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入学編 ~特別試験~
第8話
しおりを挟む俺たちが図書館へ向かう中ですれ違ったのは巡回をしている警察の人たちだけだった。おそらく大半の生徒たちはこの時間は合宿所に行っているのだろう。警察の人たちにはこんな時間に何をしているのかと聞かれたが、
「新入生の特別試験の最中です。」
と答えると、
「そうか、あの学園の試験はこんな時間にまでやっているのだね。だが、時間も遅いのだし夜間はあまり出歩かないようにね。まぁ、試験中ならこれぐらいで済ませるけど、普段なら生徒手帳とか見せてもらって学園側に連絡しないといけないからね。」
「そうなんですか。以後気を付けます。」
「わかってくれたならいいんだ。まぁ、気を付けて、頑張りなさいよ。」
そう言って警察の人はまた巡回に戻っていった。受け答えをしている間の正悟はなぜか俺を陰にしていた。
「おい」
「ん?なんだ、どうした?」
ちょっと焦ったようにそう返事をするので俺はあきれた口調で、
「どうした?じゃない。聞かなくても言いたいことはわかるんじゃないか?」
「ははは…」
そう乾いた笑いをしてから、一息ついて
「悪いとは思ったんだけどさ~、過去にやんちゃしてお世話になったことがあってさ。あの時は仕方なくそういうことをしたってのに見つかってさ、その後こっぴどく怒られちまったってわけよ。それ以来どうも苦手意識を持っちゃって。」
きまり悪そうに俺にそう教えてくれた。
「そうか。」
と俺は返事をしただけだった
「悪いな、こんな奴でよ。けど、その時だけだから、俺がしたのは!そもそも俺はそう言う殴り合いとかは向いてないんだ。けど、あの時はもう逃げきれなくてな…。」
「事情は分からないが、話したくないならそれでいい。別に正悟がどんなことをしてきていたとしても過去のことだ。今の正悟は今の正悟だ。俺は今のお前しか知らない。話したくなったら話してくれればいい。それで関係が変わるならその程度だったんだからな。」
俺もすべてを話しているわけではないしな。最後の言葉は口には出さなかったが、自分が感じていることは伝えた。
「………ありがとよ。いつか話すタイミングが来たら話す。」
そう正悟言ってきた。
「ああ。その時が来れば聞いてやる。」
そんなことも話しながら図書館へ向かっている道中、俺たちは話が一段落したところで話題は試験の内容に戻っていた。
「それにしてもさ、」
「ん?どうした?」
「いや、あまりに他の連中に会わなすぎじゃないか?確かにずっと俺たちは体育館にいて、その後移動したのも港だけだったから仕方ないのかもだけど。」
言われてみればそうかもしれないが、
「そうだな。だが、他の人たちは学校の敷地内や、居住区の方に行ってるんじゃないか?自分たちで住みたいところも見てくるように言っていたのだからな。港方面の後に居住区に向かうならこの辺りを通る必要はないしな。」
「それなら会わないことにも納得だが、やっぱり、みんながどれくらい集めてるか気になっちまってさ。さすがにまだ大丈夫だとは思うけどこれで俺たちが最後だったらと思うと焦るじゃん?」
「おそらく大丈夫だろう。試験が始まっておよそ9時間が経過したところだ。大判の人たちは休んでいるはずだし、そうでなくとも解いている時間と押しに行く時間も考慮すればもっと時間は必要だ。」
希望的推測を含みながらそう言った。
「それに、別に俺たちは競争をしているわけじゃない。全て集めきって提出することを目標にしている。今回は早さを俺は考えていない。」
「う~ん、だけどよ~。」
「ゆっくりやっていこう。間違えてしまう方がここでは問題だ。」
「わかったよ。」
不承不承といった様子だが、俺の意見には納得してくれたようだった
そうこうしているうちに学園の門まで戻ってこれた。
「やっと学園だな~、いや、遠かったわ~。」
「まずは図書館に行くぞ、確認を済ませる。」
「わかってるって。」
俺たちは、敷地内に入ると図書館を目指すことにしたが、
「そういえばさ、ちょうど近くじゃないか?」
「ん?どれがだ?」
「ほら、西グラウンドだよ!」
図書館に行くことで忘れてしまっていたが、西グラウンドも答えになっていた。港や体育館があるのは島の西側でコンビニには体育館からは南東といった位置関係だった。そのため港へ向かうときは視界に入らなくて忘れてしまったが、今いる位置から西グラウンドは近かった。
「俺も忘れていたよ、まずは、こっちのスタンプを押しに行くか。」
そう言って俺たちは、西グラウンドへ向かった。
西グラウンドは、そこそこ広くネットでおおわれていたりもしていて、野球部が主に使用しているグラウンドだった。こんな時間であるためグラウンドは真っ暗だった。月明りで全く見えないわけでもないが足元に何があるかまではわからなかったので俺たちは念のために端末のライトをつけた。
「ここが西グラウンドか。」
「どこにスタンプがあるか早く探そうぜ。」
そう言って正悟は端末のライトをつけてまた走って行ってしまった。スタンプのある場所に行くたびに走って行ってしまうのだろうか。そんなことを考えながら俺は正悟の端末のライトを目印に走っていったと思われる方向に歩いて行った。
「遅いぞ~。」
そんなことを言って、スタンプ台と思われる机の前で正悟は手を振ってきた。どうやらスタンプは西グラウンドの入り口から一番奥に置かれていたらしい。なんとも面倒なところに配置してくれる。内心でそんなことを思いながらも
「これで二つ目だな!」
そう言って俺が来るまでスタンプを押すのを待っていたようで、スタンプを自分の用紙に押して、俺にスタンプを差し出してきた。
俺もスタンプを受け取り、自分の用紙に押した。
このスタンプには「よくできました」の下に「新しいルールを作ってください」と書かれていた。やはり意味が分からなかった。とりあえず他のスタンプも集めればわかることだろう。
「残りは六個か。」
「まだ半分も集めてないんだな~。早く次のスタンプも押しに行こうぜ。」
「そうだな、そういえば、いや、…そうか、そう考えると…、」
「ん?どうしたんだいきなり考え出して?」
「少し待ってくれ。」
「お、おう。ごゆっくりと。」
俺は正悟を黙らせて思考に沈んでいった。俺は、次のスタンプと聞いたときに学内の他のスタンプも押しに行くのがちょうどいいんじゃないかと考えた。学内とその近辺にあると考えられるのは、図書館、生物講義室、そして居住区との間にある男子学生寮だ。ここで思い出したのが男子学生寮を言う解答を得た時のやり取りだった。あの時は、
『だが、これが答えだとすると他にもあるかもしれないな。』
『ん?何がだ?』
『気づいてないのか?男子学生寮ということは、当然男子しか入れない。女子が自力ではスタンプを押しに行くことはできない。こんな不平等な試験はしないはずだろう?』
『っていうと、あれか。残った問題の中に女子しか入れない場所が答えになっているかもしれないのか?』
『おそらくそうだろう。』
というやり取りをしていた。つまり残った⑥は女子しか入れない場所が解答になっていると考えればいいのではないか。そう考えると、問題文には、“じょい こしつ しーぷ うる”とあったが、この文章の中には“じょし”という単語が含まれている。これを取り除いて残った文字は“い こしつ ーぷ うる”だ。“しつ”はそのまま“室”だろう。すると残るは“い こ ーぷ うる”だ。並べ替えてうまくいく組み合わせは、“こうい”と“ぷーる”。これらを組み合わせると“プール女子更衣室”となった。
なるほど、あの単語の羅列は並べ替えられて作られただけだったのか。わざわざひらがなにしていたのは単語の並び替えに気づきやすくさせるためだったのか。そんなことも考えながらも、今思いついた考えを正悟に伝えると、正悟は驚いていた。
「すごいな、蒼!いや、俺にはこんなこと考えつかないって!すごいな!」
最後の難題も解き終わって正悟は興奮しきっていた。
「全ての解答は得た。スタンプをさっさと回収しに行こう。」
俺はそう言って興奮して騒がしくなった正悟を置いて先に行こうとした。
「待ってくれよ~!」
正悟は焦りながらも追いかけてきた。
現在時刻02:50 18:00までおよそあと15時間 現在集めたスタンプ2
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