君に贈る花

番茶

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消えた姿

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妻は私のことを覚えていない。 













あの日からずっと。 


彼女の中の私はいない存在。 




死んだと思っているわけではない。 
別の誰かだと思い込んでいるというのが正しい。 



彼女が事故にあった日から、彼女は私のことを「アスベル」と呼ぶ。 
愛しい人を見つめる目でその名を呼ばれる苦しみ。 
決して慣れるものではない。 







秘密の通路を作ったのは些細な出来心からだった。 
幼い頃、まだ婚約者を探していた彼女の両親によって引き合わされた私は可愛らしい彼女を一目見て好きになってしまった。 
会いたい想いを抑えられず、彼女が見つけたという奥まった場所にある丘の上の公園で私たちは会っていた。 


しかしそれも束の間。 
歳を重ね、学院に通うようになると私たちはいよいよ会うことができなくなった。 
婚約者としての口約束は当時あったものの、書面を交わしているという記憶はない。 


兵役をこなし、その後成人もしてようやく私は屋敷にもどることが出来た。 
とは言っても、城勤めは相変わらずで、ギリギリ通える程度の屋敷にこだわったのは一重に彼女に会いたかったがため。 


いよいよ、彼女との婚約が決まった頃、両親は亡くなった。 
しかし、私は特に悲しむこともなく、心にあるのはやはり彼女との結婚。 


喪が明けるまでの一年を使い私は彼女の部屋になるであろう場所に秘密の通路を作った。 
あの丘の上の公園を彷彿とさせるほんの悪戯のつもりで…。 


「まさか、こんなに役に立つとは…皮肉なものだ。」 





私は今日もタペストリーをくぐり、彼女に会いに行く。 




「やぁ、こんばんは。愛しい人…」 



彼女は愛おしむように私を見つめ、胸に飛び込んでくる。 



「会いたかった、アスベル…」 



違う男の名を呼びながら。 















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