形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高！〜

転生美少女、先生をしようと思う

35話 とある少女の空腹

お腹空いた。

少女は肋の浮き出る薄い腹を撫でながら、きゅっと目を閉じうずくまる。

「助けて」

の声は届かない、廊下の薄ら暗い光差し込む灯りのない部屋は、鉄格子の嵌められた牢屋。
乾いた息が漏れ出て、コクっと少量の唾を飲み干した。

少女は薄汚れた亜麻色の髪を啄む。
お腹空いた、お腹空いた…お腹すいた……おなかすいた。

ガジガジ噛んで、飲み込んで、髪はザンバラで所々長さが違う。口の中は髪の毛が挟まり、それでも腹は満たされない。

ｶﾞﾁｬﾝ

牢屋の奥から、鉄の扉の開く音。

コツコツコツと、床を鳴らすヒールの音。そしてそのあとをつく様に歩く複数の足音。
少女にとってその足音は“仕事”の合図。

ゆっくり、力無く起き上がり、鉄格子の前で止まった豪華な赤いヒールを見下げる。

「見窄らしい事」
「お目汚しして、申し訳ございません…」
「まぁ良いわ。
出て来て支度をしなさい」

「………はぃ」

小さく頷き、ヒールの女が去っていく足音が小くなるのを待って、動き始める。
鉄格子のドアを開け、薄暗い廊下に出て、おぼつかない足取りで慣れた様にその冷たい道を歩く。

カシャリと揺れる、首輪は少女の枷。

廊下を歩き、女達が通って出て行ったであろう鉄の扉を通り抜け、明るい光差し込む階段を登る。

“仕事”…少女に与えられる仕事は、少女が生きる為の延命装置。
こんなにお腹を空かせても、我慢しなければいけないのは“仕事”の為。あの人の道具として役に立つ為。

たとえそれを望まなくとも、少女はそうしなければいけない。

階段を登り切れば、待機していた無口な奴隷の女性達に体を洗われ、身綺麗な服を着せられる。

いやだ、嫌だ…こんなもの着たくはない。

そんな言葉、口に出せるわけがない。

小さく開いた口をこじ開けられ、口の中に固い異物を押し込められ、無理やり嚥下させられる。

「んぐっ、ゔぇ…‼︎」

体の内側から燃える様に熱いものが広がって、でも空腹は和らいでいく。
嫌い、嫌い。こんなもの、大嫌い。

「あ“ぁ”ぅ“っ”

イタイっ!」

奴隷達は体を掻きむしり異物に痛みを訴える少女を見て、眉を顰め唇を噛み、目を背ける。
そうだ、此処で誰かを気にかけるのは、命の惜しくない人間のする事。
皆己の命惜しさに、醜い己の本音と共に目の前の光景から口を噤む。

「アッ…ガァっ！！！！」

吐き出した真っ赤な宝石を再び口内に詰め込み、噛み砕く。

空腹は、もうない。

それでも、心がすり減っていく。
すり減って、すり減って、涙はいつの間にか枯れていく。

「まだなのかいっ！！？」

苛立った女の声が別室から聞こえる。
その場の全員が身をすくませ、縮こまらせ「直ぐに！」と声を上げ、少女の歪んだ顔に化粧を施す。
痩せこけていた体はいつの間にか年相応のふっくらとした肉がつき、それでも青白い顔色の少女の頬にほんのり朱を乗せた。

最後に震える手で紅を指す奴隷は、「で、出来ました」と小さく呟く様に声を発する。

可愛らしい顔立ちの少女の琥珀の様な瞳にはどんよりと薄暗い色が滲んでいる。

「ヘルデ！！」

癇癪の様に、少女の名を叫ぶ女の声。

ヘルデと呼ばれた少女は、ゆっくり立ち上がり、虚な目で女の居るいつもの別室へと向かう。

別室へ近づくにつれ、明るい廊下には豪華さが増していく。不機嫌な空気が目的の部屋から漏れ出ている。

ヘルデは、いつもの様に宝石の装飾が施される扉の前で跪く。

ゆっくりと開く扉。

視界の上端に映る、赤いヒール。


「支度がおわりました、

レディ・ドーラ。


どうか、私にお役目を下さいませ」


見たくないと、目を閉じた。


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