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再会編

02:再会

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「は? 誰?」

 女は不愉快そうに口元を歪めた。その所作を見て、美代子は確信を持った。

「私! 桜木美代子! 小学五年の時、同じクラスだった!」

「......ああ! あのひょうきん女か!」

 水谷加奈はタバコの火を消して立ち上がった。

「お昼の校内放送の、一発芸大会に出てた!! なにその格好?! マジうけるんだけど」

 彼女は腹を抱えて大声で笑いだした。その姿が、記憶の中の加奈の姿とは程遠く、美代子は驚いて言葉を失ってしまった。

 人は変わるものだ。美代子も変わった。

 一発芸大会に出るくらい、人前に立つことが好きだった女の子が、イジメを受けて、鬱屈とした性格になった。

 その鬱屈とした女が、誰も予想だにしなかった役者の世界に足を踏み入れ、そして......

「なんでも良いけど、成人式は? ここで何してるの?」

 美代子が訊ねると、加奈はやっと笑いを収めて、鼻を鳴らした。

「晴がましい人間の近くにいたくないだけ」

「じゃあ、なんで会場に来たの?」

「ババアが行けって、うっせえんだもん!」

「バ......ババア?!」

 美代子は腰を抜かしそうになった。加奈は、小学生の時、既に母親の事を「母」と呼ぶくらい礼儀正しかった。

「お母さん」

 加奈は言い直し、新しいタバコを取り出した。

「父親、転勤族だし、地元帰って来ても、小学五年で引っ越した人間の事なんて、誰が覚えてる? 中学になりゃ、グループが出来るし、カーストも出来る。私の居場所なんて無いでしょ、普通に考えて。あんたくらいのもんだよ、覚えてるの」

「忘れないよ」

 美代子は、思い切ってその場に腰を下ろした。

「楽しかった事って、あんまり無いもん。加奈や......百合と過ごした時間は、忘れられない! ねえ、今は何やってるの? イラストは今も描いてるの?!」

「描いてるワケが無いよね。ウチより上手い人なんて、幾らでもいるし。ああ、勿論テニスもやってないから!」

 加奈は先回りして答えた。小学生の頃は、毎日近所のテニスクラブで練習を“させられていた”が、中学の部活では校内のエースにすらなれなかった。

「伊豆で銀細工のアクセサリー売ってんの。まあ、それなりに楽しいよ。で? そっちは?」

「専修学校で......お芝居の勉強を」

「ブレないね~。だけど、その顔じゃ上手く行ってないんだ?」

 加奈も座り直し、ニヤリと笑った。

「暇だしアンタの話を聞かせてよ。その代わりウチの話もする。......今のアンタになら、分かって貰える気がするからさ」

 そう言った彼女の横顔に、ほんの少し影が差した。その顔を見て美代子は、彼女が本当に加奈なのだと心から納得出来た。
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