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しおりを挟む里紗ねぇの頬が赤みを増していくのとタイミングを合わせておじいさんの
まぶたが下がっていく。いろいろ食べたり飲んだりしたから眠くなったのかな。
完全にまぶたが閉じる頃には里紗ねぇの顔が真っ赤になっていた。
えっ、熱でもあるの?ひょっとして風邪?心配してのぞき込む顔色は見る間に赤みが抜けていく。
正常に戻った、というより血の気が引くという表現がぴったりの勢いだ。何が原因の変化だろうと里紗ねぇの視線を辿る。
眠ってしまったのだろうか。おじいさんはガックリと首を折り曲げ、地面と顔が平行になるまで頭を下げている。
その後頭部の上に小人が立っていた。身長は二十センチくらいで着物を着て頭に冠を乗せている。着物もお正月や成人式で見かけるものとはちょっと変わった形をしている。でも一番変わっているのは後ろが光っていることだろう。背中のほうが明るくてまるでお日様が隠れているみたいだけど目が開けられない程眩しくはない。顔は面長で色白、すっと伸びた鼻にちょび髭を生やしうれしそうにニコニコと微笑んでいる。
「子供達よ、このようにして会えることをうれしく思う。よくぞ私の課した
試練を乗り越えてくれた」
「試練?この状況は、この世界はあなたが作り出したものなのですか」
突然現れた小さい人に対して冷静に疑問をぶつける悟君。普段から質問慣れ
しているのかな。このチャンスを逃さないのは流石だけど。雫ちゃんはもちろん里紗ねぇも勇吾にぃも無表情で固まっている。僕だって聞きたい事はあるけれど質問という形にまとまらなくってうまく言葉にできない。
「その通り。私は君達のようなお互いに信頼できる仲間がいる子供達を探している。ここは歪んだこの世の義を正す力、その力を託され振うに相応しい者かを見極めるための場。私が創った試験会場だと言えば解りやすいかな」
「・・・・・・・・なぜ、子供なんですか。僕たちよりも大人のほうがその『力』とかを正しく使えると思います」
「大人だからといって新しい力をすぐに使いこなせるわけじゃない。慣れる
まで練習をする時間が必要なのは子供と変わらないよ。だが彼らは大人だから
という根拠のない理由で力を使いこなせると思い込んでしまう」
小さな人。この人が神様なのかな。神様はひと息ついて悟君に話し続ける。
「例えばそう、君はバスに乗ったことはあるかい。たくさんの人が乗れるほど
大きいのに狭い道でも人や物にぶつからず、バス同士すれ違うことも出来る。
それはバスを操る者が十分に練習をして免許を受けているからなんだ。しかし
ただ動かすだけなら君にも出来る。エンジンをかけ、ギアをつなぎ、アクセルを
踏めば良い。でも練習をしていない君は人や物を避けられずにぶつかったり轢いてしまうかもしれない。皆の為のバスなのにそんなことでは安心して使えないよね」
「どんな事でも練習が大事というのは僕でもわかるし大人でも分かるとおもいます」
「大人でも特別な力を持つと傲慢、自分勝手になる人が多くてね、困るんだが。
例えばそう、お巡りさんは君たちを守るためにピストルを持っている。万が一のためにね。でもその腕が悪かったら悪人を懲らしめるどころか無関係の人を傷つけてしまう。かと言ってお巡りさんの鉄砲が水鉄砲だったら。腕が悪くても
誰も傷つかないかわりに悪人もお巡りさんを怖がらない。大人に力を託すということはなかなか難しいことなんだ」
考え込む悟君に神様が言葉を続ける。
「私も君たちに明日から悪人退治を始めろと急かすつもりはない。これから
託す力はまだ小さく弱いが君達と共に成長する。しっかり練習して力を十分に使いこなして欲しい」
悟君は黙ったまま、他の皆も。神様的には僕らが力を受け取ることは当然らしい。でも力ってどんなモノなんだろう。
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