僕たちは正義の味方

八洲博士

文字の大きさ
上 下
28 / 144

28

しおりを挟む


 「さあて、そろそろ出発の時間だけども、勇吾にぃ、大丈夫?」
 「んうぉ、俺はいつでもだいじょぶだ、ぞ」
 疲れを引きずった返事を返す勇吾にぃの顔は気持ち、やつれて見える。燃え尽き症候群なんて言葉を連想させる小学校六年生とはいかがなものかと考えてみるけどなかなか頭が回らない。妹の雫ちゃんはちょっとうつろなまなざしで虚空を見つめている。よく子供は風の子とか言うけど疲れを知らない体ってわけじゃない。体が疲れ切れば心も重くなる。
 「売り出し中のアイドル候補のプライベート・タイム」なんて言葉が浮かんできたけど口に出す元気がない。勇吾にぃがいうには家の中ではいつものように
明るかったというから、お母さんの静さんを心配させないように気を使っていたのかな。
 「くっ・・・雫・・・恐ろしい子・・・・」またまたそんなセリフが浮かんできたけれど。一体どこでそんな言い回しを見たんだろう?たぶんマンガ、かな。そしてやっぱり、口に出すには元気が足らなかった。ただ頭に浮かんでくるだけ。これも疲労なのかな。
 里紗ねぇも無口ではあるが疲労は軽いのか。木刀ならぬ鉄刀は重たいのに振り回す本人はその重さを感じない、というのは反則技な気もするが。正直ちょっとうらやましい。だからこそそのアイデアを僕なりに真似させてもらったけど。
 僕はというと、疲れて気分は重いけど、体は動かせる。なぜかそんな気がする。
食べると元気が出る不思議な草を知っているとか実は押すと疲れが取れるツボを知っているとかではないので。一応、はっきりと言っておく。

 先週の話、僕たちはパトロール中、一週間ぶりにオヤジ狩りと遭遇したんだ。一回目と違うことは創意工夫の時間が取れたことで余裕ができた。ぶっつけ本番で戦った感想は力不足。里紗ねぇと勇吾にぃ以外は大人を相手に正面からぶつかるだけの力がない。でも証拠隠滅騒ぎの時にいろいろな力の使い方があることに気がつくことができた。カタナの形で振り回すだけが能じゃない、まるで魔法のような使い方に。悟君と宿題しながらの、軽口からでたアイデアだけど。これが予想以上に、使えたのだ。正攻法では出番のなかった悟君と雫ちゃんだけど今や二人だけでもオヤジ狩りを拘束できてしまうようになった。手間も精神的な負担も大幅に減らしたこの必勝パターンは勇吾にぃが手放しで(主に雫ちゃんを)ほめるものだった。
 そこまではよかったのだけど・・・・。
 オヤジ狩り逮捕の件が記事になり、テレビでも取り上げられてからというもの、パトロールの度にオヤジ狩りと遭遇するようになった。毎日というか毎晩というか、とにかく連日だ。昨日なんかはひどいことに、酔っ払いのおじさんが襲われる前に僕たちが絡まれた。前を歩いていた大人達を駆け足で追い抜いたところで声をかけられたのだ。
 「おい!待て、お前ら」
 別に無視してもよかったのだが、突然の大声に驚いた雫ちゃんが足を止めてしまった。みんなで駆け戻って彼女を守るように囲む。
 「なんだぁ?ただのガキかぁ?・・・いや、まてよ・・」
 最初に声を掛けた男は驚いた後になにか考え込んでいる。
 「お、女の子?こ、こんな時間にき、きみたちみたいな子供が出歩いちゃ、いけないんだな。うへへへ、なんでい、いけないか、ちゃんとおしえるのが。ぐぅへへへ・・・大人と、しての義務、なんだな」
 戸惑う男の前に別の奴が割り込んでくる。鍛えたようには見えないが服がはち切れそうな体をしている。昨日テレビで見た映画のボス、マシュマロのオバケみたいだ。あれはあれで不気味だったけど、コレはまた別な意味で気持ち悪い。
 「あーっ、またかよ。いい加減、病気だな。まあいい。このガキ、シメるぞ」
 男達が特殊警棒を構える。なんだろう、特殊警棒はオヤジ狩りの標準装備なのか。能がないというか個性がないというか。とはいえ、槍とか太刀とか持ち歩いたら目立って仕方ないか。つまらないことを考えていたら、不気味男が懐から黒くて細長い箱を取り出す。その先端には小さく電流の光が見えた。テレビドラマでたまに見ることがあったけどスタンガンの実物を見ることになるとは。
 「オシオキの、じかんかなぁー」
 ニタリと笑う男の、ひと際気持ち悪い雄叫びに、女の子たちが反応する。
 里紗ねぇが殺気立ち。
 雫ちゃんが冷気を迸らせる。
 実体化した冷水がスタンガンごと男の体を包み込む。
 「が、ガッ、ごおふ・・・」
 武器がスタンガンという一番の脅威だった不気味男は一番目に排除された。
自分で用意したスタンガンに感電した不気味男は片言の悲鳴を上げて崩れ落ちる。その足元に広がる冷水の膜はオヤジ狩り全員の足を捉えていた。数秒後、仲間の電撃でオヤジ狩りは一人残らず行動不能になった。暴走気味な雫ちゃんの力技だった。倒れ伏した強盗犯が逃げられないように手足の部分だけコンクリートを軟化させる悟君だったが里紗ねぇが鉄刀を叩き付けて強盗の手足をコンクリートの沼に沈めていく。オヤジ狩りとは言え、コンクリートの沼で溺死することがないようにと繊細な力加減をした悟君の気配りを台無しにする、ちょっと残念な里紗ねぇだった。
 人間疲れてくると怒りやすくなったり細かな作業を雑に片付けようとしたりする。ああいう変態じみた、いや、変態そのものか。に対して生理的嫌悪感が警報を鳴らすというのは悪い事とはいえない。見た目は無力な少女なのだからと襲いかかるほうが悪い。
 うすうす感じる、というよりは確信のレベルで今夜も僕たちはオヤジ狩りに遭遇するだろう。新聞の記事を見ても分かるのだが、同じ犯罪行為をしているが横のつながりはないようだ。なのに奴らは僕たちを捜して戦いを挑んでくる。
 完璧に、逆恨みだよねぇ。なにをムキになってるんだか。
 昨夜の戦いで里紗ねぇや雫ちゃんのストレスは多少発散されたかもしれないが、積み重なった疲労感は別の話だ。体調も万全とは程遠い。でもなあ、僕たちが行かなかった場合オヤジ狩りの被害者が増えるのは見過ごせない。
 見習い?正義の味方としては奴らに背中を見せる時は奴らを倒し切った時だけにしたい。
 だから、僕たちはいかなくちゃ。
 街灯の光に加え、月も夜道を照らしてくれる。
 さあ、今夜も走ろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜

みおな
ファンタジー
 ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。  そして、王太子殿下の婚約者でもあった。  だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。 「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」  父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。  

迷宮世界に飛ばされて 〜迷宮から魔物が湧き出す世界で冒険者として生きる〜

おうどん比
ファンタジー
 キャンプ場で紫色の月を見ながら酒を飲み、目が覚めると異世界。偶然助けられた赤髪の男性に、迷宮に潜ったり、魔物なんかと戦う冒険者になることを勧められ、色んな魔法を習得させてもらう。別れ際には当座の資金や色んな物も貰い、街へ向かう。  元の世界には帰れないようだが未練もない、ひとまず冒険者として一旗上げよう。  そんな始まりです。 ーーーー 現れたり消えたりする不思議な迷宮から魔物が湧き出す世界です。 冒険者として魔物を狩ったり、迷宮に潜ります。 元の世界のお菓子や娯楽を広めて、儲けたりもします。 妖精や魔物を仲間にしたりもします。 古い流行りの地の文多めの一人称小説です。 えっちなR18部分はノクターンに一部掲載してます。

まもののおいしゃさん

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
まもののおいしゃさん〜役立たずと追い出されたオッサン冒険者、豊富な魔物の知識を活かし世界で唯一の魔物専門医として娘とのんびりスローライフを楽しんでいるのでもう放っておいてくれませんか〜 長年Sランクパーティー獣の檻に所属していたテイマーのアスガルドは、より深いダンジョンに潜るのに、足手まといと切り捨てられる。 失意の中故郷に戻ると、娘と村の人たちが優しく出迎えてくれたが、村は魔物の被害に苦しんでいた。 貧乏な村には、ギルドに魔物討伐を依頼する金もない。 ──って、いやいや、それ、討伐しなくとも、何とかなるぞ? 魔物と人の共存方法の提案、6次産業の商品を次々と開発し、貧乏だった村は潤っていく。 噂を聞きつけた他の地域からも、どんどん声がかかり、民衆は「魔物を守れ!討伐よりも共存を!」と言い出した。 魔物を狩れなくなった冒険者たちは次々と廃業を余儀なくされ、ついには王宮から声がかかる。 いやいや、娘とのんびり暮らせれば充分なんで、もう放っておいてくれませんか? ※魔物は有名なものより、オリジナルなことが多いです。  一切バトルしませんが、そういうのが  お好きな方に読んでいただけると  嬉しいです。

おれの、わたしの、痛みを知れ!

えいりす
ファンタジー
当たり前に魔法が存在する世界。 小さな村に住む少年エイシェルと、街に住む少女アリスは同じ18歳の誕生日を迎えていた。 その夜、村への魔物襲撃が起き、身に覚えのない謎の痛みに襲われ、不思議な体験をする。 この出来事を境に数奇な運命に翻弄される事になる…… 「いてっ!?足の小指ぶつけた…」 「痛!!?…ちょっと…気をつけてよ!!」 ……果たして2人の運命やいかに!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...