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災い送り・4
しおりを挟むあたしの言葉に、ガイエンは目を丸くした。……当然の反応だとは思うけど、ちょっと居心地が悪くて目を逸らす。
数秒の沈黙の後、ガイエンはなんだか難しい顔をして口を開いた。
「とりあえず、なんでいきなりそんなこと考えたのか聞かせてくれるか?」
さすがに前後関係がわかんねぇと何とも言えねぇ、と言うガイエンに、あたしはつっかえつっかえエディトさんの話をした。
口を挟むこともなくじっと無言で話を聞くガイエンは、なんだかいつもと雰囲気が違う気がして、ちょっと戸惑う。
……『いつも』なんて言えるほど、知り合ってから時間は経ってないんだけど。
「なるほどな……」
顎に手を当てて、ガイエンは考え込むような仕草をする。
どうやら怒ったり反対されたりはしないみたいだけど、妙に真剣な感じだ。何か問題があるんだろうか。
エディトさんはあたしの『力』で『異界』に『送』ることができるのは確定してるような言い方をしてたけど、実はできないのかな。
それともそもそも『異界』なんてないとか……?
「昨日なんか妙な視線を感じるとは思ってたんだよな。そいつが見てたんなら納得だ。……『ヤク』だってのは本当なんだな?」
問われて、ついつい悪い方悪い方に寄っていっていた思考を引き戻す。慌てて頷いた。
「『ヤク』が明確な自我を持つってのは聞いたことねぇけど、リアが実際見たってんならマジなんだろ。しっかし『異界』ねぇ……」
それきり黙りこんだガイエンにドキドキする。どうしたんだろう。やっぱりあたしじゃ難しいのかな。
「……まあ、こんな祭りしてるくらいだし、この辺は多分繋がりやすいんだろ」
そう呟いて、ガイエンはぽん、とあたしの頭に手をのせた。そのまま軽く撫でられる。
「結論から言えば、リアの力で『ヤク』を『異界』に『送』ることはできる。昨日言った通り、『ヤク』ってのは聖霊になり損ねたようなものだからな。リアの力の及ぶ範囲の、『聖霊に類するもの』ってのに当てはまる。ただ、その『力』の使い方に関しては、俺には教えられねぇと思う。……俺の力は『破壊』に偏っちまってるから」
苦く笑うガイエンの表情に、なんだか悲しい気持ちになった。
その表情を浮かべたのが、あたしに『力』の使い方を教えられないことになのか、過去に色々あっただろう、自分の『力』について考えたからなのか、わからないけど――とにかく、ガイエンがそんな顔をしなくていいんだよって、言わなくちゃって思った。
だけど、あたしがその言葉を言う前に、よく知った声がその場に響いた。言いかけた言葉を思わず飲み込む。
「どうしたの、リア」
穏やかな笑みを浮かべて近づいてくるのはシリスだ。
声を聞いた時点で確信できていたけど、その雰囲気がなんだかいつもと違っているように感じてとっさに言葉を返せなかった。
どこかどう、と明確に言えるわけじゃない。
だけど、なんというか……昨日『ヤク』に相対していたときのような、所謂『殺気』に似たものを感じる気がする。
シリスの方を見たまま固まってしまったあたしの背を、シリスの方に行ってやれよ、っていうように、ガイエンが押した。
でもまだ、ガイエンに言いたいことを――言わなくちゃって思ったことを言ってない。
かと言ってこのタイミングで言うのもなにか違う気がする。自分の行動を決めあぐねて、ガイエンを振り返ってしまった。
なんだか驚いたようにガイエンが目を丸くして――ついで「あちゃー」とでも言いたげな顔をした。
「リア?」
何の気配も感じなかったのに、いきなり肩に手を置かれて驚いた。声を出さなかったのが救いだ(というより、声が出なかったと言ったほうが正しいかもしれないけど)。
心なしかさっきよりシリスの声が冷たい気がする。
正直に言って、ちょっと逃げ出したいくらいだ。……そんなこと思っちゃいけないって、わかってるのに。
「えっと、シリス。どうしたの?」
「それは俺の台詞だよ、リア。やっと帰ってきたのかと思ったら、宿の近くからなかなか動かないし。心配になって出てきてみれば、黒炎なんかと話してるし……」
黒炎『なんか』と、って……その言い方はどうかと思う。だけど、どう注意すればいいのかわからない。
シリス、結構最初からガイエンに対してはこんな態度だし、聖霊同士ってこんなものなんだろうか。
ちらりとガイエンを見ると、すごく微妙な顔をしていた。怒ってるというより呆れてるに近い感じだ。
「……なあ、」
ガイエンは、何故かそこで迷うような間を空けた。そして小さく息をついて、再び口を開く。
「シリス。お前いくらなんでも過保護すぎないか? 俺が気に食わないのはわかるけど、ちょっといきすぎだと思うぜ?」
「君に俺の名を口にして欲しくない」
触れれば切れるような、っていう表現がぴったりの口調で、シリスがそう返した。
ガイエンは一瞬きつくシリスを睨んだけど、すぐに思い直したように目を伏せた。
……ああ、まただ。またガイエンが、――傷ついてる。
「だ、駄目、だよ」
「リア?」
「シリス、駄目だよ、そういう風に言っちゃ。……そんなに、主共有するの嫌だったなら、ちゃんと言ってくれれば良かったのに」
「いや、俺は……」
シリスがどこか戸惑うようになにか言おうとするのを遮って、あたしは続ける。
「ガイエンのことをそう言う風に言わないで。そういう風に、蔑むみたいに、言わないで。……そういうの、慣れたと思ってても、すごく傷つくんだよ。悲しいんだよ。いちゃいけないのかなって、思うんだよ」
言いながら、鼻の奥がつん、とした。泣きそうなんだってわかったから、必死でこらえる。
ここであたしが泣くのは駄目だ。それじゃいけない。
「どうしてなの、違うから駄目なの? 『異端』だからいけないの? だったら、っ……あたしだって、駄目なんじゃないの!?」
そこまで言うのが限界だった。
堤防が決壊したみたいに一気に溢れ出した涙を二人に見せないように、もと来た道を走り出す。
後ろから名前を呼ぶ声が聞こえたけど、返事することも、立ち止まることもできなかった。
……二人は、追いかけては来なかった。
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