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St Valentines Day
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悪友時代。
+ + + + + +
バレンタイン。
とりあえず日本では女性から男性に愛を込めてチョコレートを贈る日。
最近ではお歳暮と大差無くなってはいるけれど、まぁ好きな人に告白するいいチャンスだったり、恋人同士のイベントだったりする。
「はよ」
「ああおはよ。……あれ、何その紙袋」
「今日何の日か覚えてるか?」
「今日……ああ、バレンチノ司教の殉教日」
「素直にバレンタインって言えよ」
「朝からチョコレート攻撃か。大変だね」
「俺の科白はスルーかコラ。……ったく俺甘いもんそんなに好きじゃないってのに」
「こういう機会でもないと話し掛けられない女の子はいるんじゃない、きっと。迷惑な話ではあるけど」
「断っても押し付けるんだもんな。……ホント迷惑もいいところだぜ」
そう言うレンの手には大きな紙袋。中にはカラフルな包装の小包。女の子たちの気持ちの詰まったチョコレートやらクッキーやらだ。
「毎年処理どうしてるわけ?」
「一応食うよ。賞味期限とかやばそうな手作りものは流石に捨てることもあるけど」
「渡した女の子がそれ知ったらショックで寝込むんじゃないの」
「仕方ねえだろ。あんな量一人で食えるか。つーか食ってやろうとするだけマシだと思ってもらいたいね」
「そりゃオツカレサマ。そして今年も頑張れ」
「くっそ、他人事だと思って軽く言いやがって……。つか彼女いんのになんで渡してくるんだよ。女除けの意味ねぇだろ」
女除けに適当に彼女作ってるアンタは相当酷い奴だよね、と思いながらも口には出さない。確かに彼女が居たほうが寄ってくる女は減るのだ。
……まぁ、とっかえひっかえするせいで、そういうのを気にしない女たちが寄ってくるようになってしまっているのだが。
「彼女からも貰うんでしょ? また拗れるんじゃない?」
「あーいや、昨日別れた。ほら、俺時々お前ん家行くだろ。それたまたま見たらしくて、お前と二股かけてるんじゃないかとか言い出してよ。違うって言ってんのに、だったらお前ん家行くの止めろとか言い出したから、振った」
「やめれば? ていうか彼女もちで別の女の家に行く方がおかしいんでしょ。普通しないよ」
「なんで止めなきゃいけないんだよ。別にやましいことしてるわけでもねえのに」
「やましいことしててもしてなくても、家にあがるってのは誤解を招くんだよ。二股とかアンタならやりかねないし」
「何気にヒデェなお前……。いっそお前を恋人だー、とか言ったほうが早いんじゃねえか?なんか大概の女は俺とお前が付き合ってると勘違いしてるみたいだし」
「お断り。アンタを恋人にするなんて正気の沙汰じゃないし。ていうか恋愛対象に見れないっての。どれだけアンタが女をとっかえひっかえするの見たと思ってんの」
「失礼な。俺の恋人になりたいって奴がどんだけいると思ってんだよ」
「その人たちにしとけ。せっかくアンタの女癖を知りながらそれでも好意を持ってくれるなんてスバラシイ人たちなんだから」
「いや、あれは違うだろ。俺に勝手な幻想抱いてるかなんか流行のブランド物みたいに思ってるか、もしくは財布代わりだろ」
「そこまでわかっててなんでとっかえひっかえやめないのか不思議。アンタ頭おかしいんじゃない?」
「俺が付き合う気ないって言ってんのに寄ってくる女どもが尽きねえからだよ。わかってんだろが」
「……ま、仕方ないか。とりあえずガンバレ」
そう言ってレンが来るまで読んでいた本に視線を戻す。初めて買った作家なのだが、結構面白い。と、頭にコツンと何かがぶつけられた。
「……何。今本読んでるんだけど」
「コレ。やるよ」
渡されたのは、ちょっと大き目の包みだった。
「何これ。どういうつもり」
「日頃のカンシャの気持ちを込めて」
「アンタに感謝とか言う謙虚な心があったとは驚き。ていうかなんで今日なの」
「なんか外国では男から送るものだったような」
「変な誤解招きそうだけどね。ま、ありがたく貰っとく。でも何にも用意してないけど」
「別に気にすんな。なんとなくやりたくなっただけだから」
「じゃあホワイトデーにでもなんか返すべき?」
「いつでもいい。つーか返されると堂々巡りになるから返すな」
「そういうわけにもいかないんだけどね。気にするじゃん」
「だから気にすんなって。……いいから早く開けろよ」
「はいはい」
急かされて、開いた包みの中身は、綺麗なワイングラスだった。
「……しかもペアかよ」
「今度家行ったらそれでなんか飲ませろ」
「うちワイン無いけど」
「俺が持ってく」
「ていうかなんでワイングラス」
「俺が飲みたいから」
「この我侭大王が」
「いいだろ別に。金出すの俺なんだから」
はあ、とひとつ溜息をついて、ワイングラスを包みなおした。
「あ、今日行っていい?」
「駄目っていってもアンタ来るでしょどうせ」
「お前が来てくれてもいいけど」
「誰が行くか。夜ご飯作ってくれるならOK」
「よっしゃ、交渉成立。材料は持ってくからな」
「ハイハイハイ。わかりましたよー」
「嫌そうにすんなよ。美味いもんつくってやっから」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題だよ」
言ったって理解できやしないので、もう一度溜息をついてまた読書に没頭した。
自分の行動が勘違いを生み出す元になっているとこいつは自覚できているのだろうか。
「丁度いい狭さだから落ち着く」というなんともふざけた理由で、毎度入り浸られるこっちの身にもなって欲しいものだ。
とりあえず余計な波風を立てないためにも今日一日こいつから離れておこうと心に決めながら、鞄に入れたワイングラスを思った。
+ + + + + +
バレンタイン。
とりあえず日本では女性から男性に愛を込めてチョコレートを贈る日。
最近ではお歳暮と大差無くなってはいるけれど、まぁ好きな人に告白するいいチャンスだったり、恋人同士のイベントだったりする。
「はよ」
「ああおはよ。……あれ、何その紙袋」
「今日何の日か覚えてるか?」
「今日……ああ、バレンチノ司教の殉教日」
「素直にバレンタインって言えよ」
「朝からチョコレート攻撃か。大変だね」
「俺の科白はスルーかコラ。……ったく俺甘いもんそんなに好きじゃないってのに」
「こういう機会でもないと話し掛けられない女の子はいるんじゃない、きっと。迷惑な話ではあるけど」
「断っても押し付けるんだもんな。……ホント迷惑もいいところだぜ」
そう言うレンの手には大きな紙袋。中にはカラフルな包装の小包。女の子たちの気持ちの詰まったチョコレートやらクッキーやらだ。
「毎年処理どうしてるわけ?」
「一応食うよ。賞味期限とかやばそうな手作りものは流石に捨てることもあるけど」
「渡した女の子がそれ知ったらショックで寝込むんじゃないの」
「仕方ねえだろ。あんな量一人で食えるか。つーか食ってやろうとするだけマシだと思ってもらいたいね」
「そりゃオツカレサマ。そして今年も頑張れ」
「くっそ、他人事だと思って軽く言いやがって……。つか彼女いんのになんで渡してくるんだよ。女除けの意味ねぇだろ」
女除けに適当に彼女作ってるアンタは相当酷い奴だよね、と思いながらも口には出さない。確かに彼女が居たほうが寄ってくる女は減るのだ。
……まぁ、とっかえひっかえするせいで、そういうのを気にしない女たちが寄ってくるようになってしまっているのだが。
「彼女からも貰うんでしょ? また拗れるんじゃない?」
「あーいや、昨日別れた。ほら、俺時々お前ん家行くだろ。それたまたま見たらしくて、お前と二股かけてるんじゃないかとか言い出してよ。違うって言ってんのに、だったらお前ん家行くの止めろとか言い出したから、振った」
「やめれば? ていうか彼女もちで別の女の家に行く方がおかしいんでしょ。普通しないよ」
「なんで止めなきゃいけないんだよ。別にやましいことしてるわけでもねえのに」
「やましいことしててもしてなくても、家にあがるってのは誤解を招くんだよ。二股とかアンタならやりかねないし」
「何気にヒデェなお前……。いっそお前を恋人だー、とか言ったほうが早いんじゃねえか?なんか大概の女は俺とお前が付き合ってると勘違いしてるみたいだし」
「お断り。アンタを恋人にするなんて正気の沙汰じゃないし。ていうか恋愛対象に見れないっての。どれだけアンタが女をとっかえひっかえするの見たと思ってんの」
「失礼な。俺の恋人になりたいって奴がどんだけいると思ってんだよ」
「その人たちにしとけ。せっかくアンタの女癖を知りながらそれでも好意を持ってくれるなんてスバラシイ人たちなんだから」
「いや、あれは違うだろ。俺に勝手な幻想抱いてるかなんか流行のブランド物みたいに思ってるか、もしくは財布代わりだろ」
「そこまでわかっててなんでとっかえひっかえやめないのか不思議。アンタ頭おかしいんじゃない?」
「俺が付き合う気ないって言ってんのに寄ってくる女どもが尽きねえからだよ。わかってんだろが」
「……ま、仕方ないか。とりあえずガンバレ」
そう言ってレンが来るまで読んでいた本に視線を戻す。初めて買った作家なのだが、結構面白い。と、頭にコツンと何かがぶつけられた。
「……何。今本読んでるんだけど」
「コレ。やるよ」
渡されたのは、ちょっと大き目の包みだった。
「何これ。どういうつもり」
「日頃のカンシャの気持ちを込めて」
「アンタに感謝とか言う謙虚な心があったとは驚き。ていうかなんで今日なの」
「なんか外国では男から送るものだったような」
「変な誤解招きそうだけどね。ま、ありがたく貰っとく。でも何にも用意してないけど」
「別に気にすんな。なんとなくやりたくなっただけだから」
「じゃあホワイトデーにでもなんか返すべき?」
「いつでもいい。つーか返されると堂々巡りになるから返すな」
「そういうわけにもいかないんだけどね。気にするじゃん」
「だから気にすんなって。……いいから早く開けろよ」
「はいはい」
急かされて、開いた包みの中身は、綺麗なワイングラスだった。
「……しかもペアかよ」
「今度家行ったらそれでなんか飲ませろ」
「うちワイン無いけど」
「俺が持ってく」
「ていうかなんでワイングラス」
「俺が飲みたいから」
「この我侭大王が」
「いいだろ別に。金出すの俺なんだから」
はあ、とひとつ溜息をついて、ワイングラスを包みなおした。
「あ、今日行っていい?」
「駄目っていってもアンタ来るでしょどうせ」
「お前が来てくれてもいいけど」
「誰が行くか。夜ご飯作ってくれるならOK」
「よっしゃ、交渉成立。材料は持ってくからな」
「ハイハイハイ。わかりましたよー」
「嫌そうにすんなよ。美味いもんつくってやっから」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題だよ」
言ったって理解できやしないので、もう一度溜息をついてまた読書に没頭した。
自分の行動が勘違いを生み出す元になっているとこいつは自覚できているのだろうか。
「丁度いい狭さだから落ち着く」というなんともふざけた理由で、毎度入り浸られるこっちの身にもなって欲しいものだ。
とりあえず余計な波風を立てないためにも今日一日こいつから離れておこうと心に決めながら、鞄に入れたワイングラスを思った。
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