恋の微熱に溺れて…

和泉 花奈

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8度:穏やかな時間

24話

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そんな時はずっと時計を確認してしまう。早く仕事が終わらないかな…と。
待ち遠しいという言葉の意味を、最近初めて知ったような気がする。
慧くんの愛は甘くて。でも重すぎなくて。ちゃんと愛されているなと実感することができる。
この愛は私だけの特別で。他の人に渡したくないし、他の人に譲らない。絶対に。
それぐらい、私の愛は日に日に大きくなっている。どんどん慧くんを好きになっている。
この熱は上昇していくばかりで。冷めることを知らない。

きっと如月くんも心の中で一人、そうなっているのかもしれないと思うと、自分で沈静化しない限りは難しいなと思った。
でも如月くんなら、いつか沈静化できると思う。
早く如月くんと普通の同僚に戻れることを信じた。


           *


今日が一番、やっと仕事が終わったと思った。
ルンルン気分を隠せないまま、身支度を始めた。

「お疲れ様でした。お先に失礼します…」

気がついたら、駆け足で歩いていた。
待ち合わせ場所まで向かう道のりが、もっと短ければいいのに…と思ってしまう。
それぐらい今、慧くんに会いたい気持ちが抑えきれないまま、慧くんとの待ち合わせ場所に向かっている最中だった…。

「葉月…」

偶然、如月くんと遭遇した。
もしかしたら、如月くんのことだから、偶然を装った可能性も高い。
それでも今、私に会ったということは、答えは一つしかなかった。

「如月くん…」

「葉月、今、返事が欲しい」

やっぱりそうだった。
私はずっと頭の中で考えていた答えを、伝えることにした。

「ごめんなさい。如月くんの気持ちには応えられません」

はっきりと答えた。如月くんはそれを望んでいると思ったから。
すると、如月くんは優しく微笑んでから、喋り始めた。

「そっか。答えてくれてありがとう。幸せになれよ」

その言葉が嬉しかった。
これでやっとただの同僚に戻れると思った。

「うん、ありがとう。幸せになるね」

私がそう言うと、如月くんは、「またな」と一言だけ残し、その場を去った。
私はそのまま慧くんの元へと向かった。とびっきりの笑顔で…。

「慧くん、お待たせ」

先に待ち合わせ場所に着いていた慧くんに声をかけた。

「いえ。そんなに待ってないので大丈夫ですよ」

いつも通り、爽やかな笑顔でそう言われた。
そんな慧くんを見て、さすが慧くんだなと思った。

「…京香さん、嬉しそうですね。何か良いことでもありました?」

慧くんには表情だけで、すぐにバレてしまった。
私は先程起きた出来事を、慧くんに報告した。

「あのね、実はさっき如月くんに会ってね。それでやっと如月くんに答えを伝えることができたの。
これで心置きなく、同僚として接しられるなと思ったら嬉しくて」

如月くんが私を好きだという気持ち自体は嬉しかった。
でも、私が如月くんと同じ好きかどうかは別問題で。
私の気持ちは別の人にあったから、如月くんの気持ちに応えることはできなかった。

なんとなくだけど、最初から如月くんの気持ちに応えられないことを分かった上で、如月くんは告白してきたんだと思う。
告白された段階で、私が慧くんと付き合っていることを知っていたというのもあるが、それだけではなく、私が一切、如月くんを恋愛対象として見ていないことを、如月くんは分かっていたように思う。
これは完全に推測なので、本当のところは分からないが。
ただなんとなく如月くんなら、そんな気がした。

「そう…だったんですね。京香さんが嬉しそうでなによりです」

慧くんもどこか嬉しそうだ。
私が嬉しそうなのもあると思うが、慧くん自身も不安要素が取り除けたことで、心から安心できるようになったのが、一番大きな要因であろう。
やっとこの問題が解決できて、私も心から安心している。
もうこれで心置きなく、慧くんとイチャイチャできる。それも嬉しかった。

「うん、そうだね。…慧くん、早くお家へ帰ろう」

今すぐにでも、慧くんとイチャイチャしたい。その気持ちで胸がいっぱいだ。

「はい。早く帰りましょうか」

自然と互いの手が触れ合い、手を繋ぎ合った。

「…今夜は覚悟しておいて下さいね」

列車を待っている間に、耳元で甘く囁かれた。
どんな甘い夜が待っているのか、今からドキドキしているのであった…。
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