私が一番あなたの傍に…

和泉 花奈

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8章:新しい一歩と将来への不安…

22話

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「ごめん。お父さんに気を遣わせちゃったみたいで…」

寧ろそれはこちらの台詞だ。お客様で来たのにも関わらず、家から追い出す形になってしまったのだから。

「ううん。寧ろこっちの方こそごめんね」

嫌な思いをしたと思う。母の気持ちは分からなくもないが、いくらなんでも愁に対して失礼な態度だったと思う。

「それは大丈夫。親なら子供を心配する気持ちは普通だから。特に女の子なら尚更ね」

親の気持ちは分かっているつもりだが、自分の彼氏に対して失礼な態度を取られて怒るのは、彼女として当然だと思う。
愁は嫌な思いをしたと思う。それでも私の親だから、気丈に振る舞ってくれるその健気な懐の深さに、私の心は突き動かされた。

「そう言ってくれてありがとう。お母さんは昔から心配性で。お母さんと話してると、たまに窮屈に感じる時があって。
でもお父さんは、あまり何も言わない人で。昔からお母さんのフォローをする感じで。お父さんとの方が私は話しやすくて。今日、改めてそれを実感した感じかな」

今までお互いに家族の話をしたことがなかった。それよりも自分達のことに夢中で。話す余裕がなかった。
今更になって、自分の家族の話をするのが恥ずかしい。嫌な部分を見せてしまったから余計に。

「なるほど。そうなんだ。確かに俺が見た感じでも、お父さんとの方が幸奈は距離が近いのかもね」

傍から見た愁でもそう思うってことは、実際に母と私の相性は悪いんだと思う。
だから今回のことも、上手くいかなかったことに納得している。母だから仕方ない。今回は諦めて、また日を改めて説得するとしよう。

「そうかもしれない。でも父はあまり多くを語らないから、何を考えているのかよくわからないけどね」

いつも父は中間的立ち位置として、見守ってくれている。片方に加担しすぎると、片方が嫌な気持ちになるから、敢えてどちらにも加担しないようにしてくれているのだと思う。
そんな父は、誰よりも家族を愛している。そんな愛情の深さに、私は改めて父親の存在の大きさに助けられた。

「俺からしたら、よく分かるよ。娘が大事で。お母さんのことも大事で。どっちも同じくらい愛してるってこと」

同じ男として、愁だからこそ分かる気持ちなのであろう。
まだ気が早いが、愁の父親像が浮かんだ。きっと良いお父さんになりそうな予感が今からした。

「愁の言う通りだと思う。お父さん、いつも間に入ってくれるから。お父さんもお母さんもだけど、二人共、私のことをちゃんと愛してくれてるなって実感した」

今までだって実感できなかったわけじゃない。ずっと愛情を感じてこれた。
今回のことでよく分かった。自分のことを考えた上で、反対してくれているということを。
それを大好きな人に教えてもらった。やっぱり私には愁しかいない。改めてそう思った。

「俺もそう思う。だからなんとかなるよ。今回のこともさ」

本来なら、私が気を遣わなければならない立場なのに。逆に気を遣わせてしまっている。
もうこれ以上、気を遣わせるのは止めよう。気持ちを切り替えて、前を向こうと思う。

「うん。そうだね。私のお父さんとお母さんだからね」

下ばかり見ていたって、どうにもならない。今は親と向き合いたい。自分の気持ちを分かってほしい。これからも長い付き合いになると思うから。

「そうだね。幸奈のお父さんとお母さんだからね」

繋いでいる手を、優しく握り直した。あなたが傍に居てくれて嬉しいと伝えるために。

「もうちょいゆっくりしてから、幸奈ん家に戻ろっか」

今はまだもう少しだけ二人の時間を大切にしたい。本来の目的からズレてはいるが、一旦、色んなことは忘れて、この時間をもう少しだけ楽しんでから、両親と向き合いたい。

「うん。そうしよう。…そうだ。ついでに私が通ってた小学校とか見に行く?」

愁にもっと私のことを知ってほしい。今まで教えなかった分、知って欲しいと思った。

「行きたい。どんな学校に通ってたのか、気になる」

愁が前向きに私の提案に乗ってくれた。それが嬉しくて。思わず抱きつきそうになった。
でも堪えた。ここは地元。誰に見られているか分からない。ご近所で噂が流れたら、苦労するのは親だ。これ以上、親に迷惑はかけられない。なので、手を繋ぐだけにしておいた。

「それじゃ、小学校まで案内するね」

「お任せします。よろしくお願いします」

私が昔通っていた小学校まで向かった。手を繋ぎながら。
小学校は実家から少し歩いた距離にあるので、比較的に近い方ではあった。逆に中学は少し遠いが…。

「ここが私が通ってた小学校」

あっという間に着いてしまった。それにしても、あの頃と何も変わっていない。それがとても懐かしくて。感動した。

「ここが幸奈が通っていた小学校か…」

愁も考え深そうにしていた。きっと自分の小学生時代と重ねているのであろう。
誰しも学生時代は経験したことがあるからこそ、自分に置き換えて想像しやすい。私も愁の通っていた学校が見たくなった。

「愁さえよかったら、愁の実家に挨拶しに行った時も、愁の通ってた学校を見てみたい」

勇気を出して、お願いしてみた。昔の私ならできなかった。自分でも良い方向に変わったと思う。

「いいよ。俺も幸奈に地元を紹介したい」

お互いに今まで知らなかった部分を見せ合い、更に自分のことを知ってほしくもなったし、知りたいとも思った。こうやって、お互いのことを知っていけたらいいなと思う。

「それじゃ今度、紹介してね」

ただ地元を紹介してもらうだけなのに、今からワクワクしている自分がいる。
そんなワクワクを胸に抱きながら、今は自分の地元を紹介することに集中した。

「おう。もちろん。ついでに地元の友達も紹介するな。連絡しておかないと」

どうやら友達も紹介してくれるみたいだ。私もいつか地元の友達を紹介したいな。皆に自慢したい。この人が私の彼氏だと。

「私も今度、友達に紹介するね。また一緒に地元に来ようね」

友達だけじゃなく、親との仲も深めたい。いつか将来のパートナーとして隣に居るために。

「おう。また来たい。幸奈の地元、良い所だな」

自分の故郷を褒めてもらえるのは嬉しい。最近帰っていなかったけど、これからもたまに帰ろうかな。地元の空気を吸うのも悪くないと思えた。

「でしょ?空気も美味しいし」

「確かに美味しいな」

ここで一つ問題点が浮上した。それは部外者なので学校の中には入れないということだ。
外観だけ見れたからいっか。このままご近所を散歩すれば。なんて呑気に構えていたら、携帯が鳴った。これは電話がかかってきた着信音だ。慌てて私は電話に応じた。

「もしもし…」

『幸奈、そろそろ家に戻ってきても大丈夫だから、愁くんを連れて戻ってきなさい」

電話の相手はお父さんだった。どうやらお母さんを宥めることができたみたいだ。

「分かった。愁を連れて帰るね」

そこでお父さんとの会話は終わった。私は愁に状況を説明した。

「愁、お父さんから電話。もう帰ってきても大丈夫だって」
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