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一章

7話

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奥の個室に通された俺は

「ギルドマスターを呼んできますので少々お待ちください」

と言われたので、椅子に座って待っていた。待つこと数分、扉が開いた。

「お待たせした。私がこの支部のギルドマスターガイルだ」

「初めましてレギル・シュタットです」

「セリナ君から何となくの話は聞いた。魔法使いの講師をご所望だとか?」

う~~ん何か嫌味ったらしい言い方だな。まぁ、貴族の子供の我儘とか思われているのだろうか?

「はい。ご所望というと語弊があります。あくまで‘‘依頼‘‘です。あなた方に見つけてこいだ等とは言いませんよ」

「はぁ~」

何故か溜め息を吐かれた。

「あなた方はそう思っていてもこちらからすればそうは思えないというのが本音です」

ふむ……圧力とかそういう風に思うわけだ。

「では、はっきりと言っておきます。我がシュタット子爵家はそのようなことは一切致しません」

「と言われましても……」

困惑というより苦笑…いや、どことなく馬鹿にしたニュアンスを感じる。恐らく子供から言われても何の保証もない等と思っているのだろう。

ムッと思うが、ここである一つの可能性を思いつく

「なるほど……随分と冒険者思いのギルドマスター殿ですね。一瞬ムッとしましたが、今は逆に好感さえ持てますよ」

「っっ!?」

息を飲む声というか音がする。どうやら、予想は当たっていたようだ。

ギルドマスターは改めて態度を直し

「どうしてお気付きになったかお伺いしても?」

言葉遣いまで変わっていた。

「簡単な事です。まずは受付嬢の対応ですね」

「セリナ君の対応ですか?」

分かってないようだ。あの神対応とでもいうべきものは日常的に行われている当然のことだからであろう。益々ギルドマスターに対して好感度が上がっていく。

「私が子供であっても見下すことなくキチンと対応し、貴族だと分かってからは個室にまで通すという配慮をしている。これは、人の育て方が良かった。つまり、上司の管理能力や人徳に繋がるのではないでしょうか?」

これは、前世での実体験だが、上司ができていないことを部下に指摘しても部下としては、‘‘自分ができてないくせに何言ってんだ‘‘と受け入れ難いものだろう。

つまり、このギルドマスターは言ったことをキチンと部下に受け入れてもらえる良い上司という訳だ。

「きょ、恐縮です」

ギルドマスターが頭を下げる。どことなく嬉しそうだ。

「続けます。そんな良く出来た受付嬢の上司であるギルドマスターが何故あんな態度を取ったのだろうかと考えた時、そもそも何故冒険者ギルドに依頼に来ることになったのかを考えれば自ずと答えは出ました」

「それが――――」

「そうです。依頼を受ける冒険者が不利益を被ることにならないかを確かめるために私を挑発して試したという結論に至りました。如何ですかギルドマスター殿?」

パチパチと手を叩く音がする。

「お見事です。ご慧眼感服いたしました。シュタット子爵家も安泰ですね」

嬉しそうに言うが

「それはどうでしょう?そもそも、私は家を出る身ですから」

「そ、それはどういう!?」

「そもそも、貴族の次期当主や領地経営に携わることになる身なら、わざわざ魔法を覚える必要はありません」

そうなっていたとしても俺は覚えるだろうが、この世界の一般常識としてはそうなるのだ。

「っっ!?そうですね…誠に申し訳ありませんでした」

「いいえ。ともかく、家を出る身なので、自分の身を守る力が必要になるのです」

「なるほど。それで魔法を」

「とは言っても、魔法に限らず貴族にモノを教えるなんて言うのは問題点ばかりが思い浮かぶようで父の伝手は全て断られたようです。なので、冒険者の魔法使いに依頼に来た訳です」

「委細承知しました。ご依頼受けさせて頂きます。つきましては、条件面等をお聞きしたいのですが………」

「父上からはまずは実際に会ってから交渉をと言われています」

「それは……」

「依頼する身で図々しいのですが、シュタット子爵家で魔法の講師をするからには屋敷に出入りすることになります。警備の関係上誰でもいいとは流石に言えません。なので、実際に会ってからということなのだと思います。ご理解いただきたく思います」

「それはごもっともだと思います。ですが……」

「何かありますか?遠慮なくご指摘下さい」

「はっ。では、お言葉に甘えさせていただきます。まず、報酬が不明なのは良くありません」

「それは、さっき言った通りの理由なのですが……」

「失礼ながら、それはシュタット子爵家の事情です。報酬が不明であれば他の依頼と比較検討することすら出来ずさらに、貴族の屋敷に赴き直接報酬の交渉など面倒で依頼を受けようとは思わないでしょう」

「ふむ……言われてみれば当然ですね。冒険者側の視点が抜けていました。言いづらいこともご指摘下さりありがとうございます」

俺は自分の不明瞭さと相手への感謝を込めてキチンと椅子から立ち上がり頭を下げる。

「お、恐れ入ります」

ギルドマスターも頭を下げる。

「では、何か良案はありませんか?」

「はっ。それでは僭越ながらまず、魔法の講師をする場所ですが、シュタット子爵家の屋敷ではなく、このギルドの訓練場を使われるというのはどうでしょうか?それなら、警備等の問題は無くなります。また、冒険者側も貴族の屋敷に出入りするという緊張感や不安を回避することができます」

「なるほど。それは有りですね。そうなると報酬の目安と講師の能力、人柄となりますか………」

「そうですね…もしよろしければ私のほうから指名依頼という形で講師を選ばせていただけないでしょうか?報酬もこちらで目安を立てますので」

至れり尽くせりだな……

「そうですね…報酬にギルドの訓練場の利用料を上乗せしないということであれば私の方からは問題ないと思います」

「使用料を取らないですか…」

「こちらで講師の当てがないので、指名依頼にする分を負担するのは構いませんが、ギルドの訓練場に関してはこちらの警備の問題と冒険者側の緊張、不安の解消と双方に利があり、こちら側だけが負担するのはおかしいですから」

「仰る通りですね。では、ギルドの訓練場の利用料はいただきません」

「良いのですか?」

てっきり折半にとか言ってくると思っていたが……

「これを聞いたからと言って報酬額を減らすのはやめていただきたいのですが……」

と苦笑しながら前置きし

「シュタット子爵家の方が来てくださるという‘‘信用‘‘そして、‘‘繋がり‘‘だけでも十分ギルドの利になりますので」

と言った。

ふ~~む流石はギルドマスターというべきだろうか、俺には無かった視点の利だ。

「では、そのようにお願い致します」

「かしこまりました。数日中には‘‘良い‘‘ご連絡を出来ると思います」

笑顔のギルドマスターを背に個室を出た。




















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