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7章:決着と未来…
16話
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あまりにもあっさりと終焉を迎えたので、拍子抜けしている。
修羅場にならずに済んでなによりだが、こんなにもあっさりだとは思ってもみなかった。
完全に想像とは違っていたため、一気に気が抜けてしまい、呆けている。
「大平さん、大丈夫?」
小林さんが心配して、声をかけてくれた。
小林さんはこちらの事情を全く知らないので、私がこんなにも呆けてしまっていることを、不思議に思っているに違いない。
「うん、大丈夫。寧ろめちゃくちゃ元気」
「そうなの?それならよかった」
小林さんは更に不思議そうな顔をしていた。
私はそんな小林さんの顔を見て、思わず吹き出してしまった。
「え?本当にどうしたの?大平さん」
「ううん、なんでもないよ」
小林さんのお陰で元気をもらえた。
まだまだ楽しくバイトを続けられそうと思った瞬間だった…。
「そう?それじゃ支度が終わったから、お先に失礼するね」
そう言って、小林さんは先に帰ってしまった。
私は慌てて支度を始めた。早く支度して、お家に帰りたい。ゆっくりするために。
それに早く会いたい。報告したい。愁に…。
そんなことを考えていたら、あっという間に支度を終え、そのままバイト先を後にした。
すると、バイト先の外に、迎えに来てくれた愁が居た。
一気に心が跳ね上がった。
「愁…」
嬉しすぎて思わず、気がついたら声をかけていた。
すると愁が、私の声にすぐに気づいてくれた。
「おう。お疲れ、幸奈」
いつも言ってくれる労いの言葉。それにプラス、温かい穏やかな笑み。
私はこの人のこういうところが大好きだなと、改めてそう思った。
「ありがとう。愁も一日お疲れ様」
今日、愁はバイトがない日なので、お迎えに来てくれているが、日中は大学があった。
お互いに一日頑張った。労いのお礼に労った。
「いやいや、俺よりも幸奈の方が疲れてるだろう。学校にバイトに両方あったわけだし」
確かに愁の言う通りだが、愁だってバイトがなかったにせよ、学校があったわけで。それなりに疲れているはず。
それなのに、こうしてお迎えに来てくれる。その心遣いに、前のアルバイトの頃から感謝している。
「それはそれ。これはこれ。愁だって学校があったわけだから。
その上でこうしてお迎えに来てくれてありがとうって思ってます」
まっすぐに自分の想いを伝えた。今日は自分の想いをまっすぐに伝えたくなるような気分だった。
「そう言ってくれてありがとう。俺もこうしてバイト終わりに会えて嬉しい」
お互いにお互いを想い合う。これだけで幸せだ。
「それじゃ、帰ろっか。早く二人っきりになりたいし」
あのことを早く報告したかった。
「お、おう。そうだな…」
愁が照れてる。どうやら愁は、攻められるのに弱いみたいだ。
たまにこうやって攻めると、愁の反応が面白くて。楽しくなってしまう。
「報告したいことがあって。実はね…」
わざとためを作ってから言った。意味深だと伝えるために…。
「今日、蒼空が話しかけてきて。それでね、ちゃんと断った。これでもうこの件は一件落着です」
心から安心することができ、顔が思わず緩んでしまった。
ようやく平穏を取り戻すことができた。もう私達を邪魔するものはない。
これで心置きなく、イチャイチャできる。
「そっか。それならよかったぜ」
心做しか、愁も表情に嬉しさが滲み出ている。
蒼空のことで一番気を張っていたのは、愁かもしれない。
愁の心の負担を軽くできたのだと思うと、私の心の負担も一気に軽くなった。
「うん。本当によかった」
これからは気にせずに、堂々とアルバイトにも行けるし、愁とも楽しく過ごせる。
この先の未来に良い未来があることを想像しながら、二人で夜道を歩いて帰った…。
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