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痛みのともなう話し合い
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「昨日の話を整理したいと思うけど――」
「は、はい……っ!」
丸机を挟み、対面に座っている高木が、冷たい声音で話し出した。
丸机の上にはノートと筆記用具が置いてある。高木がシャーペンを片手に、こちらを見据える。瞳は鋭く、窓から差し込む陽の光が高木の背中を照らしていた。逆光で少し眩しい。
6畳程ある爽太の部屋に張り詰めた空気が走る。自分の部屋なのに、どこか異質な空間に感じてしまう。
なんか……、取り調べ室みたい……。
だが、机の上にジュースとお菓子の入ったカゴが視界の端に映り、ちょっと気持ちが和んだ。
犯人とかにそんなの出さないもんな。いや、そもそも俺はなんもしてないだろ……。
「でもまずは、私にあ、謝りなさいッ……!」
「なっ!? はあっ!?」
だが高木の言葉に、爽太は驚いた。なんでいきなり高木に謝んなきゃいけないんだよ!? 俺は何も悪いことなんか――、
「あ、あんたが、細谷くんから、『水族館一緒に行きたい』って、お願いされたとき、なんて言ったか、忘れたとは言わせないわよッ?」
高木の怒気を含んだ声質に、爽太はたじろぐ。お、俺が、ほ、細谷に言った事……!?
爽太は昨日の事を断片的に思い返した。
水族館で、確か細谷が、『じゃあ僕も、一緒に水族館にいっちゃだめかな?』、って言ってきて。
俺がやんわり断ろうとしたら、『爽太くんがアリスちゃんと仲良くなるために、しっかりフォローしたいし! だから、だめかな?』って、迫ってきて……。
あまりにも、真っ直ぐな瞳でお願いしてくるもんだから……。
そのとき、俺はどう答えたか。
『いや俺は……、ど、どちらでも……、高木が良いというなら』
『なっ!? ちょ、ちょっと、爽太!?』
高木の戸惑いの声が脳内で反響する。そうだ俺は……、高木に判断を丸投げしてましたね。
爽太のぎこちない笑みに、高木の目がカッと見開いた。
「何なの!! 昨日のアレは!? ほ、細谷くんはあんたに聞いてきたのに!! そ、それを私にふるなんて!! あんたのせいで、細谷くんと一緒に4人で水族館行くことになったじゃない!! ほんとは、あんたとアリスちゃんが2人で行く計画だったのに!!」
「い、いやいや!? そ、それは、高木が細谷の返事をOKしたからだろ!? あ、あのとき高木が断ってくれたら――」
「だっ・た・らっ!! なんであんたが、最初から断らないのよッ!」
「へっ!? いや、そ、それはあの……」
「なによッ!」
「え、えっと……、ほ、細谷にさ、あ、あんな、真面目にお願いされたら……」
「うん、お願いされたらッ?」
「こ、断れないよねっ?」
「つっ!? だったら! 私もそうなるに決まってるでしょッ!! 断れるわけないでしょうがあああーッッ!!」
「ほ、ほんとっ、すいませんでした!! ご、ごめんなさいっ……!! し、静まりたまえ~……っ!」
怒りをあらわにする高木。爽太は両手の平を前にし、しばらく拝むように謝り倒した。
*
「まったく……。もう過ぎた事だから仕方ないけどっ、ふんっ! これだから爽太は」
高木がジュースを飲みながらぶつぶつ文句を言っていた。ひとしきり怒りの感情を吐き出したおかげなのか、だいぶ気持ちが落ち着いている。いや~、よかった……。また、殴られたり、つねられるのは嫌だからな。
爽太もジュースを一口含み、乾いた喉を潤した。なんとも言えない清涼感が全身を駈けめぐる。これが、『生きた心地がする』というやつだろうか。
「まあ、で、でも……」
「ん?」
急に高木のぎこちない声。口元をなぜか、ごにょごにょとさせていた。いきなりどうしたんだ?
爽太が不思議そうにしていると、高木が目線を横に少し反らした。
「あ、あんたがフォローしてくれたのは、よ、良かったと思ってるから」
「へっ? フォロー?」
一体何のことだ?
すると高木が、栗色の細い髪を落ち着きなく触る。
「あ、あんたと一緒に、水族館を下見に来た理由。わ、私がさ、細谷くんに訊かれて答えれなかったでしょ」
「えっ? あ~……」
そう言えば、そうだったな。
高木が『休みの日に、アリスを水族館に連れて行きたくて、下見に来てる』、って誤魔化してくれて。
でも細谷が、なんでその下見に『男子の俺』が一緒なのか。不信がって、訊いてきたんだよなあ。
そしたら高木は、それに上手く応えれなくて。
んで細谷が、言いそうになったんだよな。ほんとは俺と、その、で、デートしてるんだろって。
爽太の頬が熱を帯びる。
そ、そんな訳ないだろ、まったく。細谷のやつ。俺と高木がそんな風に……、まあ、見えちゃうか。男子と女子が2人で遊んでたら。しかも水族館で。
あのときの事を思い出し、爽太の鼓動が少し早くなる。改めて、細谷に誤解されずよく乗り切ったなと思った。
「そのなに、あ、あんたが『アリスちゃんと一緒に遊んで、仲良くなりたいから下見に来てる』って言ってくれたからさ」
ああ、そのとき俺は、そう言ったんだっけ。
アリスにすごく避けられている事を上手く使った言い訳。表向きは、スカートめくりをして、そのショックをアリスが今も引きづっているという理由だが……。
でもほんとは、俺がアリスに『彼女になってください』って告白した事が原因なんだけど……。
うわっ、や、やばい、は、恥ずかしくなってきた……。い、今は考えるな。
爽太は慌てて頭を左右に振って思考から追い出した。
「その、細谷くんに、勘違いされずに済んだからさ……」
「ん……? お、おう?」
『勘違い』という言葉に、爽太の耳がちょっと熱くなる。きっと、デートの事、それから、俺と高木が、その、つ、付き合ってるとか、そういうのを言ってるのだろう。
高木に視線を持っていく。すると、なぜか少しだけ目線を外された。
そして、恥ずかしそうに、つぶやいた。
「あ、あのときは、あ、ありがと」
爽太の目が、見開く。ま、まさか、高木からお礼を言われるなんて思っても見なかった。
高木と視線が重なる。さっきまで苛立っていたのに、急に静かな雰囲気になる高木。顔は赤みを帯びていて、それが何と言うか、ちょっと可愛い?
なっ!? な、なな何考えてんだ俺は!?
『女の子らしい』高木を前に、そんな事思う自分は、どうかしている。
顔がすごく熱い。つい、高木の事をまじまじと見つめてしまった。
すると、高木がさらに顔を赤くして、慌てて声を上げた。
「な、なな、何顔赤くしてんのよッ!! ほんとキモいっ! お礼を言っただけでしょ! ほんとキモいっ!!」
高木の罵倒に、ハッとした。つい言い返した。
「はっ、はあ!? そ、そんなことねえし!! そ、そそ、そう言う高木の方が、顔赤いし!! なに照れてんだよ、バ~カ!!」
「なっ!? ち、ち、違うしッ!!」
「いやいや、そうだし!! 顔真っ赤にして『ありがと』って! めっちゃ受ける!! 照れすぎッ!! あははっ!!」
「ぐぐっ……!? ううぅ~……!! な、何よッ!!」
「へっ!?」
高木の赤みが増した。あれ、おかしい。恥じらいが、怒りに変わってるような……。
「ほんと、最悪ッ!! 最低ッ!! バカ爽太!! もう、知らない、帰るッ!!」
「へっ!? あ、あの!? あっ!! す、すいませんでしたっ!! ほんとごめん!! ああ~!! 机の上片付けないで!? 待って!! ほら考えよ!? アリスとのデートプラン!! お願い!! 見捨てないでッ!!」
ノートと筆記用具をカバンに入れ、部屋のドアに早足で向かう高木を、慌てて捕まえた。爽太はヘッドスライディングしたような恰好。右手が、高木の右足首を握っていた。
「ちょ、ちょっと!? こ、この変態!! は、離せ!! つっ!! もうっ!! このッ! このッ!!」
高木が、怒りに任せ、左足で爽太の頭頂部を踏みつけた。何度も。
こ、こいつ!? な、何しやがる!? ぐえっ!?
子供の爽太には、まだ早い仕打ち。もう少し大人になれば、『ありがとうございます!』と、感謝の念を抱くかもしれない。だが、今の爽太には怒りの感情しか芽生えてなかった。やっぱこいつ、可愛くねえ!! とういか頭踏むなって!? いたッ!? いでッ!? いや、ちょっと!? ほんとやめてぇー!?
それでも、高木の右足首を中々離さない爽太。そんな爽太にしびれを切らしたのか、高木が荒々しく言った。
「あ~もう!! わ、分かった!! 分ったわよ!! アリスちゃんとのデートプラン考え直すから、一緒に! だから離せッ!!」
そう言われ、爽太はやっと高木の右足首を解放した。そして、そのあと互いに冷静さを取り戻したあと、2時間近く、アリスとのデートプランについて練りなおしたのだった。
「は、はい……っ!」
丸机を挟み、対面に座っている高木が、冷たい声音で話し出した。
丸机の上にはノートと筆記用具が置いてある。高木がシャーペンを片手に、こちらを見据える。瞳は鋭く、窓から差し込む陽の光が高木の背中を照らしていた。逆光で少し眩しい。
6畳程ある爽太の部屋に張り詰めた空気が走る。自分の部屋なのに、どこか異質な空間に感じてしまう。
なんか……、取り調べ室みたい……。
だが、机の上にジュースとお菓子の入ったカゴが視界の端に映り、ちょっと気持ちが和んだ。
犯人とかにそんなの出さないもんな。いや、そもそも俺はなんもしてないだろ……。
「でもまずは、私にあ、謝りなさいッ……!」
「なっ!? はあっ!?」
だが高木の言葉に、爽太は驚いた。なんでいきなり高木に謝んなきゃいけないんだよ!? 俺は何も悪いことなんか――、
「あ、あんたが、細谷くんから、『水族館一緒に行きたい』って、お願いされたとき、なんて言ったか、忘れたとは言わせないわよッ?」
高木の怒気を含んだ声質に、爽太はたじろぐ。お、俺が、ほ、細谷に言った事……!?
爽太は昨日の事を断片的に思い返した。
水族館で、確か細谷が、『じゃあ僕も、一緒に水族館にいっちゃだめかな?』、って言ってきて。
俺がやんわり断ろうとしたら、『爽太くんがアリスちゃんと仲良くなるために、しっかりフォローしたいし! だから、だめかな?』って、迫ってきて……。
あまりにも、真っ直ぐな瞳でお願いしてくるもんだから……。
そのとき、俺はどう答えたか。
『いや俺は……、ど、どちらでも……、高木が良いというなら』
『なっ!? ちょ、ちょっと、爽太!?』
高木の戸惑いの声が脳内で反響する。そうだ俺は……、高木に判断を丸投げしてましたね。
爽太のぎこちない笑みに、高木の目がカッと見開いた。
「何なの!! 昨日のアレは!? ほ、細谷くんはあんたに聞いてきたのに!! そ、それを私にふるなんて!! あんたのせいで、細谷くんと一緒に4人で水族館行くことになったじゃない!! ほんとは、あんたとアリスちゃんが2人で行く計画だったのに!!」
「い、いやいや!? そ、それは、高木が細谷の返事をOKしたからだろ!? あ、あのとき高木が断ってくれたら――」
「だっ・た・らっ!! なんであんたが、最初から断らないのよッ!」
「へっ!? いや、そ、それはあの……」
「なによッ!」
「え、えっと……、ほ、細谷にさ、あ、あんな、真面目にお願いされたら……」
「うん、お願いされたらッ?」
「こ、断れないよねっ?」
「つっ!? だったら! 私もそうなるに決まってるでしょッ!! 断れるわけないでしょうがあああーッッ!!」
「ほ、ほんとっ、すいませんでした!! ご、ごめんなさいっ……!! し、静まりたまえ~……っ!」
怒りをあらわにする高木。爽太は両手の平を前にし、しばらく拝むように謝り倒した。
*
「まったく……。もう過ぎた事だから仕方ないけどっ、ふんっ! これだから爽太は」
高木がジュースを飲みながらぶつぶつ文句を言っていた。ひとしきり怒りの感情を吐き出したおかげなのか、だいぶ気持ちが落ち着いている。いや~、よかった……。また、殴られたり、つねられるのは嫌だからな。
爽太もジュースを一口含み、乾いた喉を潤した。なんとも言えない清涼感が全身を駈けめぐる。これが、『生きた心地がする』というやつだろうか。
「まあ、で、でも……」
「ん?」
急に高木のぎこちない声。口元をなぜか、ごにょごにょとさせていた。いきなりどうしたんだ?
爽太が不思議そうにしていると、高木が目線を横に少し反らした。
「あ、あんたがフォローしてくれたのは、よ、良かったと思ってるから」
「へっ? フォロー?」
一体何のことだ?
すると高木が、栗色の細い髪を落ち着きなく触る。
「あ、あんたと一緒に、水族館を下見に来た理由。わ、私がさ、細谷くんに訊かれて答えれなかったでしょ」
「えっ? あ~……」
そう言えば、そうだったな。
高木が『休みの日に、アリスを水族館に連れて行きたくて、下見に来てる』、って誤魔化してくれて。
でも細谷が、なんでその下見に『男子の俺』が一緒なのか。不信がって、訊いてきたんだよなあ。
そしたら高木は、それに上手く応えれなくて。
んで細谷が、言いそうになったんだよな。ほんとは俺と、その、で、デートしてるんだろって。
爽太の頬が熱を帯びる。
そ、そんな訳ないだろ、まったく。細谷のやつ。俺と高木がそんな風に……、まあ、見えちゃうか。男子と女子が2人で遊んでたら。しかも水族館で。
あのときの事を思い出し、爽太の鼓動が少し早くなる。改めて、細谷に誤解されずよく乗り切ったなと思った。
「そのなに、あ、あんたが『アリスちゃんと一緒に遊んで、仲良くなりたいから下見に来てる』って言ってくれたからさ」
ああ、そのとき俺は、そう言ったんだっけ。
アリスにすごく避けられている事を上手く使った言い訳。表向きは、スカートめくりをして、そのショックをアリスが今も引きづっているという理由だが……。
でもほんとは、俺がアリスに『彼女になってください』って告白した事が原因なんだけど……。
うわっ、や、やばい、は、恥ずかしくなってきた……。い、今は考えるな。
爽太は慌てて頭を左右に振って思考から追い出した。
「その、細谷くんに、勘違いされずに済んだからさ……」
「ん……? お、おう?」
『勘違い』という言葉に、爽太の耳がちょっと熱くなる。きっと、デートの事、それから、俺と高木が、その、つ、付き合ってるとか、そういうのを言ってるのだろう。
高木に視線を持っていく。すると、なぜか少しだけ目線を外された。
そして、恥ずかしそうに、つぶやいた。
「あ、あのときは、あ、ありがと」
爽太の目が、見開く。ま、まさか、高木からお礼を言われるなんて思っても見なかった。
高木と視線が重なる。さっきまで苛立っていたのに、急に静かな雰囲気になる高木。顔は赤みを帯びていて、それが何と言うか、ちょっと可愛い?
なっ!? な、なな何考えてんだ俺は!?
『女の子らしい』高木を前に、そんな事思う自分は、どうかしている。
顔がすごく熱い。つい、高木の事をまじまじと見つめてしまった。
すると、高木がさらに顔を赤くして、慌てて声を上げた。
「な、なな、何顔赤くしてんのよッ!! ほんとキモいっ! お礼を言っただけでしょ! ほんとキモいっ!!」
高木の罵倒に、ハッとした。つい言い返した。
「はっ、はあ!? そ、そんなことねえし!! そ、そそ、そう言う高木の方が、顔赤いし!! なに照れてんだよ、バ~カ!!」
「なっ!? ち、ち、違うしッ!!」
「いやいや、そうだし!! 顔真っ赤にして『ありがと』って! めっちゃ受ける!! 照れすぎッ!! あははっ!!」
「ぐぐっ……!? ううぅ~……!! な、何よッ!!」
「へっ!?」
高木の赤みが増した。あれ、おかしい。恥じらいが、怒りに変わってるような……。
「ほんと、最悪ッ!! 最低ッ!! バカ爽太!! もう、知らない、帰るッ!!」
「へっ!? あ、あの!? あっ!! す、すいませんでしたっ!! ほんとごめん!! ああ~!! 机の上片付けないで!? 待って!! ほら考えよ!? アリスとのデートプラン!! お願い!! 見捨てないでッ!!」
ノートと筆記用具をカバンに入れ、部屋のドアに早足で向かう高木を、慌てて捕まえた。爽太はヘッドスライディングしたような恰好。右手が、高木の右足首を握っていた。
「ちょ、ちょっと!? こ、この変態!! は、離せ!! つっ!! もうっ!! このッ! このッ!!」
高木が、怒りに任せ、左足で爽太の頭頂部を踏みつけた。何度も。
こ、こいつ!? な、何しやがる!? ぐえっ!?
子供の爽太には、まだ早い仕打ち。もう少し大人になれば、『ありがとうございます!』と、感謝の念を抱くかもしれない。だが、今の爽太には怒りの感情しか芽生えてなかった。やっぱこいつ、可愛くねえ!! とういか頭踏むなって!? いたッ!? いでッ!? いや、ちょっと!? ほんとやめてぇー!?
それでも、高木の右足首を中々離さない爽太。そんな爽太にしびれを切らしたのか、高木が荒々しく言った。
「あ~もう!! わ、分かった!! 分ったわよ!! アリスちゃんとのデートプラン考え直すから、一緒に! だから離せッ!!」
そう言われ、爽太はやっと高木の右足首を解放した。そして、そのあと互いに冷静さを取り戻したあと、2時間近く、アリスとのデートプランについて練りなおしたのだった。
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