僕たちは正義の味方

八洲博士

文字の大きさ
上 下
7 / 144

7

しおりを挟む


 なにかよくわからない、正体不明のものがじりじりと迫ってくる不安。体が重いというのか気が重いというのか。似た経験はあったけど、ここまでつらいのは初めてだ。目の前の正体不明が独演会を続けている、落語じゃないけど。
 「昔は良かったとは言わないけれど、世の中自分勝手な輩が増えすぎた。偉くなりたいけれど面倒くさいのはイヤ。つらいことも疲れることも他人任せで自分はラクして暮らしたい。アナタが稼ぐ人、私が使う人と言いたい放題でやりたい放題なんだ。神様は見捨てることなく説得を続けるけれどもその声は届かない。神の声を聴く資格がないんだな、連中には」
ここでおじいさん、ひと息ついて胸を張る。
 「そこで儂の出番じゃ。儂、神の声聞こえるもん。神の言葉を預かり伝える。
それが預言者、神の使いじゃ。儂の言葉は神様の言葉、儂をもてなすことは神様をもてなすことになる。解るかな、君たち。儂、偉いのよ。いつでも神様のメッセージを聞き逃さないように耳を澄まし、身辺を守っている。神域の見回りなんて朝飯前なのじゃ。はっはっは」
ここでおじいさん、身を乗り出すと大事な秘密を打ち明けるように声を潜める。
 「ところで君たち、何か食べる物、持ってない?儂、腹減っちゃって」
神の使いだというおじいさんの、予想を超えた発言は私たちの思考を停止させる破壊力をもっていた。
 「君たちハイキングに来たんでしょ。だったらお弁当は当然持ってるよね。儂、見回り途中でここに迷い込んだから、朝ご飯も食べてないし食べる物も持ってない。もうお腹がペコペコなのよ。君たちの背負ってるリュックサック、中身はお弁当でしょう。半分ずつでいいから分けなさい。あ、儂の神様ってばその辺の神様よりも全然偉いからね。今儂に恩を売っておくと後々お得よん」
神の使い、には見えないおじいさんの爆弾発言に私の頭の中はちょっと忙しい。
遭難寸前の緊急事態に子供達から食べ物を巻き上げようとするだけでもダメなひと判定だけど、私たちを助けた理由が最初からお弁当狙いだとしたら。
これはもう最高にダメなひと確定である。
ただこちらにも弱みがある。お弁当なんて、持っていないから。
 「おべんとうはね、おかあさんが持ってくれるの」
ニッコリと微笑む雫ちゃんの反撃に対してガッカリなおじいさんは背もたれに寄りかかるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

(完)私を捨てるですって? ウィンザー候爵家を立て直したのは私ですよ?

青空一夏
恋愛
私はエリザベート・ウィンザー侯爵夫人。愛する夫の事業が失敗して意気消沈している夫を支える為に奮闘したわ。 私は実は転生者。だから、前世の実家での知識をもとに頑張ってみたの。お陰で儲かる事業に立て直すことができた。 ところが夫は私に言ったわ。 「君の役目は終わったよ」って。 私は・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風ですが、日本と同じような食材あり。調味料も日本とほぼ似ているようなものあり。コメディのゆるふわ設定。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

処理中です...