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魔法教師、宮廷を出る

48話

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大神殿を出れば、大勢の民の賛美の歌がセリくんと陛下の姿を見送る中、まるでパレードの様な騎士団の行進と共にゆっくりと馬車を走らせる。

赤、白、黄色、紫…パステルな花弁が空を彩って、消える事なく石畳を鮮やかに飾り立てた。

『『皇太子様バンザイッ!!』』

思わず涙ぐみそうになるのをグッと堪える。
こちとら、いついかなる時もセリくんのお姉ちゃんなんだよ!弟がっ、小さな弟が立派になって、涙腺に来ない訳ないだろうがぁっ!!

心の中の悪態は、嬉しさの裏返し。

「おめでとう!」

『おめでとうございます!』
『おめでとう!』
『ヒペリオンに栄光を!!』
『太陽帝国に祝福を!!』

「おめでとう、セリくんの」

パチンと指を鳴らす。

宮廷までの道のりまっすぐ。


ヒューーー ドォォン ザァー~


私は特大の花火を空に撃ち上げた。


「私からの、最高の贈り物」


晴天の空を彩るのは、夜の花火の様に輝く花々。
世界一大きな花を、今日ここで咲かせる。


赤、青、黄色、白、オレンジ、緑


「ターマヤ~」

花火見たらコレ言いたくなるんだよね。


「セリニオス皇太子に祝福を!!」


花火の仕掛けを作動させる。


「ヒペリオン帝国に栄光があらん事を!!」


青空に空に咲かせた太陽の花。

火花は魔法により一粒一粒が多種多様な花へと変わり、風に乗って舞う。


鈴蘭…幸福の再来

ゼラニウム…君ありて幸福、尊敬、信頼

ブライダルベール…幸せを願い続ける

ポーチュラカ…いつも元気、無邪気

福寿草…永遠の幸福

アイリス…優雅、純粋、希望

チューリップ…博愛、思いやり、真実の愛

霞草…幸福、感謝、清らかな心

菫…希望、慎ましい喜び

フリージア…天真爛漫、純白

メランポジウム…元気、貴方は可愛い

スイートピー…門出

百合…祝福、無垢


ブルーベリー…実りある人生、有意義な人生



いつまでも健やかに。

貴方は小さな幸せに微笑み、

貴方は優しいから誰かの為に悩むでしょう。

時には無邪気な子供の様に遊んで、

幸福な夢を見て眠って、

健やかな無病息災を…そして、


貴方の人生が良いものである事を、心から願っています。


____泣きそうな顔で小さな男の子は遠くにいる私を見た。

スゥと息を吸う。


「貴方が!

帝国一の幸せ者である事を!

心から願っております!!!」



『『『ワァァァ!!!!』』』


風に乗ってどこまでも響いていきそうな拍手と喝采。


____さぁ、フィナーレだ。


 ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


立太子式の終わりはあっけないもので、それでも誰の記憶にも心にも、記録にも、書物にもその1日の出来事が刻み込まれた。

「お姉ちゃん、行っちゃうんだね」

不安そうな顔をしながらも、は事実を受け止めた。

「行くよ」

それが私の使命。

一応が付くけど、それでも頼まれ事なのだ。

「大丈夫、手紙も出すし、頻繁には無理だけど通信の魔法道具マジックアイテムを使えばお話だってできる。
貴方が会いたいと願うなら、私はいつでも会いに行くよ」

ぽんぽんと頭を軽く撫でて、名残惜しくもその手を落とす。

「お姉ちゃん……いえ師匠、貴女に改めて感謝の言葉を。

僕を助けてくれてありがとう。

僕を家族の様に愛してくれてありがとう。

僕を認めてくれてありがとう。

僕に魔法を教えてくれてありがとう。

父上と会わせてくれてありがとう。

沢山のものを与えてくれてありがとう。


僕は一緒には行けないけど僕が師匠を師匠と思い、姉の様に…母の様に思うことはいつまでも変わらない。


僕から、ほんの少しにも満たないけど今までのお礼を…約束を果たさせて下さい。

それと、“いつか”の答え合わせを」

小さな手に魔力を集める。
細く繊細な操作を行い、それは美しく形作る。

「僕の魔法は、民を守る盾です」

ゆっくりゆっくりその花の枝を伸ばす。

「そして、皆の幸福への道筋です」

クリスタルの輝きを見せる彼岸花の様なその花の名を、私は知っている。


「“また会う日を楽しみにしています”」


ネリネの花言葉は…また会う日を楽しみに、華やか。

ネリネの別名は、クリスタルリリー。または姫彼岸花ヒメヒガンバナ

可愛い弟子は、別れる前の師匠をどうしても泣かせたいらしい。


「受け取ってください。貴女との約束です」

もう限界だ。

堰を切ったように大粒の涙が溢れ、溢れる。

嬉しいのに、胸が苦しい。その理由が分からなくて、でも息をすれば幸せな気持ちで満たされる。

「ありがとう、セリニオス。

大切にします」


ひんやり冷たい花を受け取って、潰れない様に欠けないように胸に抱く。

別れの時も、あっけない。

「また会う日まで____」



セリニオスside


「_______本当に見送りは良いのか?」

父上は、僕にそう尋ねながら窓の外へと視線を向けた。
広い宮廷の向こう側に映る、石造りの砦。

きっと、砦を出る頃だろう。

「大丈夫…」

きっと、砦まで行って仕舞えば、離れがたくて僕は自由な師匠に「ここに居て」と言ってしまう。
師匠は僕のお願いを聞いて、此処に残る。
それは僕が望んでる事で、自由な師匠を縛る行為そのもの。

「本当は、ずっと僕の近くにいて欲しい」

僕の隣にいて、幸せな言葉を交わして、温かい手に触れて、柔らかく抱きしめて、時々寝物語を聴きながら寝入る。

皆が居て、僕が居るのが僕の望みだけど、師匠の為にならないことは、分かってる。

「師匠は、多分どこまでも行ける人で、何処までも終わりの無い高みへ昇ることが出来る人だから…

だから、宮廷ここは狭い」
「そうか」

ゆっくり頷きワインを傾ける父上に、セリニオスは問うた。

「父上、師匠を困らせる事を言ったみたいだね」
「ブッッ!?…なっ!誰からっ!?」
「やっぱり…ダンスの時、何か話してたのは見てたんだ。よく聞こえなくて…でも、予想はついてたから」

カマかけてみました。と、ニッと笑う。
きっとあの夕日に照らされたダンスで、師匠にプロポーズまがいな事を言ったのだろう。

「師匠はツレない人でしょう?」
「………全く、末恐ろしい子だ」

「師匠は多分、自分を一番に思ってくれる人であれば、相応に思いを寄せてくれる人です。でも、やたらめったら近づくと逃げる人。
誰かに愛される事を怖がるひとなんだと、思います」
「……誰から聞いたのだ」
「僕の見解です」

得意げにきゅっと目を細める姿を見て、「猫被りめ」と、皇帝は笑う。

「僕はいつでも僕ですよ」

そして、今後も僕は僕だ。

男子おのこは母親に似るとは本当だな」
「どっち母上?」
「お前の母は一人だろう?」

「…違いないや」

あぁ、もうすでに、あの人が恋しい。

窓の外の砦を見つめて、待てをする子犬のように目を細めた。

「と言うか父上、本当に師匠を娶ろうと考えてるの?」
「?当たり前であろう??

余は、欲しいと思ったものは手元に置いておきたいのだ。」
「師匠が嫌がりそう」
「気長にやる」

顎に手を当てニヤリと笑う。
それをみて、「楽しみだ」と、息子もまた天使の様に微笑んだ。
母と思ってる人を本当に母と呼べるのなら、この上ない幸福だ。


……国を離れる途中、噂話の本人は背筋に走る悪寒にブルリと体をさすった。


「セリニオス、励めよ」
「はい」

春から、魔法学院に編入する。
天空に浮かぶ要塞…空に浮かぶからこそ、誰も登ってこれず、集う者は全員魔法使いであるからこそ、侵入も侵略も不可能に近い。
本来なら一定以上の魔力を持つ子供は8歳から18歳をそこで過ごすのが通例だが、隠匿された王子だったセリニオスが通えるところではなかった。

「出来の良い息子を持てて余は幸せ者だな」
「学院ではどうなるか分からないよ?」
「お前なら心配ないだろう?」

「お前が優秀なのはよく聞いてる」と、いつもの仏頂面を崩して笑う父上を見て、師匠の様に…得意げに笑って見せた。


「勿論です」


僕は、世界一の魔法使いの…唯一の教え子なのだから。





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