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4章:不安…〜愁目線〜
11話
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俺がまっすぐに幸奈と向き合わなかったせいだ。
だから、この状況は自業自得だ。仕方ないと何度言い聞かせても、俺の心の中は不安でいっぱいだった。
だって、目の前に完璧なイケメンが現れたから。
あっという間に幸奈を奪われるのではないかという焦りが募った。
それに明らかに幸奈に好意を寄せている。それだけは絶対にそう言える。
自分の手元に好きな子を置きたい気持ちは、よく分かる。
でもそれ以外、特に動きがない。それがどうも引っかかる。
警戒しつつも、俺がずっと幸奈の傍に居るから、何もできない。そう高を括っていた。
ライバルはそんなに甘くなかったと、後で思い知ることになる。
その前に俺は、自分の気持ちしか見えていなかったのだと思い知るわけだが…。
まだ何も知らない俺は、自分の気持ちで振り回されていた。
*
常に幸奈の傍に居ないと、いつか知らないうちに幸奈が奪われてしまうという恐怖から、俺は自分の時間や身を削ってでも、幸奈の傍に居たかった。
「幸奈、お待たせ」
最初の頃は、よく嬉しそうな表情をしていた。
でも、最近は困った表情を浮かべている。
「ううん、全然待ってないよ。迎えに来てくれてありがとう。帰ろっか」
幸奈は優しいから、俺を傷つけまいと話を合わせてくれている。
俺はそれにずっと甘えていた。心の中のどこかでそれでいいとずっと思っていた。
何度もそれを繰り返しているうちに、申し訳ない気持ちがありつつも、このまま上手くいくとどこかでそう思うようになり、幸奈の気持ちに気づかないフリを続けた。
だから、バチが当たったんだ。
ライバルはジワジワと仕掛けてくるようになり、心に余裕を失った。
そのまま気持ちは暴走し、自分の気持ちしか見えないまま、俺は幸奈の心を苦しめた。
そうなる手前で、もっと幸奈の心に寄り添っていればよかった。そうすれば、好きな子を悲しませずに済んだのに…。
それができなかった。言いたくないことを言わせてしまい、それがとても悔しかった。
“私にも私の交友関係があることを分かってほしい。愁以外の人と過ごす時間も大事だから”
幸奈の言う通りだ。それぞれ交友関係があり、それぞれの時間がある。
やっと幸奈とお付き合いできるようになって、浮かれていた。ずっと傍に居たいと思っていた。幸奈もそう思っていると思っていた。
それは俺の勝手な思い上がりで。幸奈はちゃんと最初から自立していた。
俺はそんな幸奈の姿を見て、このままじゃいけないと反省し、自分を変えたいと思った。
ここで反省しないまま進んだら、それこそ幸奈に捨てられると、危機感を抱いた。
だから俺は、幸奈の気持ちを受け止めた。彼氏として、ずっと幸奈の傍に居たいから。
そして、自分の想いを誤解されないように、ちゃんと言葉で伝えた。
今度は幸奈がまっすぐに受け止めてくれた。
それが嬉しかった。こういった心のやり取りを大切にしたいと思ったし、幸奈が伝えたかったことってこういうことなのかなと思った。
そんな温かい気持ちを胸に抱きながら、より一層、幸奈を大事にしたいと心に誓った。
*
メッセージでやり取りを交わし、自分がアルバイトがない日はお迎えに行くことになった。
代わりにお互いにアルバイトがある日は、お互いの時間を大切にすることにした。
今まで一緒に居た時間を、大学の勉強をする時間に回せばいいだけだ。
それに幸奈が頑張っていることを、彼氏として応援したい。幸奈が幸せならそれでいい。
今まで焦っていた気持ちが嘘みたいに、心が穏やかで。
その穏やかな気持ちのまま、俺は幸奈を迎えに行った。
すると、すぐに幸奈の姿を見つけた。
「おーい、幸奈…?!」
そこには蒼空という男の姿があった。
俺は何故か蒼空の姿を見た瞬間、身を潜めてしまった。
なんとなく嫌な予感がした。胸騒ぎが止まらなかった。
「幸奈。俺は幸奈のことが好きだ」
ちょうど蒼空が幸奈に告白しているところに、遭遇してしまったみたいだ。
気まずい。なんとかバレずに、最後までやり過ごしたい。
それに幸奈がどう答えるのか知りたい。信じているけど、もし…ということもある。
黙って覗き見することに罪悪感はあったが、それでも恋人がどう思っているのか知りたいと思う気持ちは、当然な気持ちで。
俺は申し訳ない気持ちよりも、知りたいと思う気持ちの方を優先させた。
「答えは今すぐじゃなくていい。少しでもいいから、俺のことを意識してほしい」
幸奈が答える前に、蒼空はその場をはぐらかした。
向こうの方が一枚上手で。答える隙を与えずに、後日に持ち込んだ。
そうすることで、考える時間が増えるので、その分可能性も高くなる。
まるで俺達に色々あったことを見透かしているかのような、絶妙なタイミングだ。
そのまま蒼空は、一言告げてからその場を去った。
俺はその場からすぐ離れられず、立ち尽くしていた。
数分後、脳を切り替え、幸奈の元へと向かった。
「お待たせ。幸奈、迎えに来たよ」
俺の顔を見て、幸奈は少し気まずそうな顔をしていた。
俺に見られていないか、心配しているのであろう。
「ありがとう。でもごめん。まだ帰り支度をしてないから、あともう少しだけ待ってて」
「分かった。待ってる」
俺の言葉を聞いて安心したのか、はたまた俺が何も言わないことに安心したのか、幸奈はそのまま中へと戻った。
俺も心の中で安心した。なんとなくあの場に居合わせたことを知られたくなかった。
「お待たせ。支度が整ったので、帰れます」
幸奈が戻ってきた。こういう時ほどいつもより早く感じてしまうのは何故だろう。
幸奈の突然の登場に驚いてしまった。
「お、おう。それじゃ、帰ろっか」
いつもなら手を繋ぐタイミングだが、今日はそれができなかった。
その日は幸奈を家まで送り、俺はそのまま自分の家へと帰った。大学のレポートがあると嘘をついて。
心の中のモヤモヤが抑えきれなかった。こんな自分が情けなくて。蒼空がカッコイイと、不覚にもそう思ってしまった…。
でも、今の俺にできることは、幸奈を信じて待つこと。
どっしりと構えて、幸奈が話してくれるのを待つ。その上で幸奈を優しく包み込む。
その日がくるまで俺は、敢えて知らないフリを続けることにした。それが幸奈のためと思った。
少しでも精神的に成長したい。心に余裕がある男になりたい。
今は俺が踏ん張る時だと信じて、自分の心を落ち着かせた。
だから、この状況は自業自得だ。仕方ないと何度言い聞かせても、俺の心の中は不安でいっぱいだった。
だって、目の前に完璧なイケメンが現れたから。
あっという間に幸奈を奪われるのではないかという焦りが募った。
それに明らかに幸奈に好意を寄せている。それだけは絶対にそう言える。
自分の手元に好きな子を置きたい気持ちは、よく分かる。
でもそれ以外、特に動きがない。それがどうも引っかかる。
警戒しつつも、俺がずっと幸奈の傍に居るから、何もできない。そう高を括っていた。
ライバルはそんなに甘くなかったと、後で思い知ることになる。
その前に俺は、自分の気持ちしか見えていなかったのだと思い知るわけだが…。
まだ何も知らない俺は、自分の気持ちで振り回されていた。
*
常に幸奈の傍に居ないと、いつか知らないうちに幸奈が奪われてしまうという恐怖から、俺は自分の時間や身を削ってでも、幸奈の傍に居たかった。
「幸奈、お待たせ」
最初の頃は、よく嬉しそうな表情をしていた。
でも、最近は困った表情を浮かべている。
「ううん、全然待ってないよ。迎えに来てくれてありがとう。帰ろっか」
幸奈は優しいから、俺を傷つけまいと話を合わせてくれている。
俺はそれにずっと甘えていた。心の中のどこかでそれでいいとずっと思っていた。
何度もそれを繰り返しているうちに、申し訳ない気持ちがありつつも、このまま上手くいくとどこかでそう思うようになり、幸奈の気持ちに気づかないフリを続けた。
だから、バチが当たったんだ。
ライバルはジワジワと仕掛けてくるようになり、心に余裕を失った。
そのまま気持ちは暴走し、自分の気持ちしか見えないまま、俺は幸奈の心を苦しめた。
そうなる手前で、もっと幸奈の心に寄り添っていればよかった。そうすれば、好きな子を悲しませずに済んだのに…。
それができなかった。言いたくないことを言わせてしまい、それがとても悔しかった。
“私にも私の交友関係があることを分かってほしい。愁以外の人と過ごす時間も大事だから”
幸奈の言う通りだ。それぞれ交友関係があり、それぞれの時間がある。
やっと幸奈とお付き合いできるようになって、浮かれていた。ずっと傍に居たいと思っていた。幸奈もそう思っていると思っていた。
それは俺の勝手な思い上がりで。幸奈はちゃんと最初から自立していた。
俺はそんな幸奈の姿を見て、このままじゃいけないと反省し、自分を変えたいと思った。
ここで反省しないまま進んだら、それこそ幸奈に捨てられると、危機感を抱いた。
だから俺は、幸奈の気持ちを受け止めた。彼氏として、ずっと幸奈の傍に居たいから。
そして、自分の想いを誤解されないように、ちゃんと言葉で伝えた。
今度は幸奈がまっすぐに受け止めてくれた。
それが嬉しかった。こういった心のやり取りを大切にしたいと思ったし、幸奈が伝えたかったことってこういうことなのかなと思った。
そんな温かい気持ちを胸に抱きながら、より一層、幸奈を大事にしたいと心に誓った。
*
メッセージでやり取りを交わし、自分がアルバイトがない日はお迎えに行くことになった。
代わりにお互いにアルバイトがある日は、お互いの時間を大切にすることにした。
今まで一緒に居た時間を、大学の勉強をする時間に回せばいいだけだ。
それに幸奈が頑張っていることを、彼氏として応援したい。幸奈が幸せならそれでいい。
今まで焦っていた気持ちが嘘みたいに、心が穏やかで。
その穏やかな気持ちのまま、俺は幸奈を迎えに行った。
すると、すぐに幸奈の姿を見つけた。
「おーい、幸奈…?!」
そこには蒼空という男の姿があった。
俺は何故か蒼空の姿を見た瞬間、身を潜めてしまった。
なんとなく嫌な予感がした。胸騒ぎが止まらなかった。
「幸奈。俺は幸奈のことが好きだ」
ちょうど蒼空が幸奈に告白しているところに、遭遇してしまったみたいだ。
気まずい。なんとかバレずに、最後までやり過ごしたい。
それに幸奈がどう答えるのか知りたい。信じているけど、もし…ということもある。
黙って覗き見することに罪悪感はあったが、それでも恋人がどう思っているのか知りたいと思う気持ちは、当然な気持ちで。
俺は申し訳ない気持ちよりも、知りたいと思う気持ちの方を優先させた。
「答えは今すぐじゃなくていい。少しでもいいから、俺のことを意識してほしい」
幸奈が答える前に、蒼空はその場をはぐらかした。
向こうの方が一枚上手で。答える隙を与えずに、後日に持ち込んだ。
そうすることで、考える時間が増えるので、その分可能性も高くなる。
まるで俺達に色々あったことを見透かしているかのような、絶妙なタイミングだ。
そのまま蒼空は、一言告げてからその場を去った。
俺はその場からすぐ離れられず、立ち尽くしていた。
数分後、脳を切り替え、幸奈の元へと向かった。
「お待たせ。幸奈、迎えに来たよ」
俺の顔を見て、幸奈は少し気まずそうな顔をしていた。
俺に見られていないか、心配しているのであろう。
「ありがとう。でもごめん。まだ帰り支度をしてないから、あともう少しだけ待ってて」
「分かった。待ってる」
俺の言葉を聞いて安心したのか、はたまた俺が何も言わないことに安心したのか、幸奈はそのまま中へと戻った。
俺も心の中で安心した。なんとなくあの場に居合わせたことを知られたくなかった。
「お待たせ。支度が整ったので、帰れます」
幸奈が戻ってきた。こういう時ほどいつもより早く感じてしまうのは何故だろう。
幸奈の突然の登場に驚いてしまった。
「お、おう。それじゃ、帰ろっか」
いつもなら手を繋ぐタイミングだが、今日はそれができなかった。
その日は幸奈を家まで送り、俺はそのまま自分の家へと帰った。大学のレポートがあると嘘をついて。
心の中のモヤモヤが抑えきれなかった。こんな自分が情けなくて。蒼空がカッコイイと、不覚にもそう思ってしまった…。
でも、今の俺にできることは、幸奈を信じて待つこと。
どっしりと構えて、幸奈が話してくれるのを待つ。その上で幸奈を優しく包み込む。
その日がくるまで俺は、敢えて知らないフリを続けることにした。それが幸奈のためと思った。
少しでも精神的に成長したい。心に余裕がある男になりたい。
今は俺が踏ん張る時だと信じて、自分の心を落ち着かせた。
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