形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜

ななこ

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魔法教師、トラブルを呼ぶ

42話

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”「どうか我が家の専属魔法薬師兼医師になって貰えないだろうか?」”

そんな内容の手紙を何枚も何枚も読み進めて、時々混ざる命令口調の手紙に深く溜め息を吐く。

どうしてこうなった…

と、とえば全ては自分のせい。

要は、聖女の様な施しと、魔法の能力値、薬やハーブティーの効果等々あげたらキリがない程の行いのせいだ。

「申し訳ございません。有り難いお話ですが、お受けできません……っと」

羽ペンを走らせて、羊皮紙に文字を綴る。

後何枚残ってるかなぁと、まだ封を開けていない手紙を見る。

残りは、クレーネーお嬢様からと、側に居たご令嬢二人の家から。
後は、侯爵家の御当主からと、何でノーシスさんからも来てるのよ…。

げんなり目を細めて、取り敢えず侯爵家の手紙から開ける。


“〈宮廷魔法教師マユラ殿

突然の手紙失礼します。先日の社交界での件で娘が大層お世話になったと聞きました。
深く感謝申し上げます。

宮廷使用人の評判も聞き及んでおります。
それで、突然では御座いますが折言って頼み事が御座います。

赤みを帯びたそばかすの浮く肌を、珠の様に白い肌にする薬を作る事は出来ませんか?

お返事をお待ちしております〉”

わぉ。

最後の一文の、家名の書かれた文字をなぞる。

ホラーク侯爵家当主
…紅大国の侯爵家で、侯爵家に嫁いだ奥様は太陽帝国の伯爵家出身。
貸し出して貰った貴族名簿を見ながら、娘って言うのは多分エリカ・ホラーク令嬢の事を言うのかな?と考える。

エリカ・ホラーク。

そう、社交界の日、クレーネーお嬢様に伺った、ご令嬢だ。
今は母親の帰省に同行しているらしく、暫く滞在すると聞いてる。

思わず指に力を入れてしまったためにインクが滲んで羊皮紙に広がった。

「ああ、運が良い」

この世界の神様は常に私の味方をしてくれているのでは無いかと錯覚する程の幸運。

新しく羊皮紙を取り出して、懇切丁寧に字を綴る。


“〈ホラーク侯爵当主様

薬の件ですが、それに近しいものをご用意する事が出来ます。
私事では御座いますが、実はその商品で事業を立ち上げようと思っていたところでのお話で、まるで運命の神が導いてくださったのではと言う偶然に驚いてしまいました。

それで、こちらからもご相談なのですが、お嬢様に私の商品の看板モデルになって頂きたいのですが、御了承して頂けますか?

勿論この提案は、私がお嬢様を美しく花咲かすことが出来ると確信して、ご提案しております。

それでは、良いお返事を期待しております

マユラ〉”


手紙をよく乾かして、封を閉じた。
……此処から、紅大国の侯爵家に届くのは恐らく馬を休まず走らせてもかなりかかる。侯爵家からの手紙が数日のうちに届いたのは、専用の伝書鳩の従魔が居たから。

そうか、空を飛ぶ鳥に変えれば直ぐにでもホラーク侯爵の元まで送れる。

私も鳥系の従魔が欲しいんだけど、召喚しようとすれば出て来るのは恐らく…と言うか、絶対神格級の何かだ。

「流石に、その手はもしもの時の為に残しておいた方がいい」

手紙を届けるだけなら、手紙自体に魔法を吹き込むくらい造作もない。

《羽ばたいて飛んでゆけ》

奇跡を吹き込めば、赤い蝋で封をされた手紙が形状を変える。紙で出来た鳥と表現するのが的確なそれは意志を持つように私の周りをくるりと一周し、窓の外へと飛んで行こうとしてガラスに衝突した。

……空を飛ぶ魔物とかに見られないように、姿を隠す魔法も付けとこう。

「いってらっしゃい」

手紙を開いた窓から放り投げれば、施した魔法が発動し姿が消える。
ホラーク侯爵に届けば魔法は消えるし、一応大丈夫でしょ。多分。

己の施した魔法とは思えない間抜けさを目の当たりにしてしまった為か、断言出来ないのが心苦しい。

「早くて3日って所かな」

と言う事は返事まで一週間。
気長に待っておこう。


他の手紙に目を通して、返事を書き綴る。

夏から秋へと、季節の変化を見せる陽気な正午の静かな時間。

セリくんは別の教科の授業。
ヴァルフゴールはシルの指導のもと剣技の特訓。
アンタレスは経営のノウハウをまだまだ学びたいと帰還を延期。

うん。静かな一人の時間も、悪くない。


______後少しで、セリくんの戴冠式…か。


私が思っている以上に、宮廷を出る日も近い。

宮廷を出たら、どこに行こうかな………?


 ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


「ご、ご機嫌ようマユラさん。
紅大国侯爵家が娘、エリカ・ホラークですわ」

ぎこちなく、そしてその瞳の奥に映る色は戸惑いと、疑心。

まぁ、そりゃそうか。

父親の紹介とは言え、赤の他人を母親の生家に招き入れなければいけないんだし。

「ご機嫌ようマユラさん。エリカの母、アザレアですわ。
本日はようこそおいで下さいました」

エリカお嬢様と一緒に出迎えた、顔立ちがどことなくお嬢様に似たご夫人。髪の色は違えど瞳の色は同じらしい。

「こちらこそ突然の訪問で申し訳ございません。お招きありがとうございます。
第一皇子殿下付きの魔法教師、マユラと申します。本日は宜しくお願い致します」

此処では私以外に陛下がつけてくれたお付きの人が二人のみだし、礼は男性型。

服装も、男性の礼服っぽい女性服。結構こんな感じの服気に入ってる。今度からはこの系統の服集めていこうかな。

髪も後ろで一つ結び。キリリとした雰囲気で薄くメイクを施してるし一見少年の様な姿だ。

「お噂には聞いておりましたが、私の娘より若いのではありません事?」
「十六で御座います。私の居た所は皆、異国の方にはやや幼く見られる傾向にある様でして」
「まぁ!エリカと同年なのね。しっかりした子だわ」
「ありがとうございます」

夫人は中々に人当たりが良いらしい。
からりと笑う様は見ていて気分が良い。お嬢様もこんな風に笑われたら、その活発な容姿とマッチして愛らしくなられるのに……と、ぎこちなく笑う彼女を見て思う。

お嬢様を見てたら思う。

もしかしたら私も、メイクと出会わなければこんな風になってたんじゃないか…って。

勝手に似たもの同士と思われるなんてお嬢様からしたら迷惑でしか無いし、むしろ嫌味だ。

でも本当に、だからこそお嬢様を変えてあげたいと思う。

だって、こんなにも豪華な素材が揃ってるのだ。
お嬢様が望むなら、どんな姿にだってなれる極上の素材。

だから、多少胡散臭くても良い。
彼女にはまず、私の商品に興味を持って貰おう。


「____本日お持ちした商品のご説明からさせて頂きますね。

宜しければ夫人もご一緒に如何ですか?」

商人の顔をしろ。

私は今は、悩む少女に手を差し出すただのマユラ。そして、彼女の痛みを理解する繭村奏。






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