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プロローグ

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 喫茶店の中で、柏木松江はカフェラテをスプーンで掻き混ぜながら目を伏せていた。女性のように長い睫毛、女性と言っても疑わないようなしなやかな体。林檎のように赤い唇、肌色と白い絵の具をかき混ぜたような肌。服装は黒いフードジャケットにTシャツ、黒いパンツを履いていた。ロングブーツがとても似合っている。
 喫茶店の中の匂いは、芳しい匂いが充満していた。コーヒー、紅茶、料理の匂い。混ざることなく、それぞれいい香りを引き立たせている。松江は混ぜるスプーンを置いてため息ついた。
 ドアについているベルが鳴り響く、松江はそのベルの音がした方へ目を向けた。そこには、黒い髪をおかっぱに切っていて、白いコートにタートルネックを着ていた。ダメージジーンズに茶色いブーツ。
「待たせて、ごめんよ」
 そういうと、松江はほっとしたように胸を撫で下ろした。そして、少し不貞腐れたように嫌味をポツリと言った。
「このアタシを待たせるなんて、いい度胸じゃないの」
 前を向き直して、カフェラテを味わいながらそういうと、身長の高い男の八雲辰巳が松江の前の席に座った。周りの男性達が残念そうな声を出していた。辰巳は手を上げて自分のコーヒーの分を注文することにした。
「すまない、そこのお嬢さん。ブラックコーヒーを作ってくれるかい?」
「かしこまりました」
 女性店員はそう言ってブラックコーヒーを作りに向かった。辰巳は手を組んでにっこりと笑いながらいう。
「怒っているのかい?」
 松江の空いている手を握った。松江は体を固まらせた。辰巳は「もしかして、嫌われたかな」と思って、チラリと松江の顔を見る。松江の頬は赤らんでおり、唇をキュッと結んでいて、まるで恥じらいのある乙女のようにも見えた。
 その顔を見て呆気に取られる辰巳に、松江は顔をそらして見せないようにしていた。辰巳は笑ってしまって、テーブルに肘ついて笑って見ていた。
「林檎のように赤いね」
「うるさいわよ」
 そう言い放つ松江に、辰巳は手を絡めさせた。松江も辰巳の方へ目を向けた。辰巳は口は笑っているが、目は獣のように松江を見つめていた。松江は椅子から立ち上がった。辰巳は驚いた顔をして松江を見上げていた。
「いや、その。ごめんなさい」
「いいよ、とりあえず……、この後どっか行かない?」
「……いいわよ。でも、そういうこと言うんだったら……、もうちょっと場所を弁えてほしいわね」
「はは、ごめんね」
 松江の額にキスをする。それを見た周りは、ざわめき付き合っているか付き合っていないかの論争が始まる。
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