私が一番あなたの傍に…

和泉 花奈

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8章:新しい一歩と将来への不安…

18話

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           *

バイトが終わり、身支度を整えた後、すぐにスマホを取り出し、愁にメッセージを送った。

“愁と話がしたいです”

勇気を出して、メッセージを送った。愁から良い返事が返ってくることを願った。

「彼氏に連絡したんだな」

蒼空が声をかけてきた。休憩室でスマホを触っていただけで、すぐにバレたみたいだ。
先ほど小林さんと三人で話していたので、バレるのも時間の問題というわけである。

「よく分かったね。そうだよ。彼氏にメッセージを送りました」

未だに蒼空が何を考えているのか分からない。フラれた相手をいつまでも想うようには見えないが、気持ちを知ってしまった以上、多少は警戒してしまう。

「そっか。上手くいくといいな」

その一言だけ告げると、蒼空は更衣室に入っていった。
普通に心配してくれていただけみたいだ。そんな蒼空の優しさに、私の心は救われた。

「ありがとう、蒼空」

蒼空に聞こえているか分からないが、私は口に出して伝えた。聞こえていることを願って…。
そんなタイミングで、スマホの着信音が鳴った。仕事中はマナーモードにしているが、仕事が終わるとマナーモードを解除する。
なので、着信音に気づくことができた。私はスマホをチェックした。愁からの返事が返ってきたと期待して。

ロック画面を見ると、やっぱり愁だった。メッセージの内容を確認した。

“俺も幸奈と話したい”

嬉しかった。愁にそう言ってもらえたことが。
すぐに返事を返した。愁も同じ気持ちで嬉しいという想いを伝えるために。

“そう言ってもらえて嬉しい。今から会える?”

自分から積極的にいけなかった頃が嘘みたいだ。こうやって誘えるようになった自分が嬉しかった。
同時に愁からの返事をドキドキしながら待っていた。誘いに乗ってくれたら嬉しい。
でも、急なお誘いだから、向こうだって難しいかもしれない。断られても凹んだりはしない。寧ろ応じてもらえるだけで有難い。
そう思いながら返事を待っていると、またすぐに愁から返事が返ってきた。

“俺も会いたい。今すぐに会おう”

その言葉を見た瞬間、今すぐに会いたい衝動に駆られた。
走る必要なんてないのに、私の身体は勝手に走り出していた。
どうして人は誰かを好きになると、周りが見えなくなってしまうのだろうか。不思議だ。この感覚から抜け出せない。どんなに時間が経っても愁を好きな気持ちは加速していくばかりだ。
そんな想いを抱きながら、私が走って向かった先は一つだった。私達がいつも必然的に集まる場所。

「幸奈……っ!」

愁も走って向かって来たみたいだ。まさかお互いに走って向かって来るなんて思ってもみなかった。
それだけで嬉しかった。私だけじゃないと分かったから。

「愁……っ!」

愁の元へと駆け出した。早くあなたに会いたい。会って抱きしめてほしい。
もう悩んでいたことが嘘みたいだ。好きな人に会えるだけで、今までの気持ちが全て吹き飛んだ。
どうして悩んでいたのだろうと思うくらいに。今なら自分の気持ちを素直に言える。そして、二人にとって良い答えが出せそうな気がした。

お互いにお互いの元へと駆け寄り、どんどん私達の距離は近づいた。
そして、私達は無事に出会えた。私の目の前に今、愁がいる。

「俺、嬉しかった。幸奈から連絡をもらえたこと。今こうして幸奈に会えたこと」

私達二人が何も言わずに集まれた場所。それは私の家だった。
私達二人にとって、私の家は定番の場所となっていた。あの頃からずっと…。

「私も嬉しい。まさか待ち合わせ場所を決めてなかったのに、こうして会えるなんて…」

もし、ここですれ違っていたら、私は今日、愁に自分の本当の気持ちを言えなかったかもしれない。
私達は歩幅を一緒に歩いているという実感が持てた。だからもう大丈夫。悩まずに本音を話せそうだ。

「本当にな。でも俺達なら絶対に会えるって思ってた。だって俺達にとってここは大切な場所だから」

愁の言う通りだ。私達なら敢えて言わなくても、最初から分かっていたのかもしれない。
それぐらい私達にとって、ここで集まることは当たり前になっていた。いつの間にか二人にとって大切な場所になっていたみたいだ。

「そうだね。私もそう思う。最初からそのつもりでいたから」

私から誘ったのだから、当然、場所は私の家うちだ。それも急なお誘いなので、家以外は考えられなかったし、最初から考えていなかった。

「うん。俺も勝手にそのつもりでいた。やっぱり俺達の始まりの場所はここだから」

こういう時、二人の愛の力が試されるのかもしれない。私達はそういった意味では、ちゃんと答えが合っていたみたいだ。

「よかった。すれ違わなくて…」

「だな。それだけは本当によかった…」

無事に会えたことだし、早く家の中へ入ろうと思う。

「とりあえず、家の中へ入ろう」

「そうだね。そうしよう」

私ん家の玄関の前まで、二人で一緒に歩いた。
そしてそのまま玄関の鍵を解錠し、家の中へと入った。

「お邪魔します…」

愁は一言言ってから、玄関から上がり、部屋の中へと入った。
私は遅れて愁の後に続いた。

「どうぞ。大したお構いはできませんが」

昔、同じようなことを言ったような気が…。
そんなことはどうでもいい。今から二人で大事な話をすることの方が大事だから。

「大丈夫。今日は話がしたくて、幸奈ん家に来たから」

きっかけは私から作ったにせよ、お互いに同棲のことについて話したいと思っていた。
それを今夜、お互いに思っていることをぶつけ合う。もっと二人の関係を進めるために。

「そうだね。話そっか」

私は愁が座って待っているリビングへと向かった。そして、愁の向かいに座った。

「あのさ、いきなり同棲のこと提案してごめん。実は俺、ずっと幸奈と同棲したいって思ってたんだ。幸奈と付き合うことになってから。付き合う前に幸奈を傷つけた分、男としてちゃんと責任を取りたい。いつか幸奈と結婚したいってちゃんと考えているからこそ、自分なりのやり方で幸奈を大事にしたいって。
でも、よくよく考えたら、自分の気持ちしか見えてなかったと思う。ごめん……」

愁が私を大事に想ってくれているのはちゃんと伝わっているが、そこまで真剣に考えているとは思わなかった。
私は今、愁とお付き合いできただけで楽しくて。それだけで胸がいっぱいで。
同棲も含め、さすがに結婚まで考えていなかった。
大学生なんて皆、殆どそんな感じで恋愛していると思う。愁みたいに真面目に将来のことまで考えている彼氏は、なかなかいないし、大事にしないといけないなと、私も改めてそう思わされた。

「ううん、私の方こそ自分の気持ちしか見えてなかったと思う。ごめん…」

大学生という自分の立場に縛られていた。その先の未来のことなんて、その時になって考えればいいと思っていた。
でも、愁は違った。現時点でちゃんと二人の将来について、考えてくれていた。
それは彼女として、とても嬉しいことで。真剣にお付き合いしてくれているんだなと、実感することができる。
そうやって言葉でも態度でも伝えてくれる愁のことが私は好きだ。私ももっと愁との将来について、真剣に考えたいと思った。

「いや、幸奈が謝る必要はない。俺が今の自分の立場をよく分かっていなかったと思う。学生同士で同棲なんて言われても、不安に思う幸奈の気持ちの方が正しい。後数年待てば、俺らは社会人になる。それまで待てばいいだけの話だ。ずっと一緒に居ることには変わらないんだから」

愁もきっと周りに相談したのであろう。多分、中山くん辺りがお灸を据えたんだと思う。
それで愁も自分なりに考え直し、今日私と話し合おうと思い、会ってくれた。
私も黙ってないで、自分の気持ちを伝えてみることにした。私も私なりに周りに相談し、自分の気持ちを素直に伝える大切さを教えてもらったから。
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