちがオヤジ狩りと遭遇するのも毎回この辺りだ。
 そこまで考えた時、僕の中でなにかが警報を出す。
 この先、生き物がいる。
 たくさん、大きい。
 人間!
 「気をつけて。人がいる。たくさん「おせぇー」」
 ギャリーン!
 雄叫びとともに振るわれた雫ちゃんへの一撃を里紗ねぇが弾き返す。だけど咄嗟の防御で体勢が崩れたところを蹴り飛ばされた里紗ねぇが目の前の地面に転がされる。蹴った男はくの時に曲がった警棒を見て舌打ちしてるが。小さな子供相手に力を込め過ぎだろう、殺す気か。
 「こんなガキどもが精霊とはな。この目で見てもまだ信じ難いが。おかしな力を使うバケモノ共だ。畳みかけろ」
 見られていたのか、さっきの戦いを。
 だから雫ちゃんが狙われた。先程の攻撃は僕たちをバケモノ扱いする手加減無用の全力攻撃なのか。
 里紗ねぇがやられた。蹴りの不意打ちがきまった様でまだ立ち上がれていない。片手でわき腹をおさえてうずくまっている。
 気が動転した隙に、周りを囲まれてしまった。相手の数は、九人もいる。
 雫ちゃんがドーナツ状に水煙の目くらましを展開させるがこちらの居場所は分かっているので奴らはお構いなしに突っ込んできた。
 「しゃがめ」
 勇吾にぃの声と肩に置かれた手が僕をしゃがませる。
 横薙ぎに一閃した炎の刃は雫ちゃんの水煙を消し飛ばし、オヤジ狩りの足を止めた。
 目隠しをされたまま、おおよその見当で突撃したオヤジ狩りは目の前を横切る炎の刃を仰け反り避けると、慌てて距離を取り包囲を緩めた。
 「バケモノが悪あがきしやがって。俺達の最強伝説のために大人しく狩られてろ」
 「いやいや。座敷童捕まえましたっつって、テレビ局にせりおとさせねぇか。パンダ以上の珍獣だ。億単位の稼ぎになるぜ」
 軽口を叩きながらも常に立ち位置を変えているのは悟君の落とし穴を警戒しているのだろう。自分勝手な連中が言いたい放題してる。僕たちの必勝パターンは初見殺しなだけに、手口がばれると相手に付け込まれることも気づけた。
この反省点を生かすためにも僕たちは負けてはいられない。
こんな奴らに負けちゃいけないんだ。
まだ立ち上がれない里紗ねぇを横目に、僕は屈んで大地に両手で触れる。
 「土下座でごめんなさいってか。今さらおせえんだよ、ガキが。大人に逆らった罰をくれてやる・・ぜ・・・」
 勝ち誇った男達の顔が凍り付く。自分達の勝利宣言を遮るように木々が騒めきだしたのだ。足を止め夜空の闇に眼を凝らした男達の体を何かがすくい上げていく。暴れることも許さずに。
 
 うずくまる里紗ねぇを抱き起すと両肩に手をまわした。蹴られた勢いで転んだせいで、あちこち擦り傷だらけだ。痛めたわき腹ごと、まとめて治さないと。
いい加減に慣れてはきたけど、今回は特に、念入りに治癒のチカラをこめていく。
 「すごい、痛みが飛んでった」
 明るくはしゃぐ里紗ねぇだったがすぐに表情が曇る。
 「ごめんね、やられちゃって」
 「仲間を庇った結果だもの。名誉の負傷でしょう。もちろん傷跡なんて、一つたりとも残しはしないけど」
 カタナに寄りかかり肩で息をする勇吾にぃに手を貸し、疲れた疲れたとつぶやき続ける悟君を引っ張って街灯の下へ。互いの土埃をはたき落とすと団地に向かって歩き出す。
 「それで、あいつらはどうなるの」
 「最初の奴らはいつもの通りだから、警察に発見されて、回収されて御用!でしょ。放置したら通行の邪魔になるし」
 「公園の奴らは?」
 「一晩に二組は初めてだから。見つかれば回収、逮捕だけど。警察に見落とされてたら、寒空の下で一晩反省かな」
 「ひょっとして、かなり、怒ってる?」
 「自分勝手な考えで、言いたい放題にやりたい放題されたからね。正直言えば今でも怒ってるし一晩反省じゃ足らないとも思ってる」
 「ふうん、そうなんだ」
 あっさりとした返事の割には、なぜか感じる続きを促すような目線と素振り。
 あんまりクドいと、ネクラとか陰湿だよとドン引きされないか心配したけど。
そうでもないのかな。里紗ねぇ自身はお腹を蹴られた怒りもあるだろうし。
 「詳しくは明日の朝のお楽しみってことで」
 雲のない澄んだ空に月が輝く夜だった。
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