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突然見知らぬ相手に呪われた結果、処女を奪われました
しおりを挟む「……あれ?」
鏡を見て、エルは首を傾げた。
喉元に見慣れない黒い痣のようなものがある。
さらに鏡に近づいて、それをじっと見て――ハッと気が付いた。
「もしかして……呪い?」
体に突然現れる変化は、呪いか祝福と相場が決まっている。痣の色合い的に呪いだろうと思われた。
そうとわかればこうしてはいられない。
エルは慌てて支度を済ませ、『解析所』に向かったのだった。
この世界には、呪いと祝福がありふれている。
負の感情は容易く呪いに変じるし、誰かを思うあたたかな気持ちは祝福に姿を変える。
さらには人間以外の不思議の力を使う種族もいるものだから、彼らによる呪いも祝福も人間より強いものとなる。
生業にする者もいるくらい、それらは生活に馴染んでいた。だからこそ、エルもすぐさま『解析所』に駆け込むという選択ができた。
『解析所』とは呪いや祝福について、どのような効果があるものなのか解析してくれるところである。
呪いや祝福が発生したこと自体は、体に起こる変化――痣が浮かんだり体の一部の色が変わったり――でわかるのだが、その仔細までは只人にはわからない。よってそれを解析する職業が生まれた。
これには主に人間外の種族がついている。人間によく似た姿だが長命で不思議の力を操る『魔法使い』や、あるいは妖精や精霊といった、不思議の力に長けた種族である。
エルの家から一番近い『解析所』には『魔法使い』がいた。
「うーん……確かに呪いの証だな。これはいつ?」
「今朝気付きました。少なくとも、昨日寝る前にはなかったはずです」
「となると呪われたてほやほやってわけか。通常料金で痕跡まで辿れるかもしれねぇな」
「本当ですか!?」
『解析所』の利用はもちろんタダではない。それなりのお値段がする。そして呪いや祝福の原因まで探るとなると追加料金がかかるのが普通だった。エルはそれほど裕福ではないので、解析だけをお願いするつもりだったが、その料金内で原因解明までできるというなら有難い話だ。否やはない。
「まああんまり期待しないでくれよ。相手がどういうつもりかによっても難易度が変わるんでな」
「それはわかってます」
「じゃ、失礼して、と」
魔法使いの指先が痣に触れる。少しのくすぐったさがエルを襲ったが、体を動かさないように耐える。魔法使いの指が痣をなぞるようにゆっくりと動くのに、反応しないのはなかなか骨が折れた。
「……うーん……」
「……な、何か……?」
気のせいだろうか? 魔法使いの表情が深刻に、しかしなんとも言い難いものになっていっている気がする。
しばらくして、魔法使いは指を離した。その指先からちりりと赤い光が舞って、ひとりでに宙に文字を描き出す。
『魔法使い』固有の言語なのだろう、エルにはさっぱり読み取れなかったが、魔法使いはますます渋面になった。
魔法使いが指を一振りする。文字が吹き飛ばされるように消えてなくなって、ようやく魔法使いはエルを見た。
「えーと、まず、だな。呪いの内容についてだが」
「は、はい」
「先に言っておくが、これは厳然たる事実であって、嫌がらせとかで口にするんじゃねぇから、そこのところよろしく頼む」
とんでもなく不穏な前置きを経て、魔法使いは告げた。エルにかけられた呪いの正体を。
「あんたにかけられてるのは『一週間以内に性交しないと死ぬ呪い』だ」
「…………は?」
「『一週間以内に性交しないと死ぬ呪い』。異性限定。しかもただヤるだけじゃなくて正真正銘子づくりしないとダメっぽいな」
「………………は?」
「ちなみに感染型。『異性』も誰でもいいわけじゃなくて『呪い』に打ち勝てるヤツじゃないとダメってことだ」
「…………」
「おーい、そろそろ現実を見ろ」
魔法使いがエルの目の前でひらひらと手を振るのを視認しながら、エルはそれに反応できなかった。
だって、あまりにも呪いが予想外のものすぎたのだ。
(一週間? 以内に? せ、性交……しないと死ぬ……?!)
性交、の意味を考えてしまって、かっと頬が熱くなる。……そう、エルはまだそういったことをしたことがなかった。
それを察されてしまったのだろうか、魔法使いの目がとても同情的になる。
「ちょっと現実を飲み込めたようだから話を続けるが、感染型については知ってるか?」
「名前は知ってますが、詳しくは……」
「ま、普通そうだわな。感染型は珍しいし。呪いは大抵固有型だからな……。感染型ってのは、その名の通り、感染する呪いだ。解析した感じ、あんたと――その、致したやつに呪いがうつる。ただ、呪いの強さに打ち勝てるやつなら感染時に呪いが破壊できるから、そういうやつを選んだ方がいいだろうな」
「選ぶ、って……」
「あんただって同じ呪いを他人に振りまきたくないだろ?」
つまり、人間の男以外から選べと言われているのだ、これは。……性交の、相手を。
「――というか、そもそもの呪ってきた相手があんたをご所望らしいってのが一番問題なんだが」
「は?」
「痕跡を辿ったらご丁寧に招待状がついてた。聞いて絶望するなよ。……神族だ」
絶望の前に眩暈がした。思わず額に手を当てたエルに、魔法使いは容赦なく続ける。
「神族の呪いだから、他の種族だと呪いに負ける可能性が高い。まあ要は――選択の余地なしってやつだな」
今度こそ魔法使いの瞳に紛れもない同情の光を読み取って、エルはいろいろなことを諦めた。諦めざるをえなかった。
だから、必要なことだけを訪ねた。
「その神族の名前と――『招待状』について、教えてもらえますか?」
◆ ◆ ◆
親族の名前は口に出せない、と魔法使いは言った。許可がないと名前を呼ぶことのできない人外は多い。しかしエルも存在を知ってはいるだろう神族だという。
そして魔法使い曰く、『招待状』はエルをその神族の元へと連れて行く通行許可証兼転移魔法のようなものらしい。
いろいろと心の準備もいるだろうから何日かしてから行くかと訊ねられたけれど、エルは首を横に振った。行きつく先が同じならば、悶々と過ごすより突撃してしまった方がエルの性分に合っている。
そうしてエルは、『青の塔』と呼ばれる場所へと来ていた。
『青の塔』は街を守護する神族が棲む塔である。ここにいる神族ならば、確かに『居る』ということだけは知っていた。
塔は、街の中にはないが、街から見えるところに建っている。しかし、街の住人たちは近づかない。万が一神族の心証を損ねたら、街への加護がなくなってしまうかもしれないからだ。かくいうエルも、近づこうと思ったことすらなかった。
(どうして、こんなことに……?)
ここに棲まう神族にあったことすらないはずなのに、何故呪われてしまったのだろうか。――それもあんな内容で。
入口らしき場所の前で思い悩んでいると、突然、その扉が開いた。
「なかなか入ってこないから私から来てしまったよ、エル」
とても親しげに名を呼ばれ、エルは焦る。実はどこかで出会っていたのだろうか――そう思って見上げた先の顔に、言葉を失った。
芸術品があった。どんな画家でも描ききれないだろうと思われる美の結晶がそこにあった。
腰まである青みがかった黒の髪はまるで夜空のようで、金の瞳も夜空に浮かぶ月のように美しい。
男くささのない中性的な美貌は誰もが見惚れるだろうものだった。浮かべられた笑みが人懐っこさを出しているが、どことなく高貴なるものを思わせる雰囲気があった。肌で神族だと理解する。
「あ、あなたが――私に呪いをかけた?」
「セスと呼んで。君に呼ばれる日を、ずっと待っていたんだ」
さあ行こう、とセスはエルの手をとって、塔の中へと誘う。
質問に答えられなかったことに戸惑いながらも、あまりにも当然のようなその行動に抵抗できずについていってしまうエル。
そして案内されたのは――寝室だった。かっとエルの頬に朱がはしる。
「あな、あなた――やっぱり呪いの内容を――」
「セス、だよ」
名前を呼ばないと質問にも答えない、という雰囲気がひしひしとして、エルは一旦気持ちを落ち着ける努力をし、改めて口を開いた。
「セスが、わたしに呪いをかけたのよね?」
「うん、そうだよ。呪いたいと思って呪ったというよりは、思いが強すぎて呪いになった、みたいな感じだけど」
「その――呪いの内容もわかってるのよね?」
「積極的に呪おうとしたわけじゃなくても呪い主だからね」
にこにこ、にこにこ。質問の間も、とてもとても機嫌がよさそうにセスは笑っている。
呪いの内容とかけ離れたセスの態度に、エルは戸惑いを隠せなかった。
「なんでわたしに呪いをかけたの……?」
「だから、呪おうと思って呪ったんじゃなくて、思いが強すぎて、」
「だって――わたしはあなたを知らないわ。それなのに――」
言いかけたエルは、突然肩を掴まれて驚く。
「セス……?」
「覚えて、ない……?」
冴え冴えとした美貌がエルを見下ろしていた。エルは初めて、セスに畏怖を覚えた。
「覚えてないの、エル」
「覚えていないも何も、会ったことなんて――」
最後まで言わせてはもらえなかった。セスが乱暴にエルの腕を引き、大きな寝台へと放り投げたからだ。
「っあ……!」
「……うん、うん。そうか。覚えてないのか。そうか、人の子はそういうものだって言われてた」
ぶつぶつと呟きながら、寝台に倒れたエルの上にセスが覆いかぶさってくる。
「セス……!?」
「覚えていないのなら仕方ない。優しくしてあげようと思ったけどやめた。――刻み込んであげる」
言葉と共に、エルの両手両足にずしりとした重みが現れた。首を回して確認すると、手枷と足枷がついている。
動揺するエルをよそに、セスはエルの衣服を一気に引き裂いた。
「ひッ――」
「怖い? でもきみが悪いんだ。私を覚えていないから。人の子って薄情だよね」
引き裂いた衣服を乱雑に引き抜かれて、エルは下着だけの状態にされる。そんな姿を異性に晒したことなんてないエルは、もう何が起こっているのかわからなかった。
胸を隠していた下着をずり上げられて、その頂きをつん、と弾かれる。つままれて、くるくるともてあそばれた。自由にならない脚の間に割り込まれた膝が、秘部をぐりぐりと刺激する。いいようもない感覚がエルの中をはしった。
「あ、な、なに、これっ……」
「『呪い』の効果はすごいな。ちょっと触っただけで感じちゃった?」
くすくすとセスが笑う。エルは恥ずかしさに気を失いたくなった。
エルだって、経験はなくとも知識はある。その知識の中で、こんなふうにすぐさま反応するのがはしたないことは知っていた。わかっていた。けれど体が思うようにならない。感覚を堪えようとすればするほど、快感を拾おうと感覚が肥大するようだった。
「ひゃっ……」
かぷ、と音を立てて胸を食まれた。ぬるりとした舌先が胸の蕾をなぶる。もう片方の胸はぐにぐにとやわく揉まれていて、それもまた種類の違う刺激としてエルを苛んだ。
「やっ、やぁ……な、舐めないで――噛まないで!」
歯先で軽く挟まれて、思わずエルは叫んでいた。恐ろしさもあったが、それ以上に気持ちよさが怖かった。
「うん? エルは胸を弄られるのはきらい? じゃあこっちにしようか」
セスの体が離れて、エルはほっと息を吐いた――それは間違いだったと、すぐに思い知らされたけれど。
秘部を隠していた下着がずり下ろされる。外気がそこに触れて、エルは身震いした。
「いやっ……なんで……ッ」
「なんでって、ここを使わないと『性交』したことにはならないだろう? 大丈夫、ちゃんと慣らすから」
「慣らすって――ッ」
ちゅぷ、と音を立ててセスの指がエルの中へと入っていく。その未知の感覚に腰が逃げようとするのを、セスがもう片方の手で押しとどめた。
「だめだよ、逃げちゃ。痛い思いをするのはエルなんだから」
つぷつぷと指は順調に入っていく。根本まで入ったところで、セスは満足そうに微笑んだ。
「がまんできたね。いい子いい子」
腰を抑えていた手を離して、エルの頭を優しく撫でる。行われていることとのあまりのギャップに、エルは混乱で涙が滲んだ。
「うん? きつい? でもまだ一本だから、もうちょっとがんばってね」
それがまるで死刑宣告のように聞こえる。エルはいやいやと首を振った。なんとか逃げようとするが、枷が邪魔になって思うように動けない。
「ほら、暴れないの。気持ちいいことだけに集中して?」
ぐるりと、セスの指がエルの中をかきまぜた。びくりと反応したエルに気をよくしたように、セスはもう一度よしよしとエルを撫でた。
ずるりと指が半ばまで引き抜かれる。かと思うと二本に増えて、そのままエルの中へと侵入した。
「あ……ぅッ」
「いきなり二本はちょっときつかったかな。ごめんね。でもこっちの方が、ほら――ばらばらに動かせるから気持ちいいでしょう?」
言葉通り、エルの中に入った二本の指が、ばらばらの動きで膣壁を刺激する。それに翻弄されれうがままになっていると、セスの指先がある一点をひっかき、エルはたまらず声をあげた。
「ああっ!」
「いいところ、見つかったね。素直に反応できてえらいえらい」
「んっ、あ、あ―ッ、ああっ」
何度も同じところをひっかかれて、エルはもう声を抑えられなかった。いつの間にか指は三本に増えている。
体の奥が熱く、腰がふわふわとする。波のようなものが何度も迫ってくるのを、エルは必死に耐えた。
「そろそろこっちもいいかな」
空いていたセスの片手が秘部に伸びる。何が起こるのかと熱に浮かされたような頭で考えようとするけれど、ぐちゃぐちゃと掻きまわす指がそれを許さない。
と、セスの指は陰核をつまみ、ぐにゅりと押しつぶした。
「――ッ――ンん!」
雷に打たれたのかと思った。これまで以上の刺激に、もはや声すら出せずにエルは悶えた。ぐりぐりと爪の先でつぶすようにされて、もう耐えられなかった。
勝手に足がぴんと伸ばされて、背がそった。頭が真っ白になる。気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。気持ちよさで死んでしまうのではないかと本気で思った。
……一瞬、エルは自失していたようだった。いつのまにか中から指が抜かれ、代わりというように生暖かいもの――セスの舌がそこを犯していることをぼんやりと知覚する。
(わたし……イッた、の……?)
『イく』という現象については知っていた。けれど、想像していたのと、実際に経験したものは全く違う。――そんなことを考える間にもセスの愛撫は続く。一度高まった快感の波がまたエルを攫おうとする。
「も、やだ、だめ、むりぃっ!」
「何が無理なの?」
「おかしくなっちゃう……!」
「おかしくなっていいよ。おかしくなって、もっと乱れた姿を私に見せて?」
「やだ、やだぁ……」
「……まあでも、私ももう限界だし。エルも一回イッたし、もういいかな」
セスが言葉を紡ぐたび秘部に唇が触れるのにも反応してしまう体が情けなくて、エルは涙を堪えられなかった。
(こんな、初めてで、こんなの――『淫乱』だ)
「泣かないで、エル。大丈夫。もっと気持ちよくさせてあげるから」
そうしてセスが自分のモノを取り出す。エルは初めて見るそれに慄いた。
比較対象は知らない。わからない。それでも、それが己の中に入るのだと思うと無理だ、と思った。
「そ、そんなの入らない……!」
「大丈夫、入るよ。――『呪い』、解きたいでしょう?」
呪いはもちろん解きたい。死にたくはない。だけど、あんなもので貫かれてしまっては、その前に死んでしまうのではないだろうか。
「こっちは邪魔だから消しておくね」
言葉と共に、足にあった重さが消える。逃げ出す絶好のチャンスだったが、エルにはもうその気力は残っていなかった。
「よっ、と……」
両足をセスが掴んで、エルの体の前に折りたたむ。まるでセスに秘部を見せつけるような格好に、エルは気を失えるのなら失ってしまいたかった。
「じゃ、入れるよ――力、抜いてね」
入り口にあてられていた熱いものが、ずぷりと中に進んできた。指とは比べ物にならない圧迫感に勝手に腰が逃げようとするが、しっかりとセスに捕まえられてそれはかなわなかった。
ず、ずと少しずつそれは中へと進んでいく。
「あ、んン……!」
「きついな……ほら、エル、息を吐いて。力を抜いて」
苦しさから、セスの言う通りに息を吐く。少しずつ、少しずつ、奥へ奥へと入っていく。
「セス、セス、くるしい……!」
「私も苦しい。早く全部君の中に入ってしまいたいのに、もどかしい」
と、ぶちり、と何かが切れるような感覚がした。それが処女の証が失われたということなのだと、誰に言われずとも理解した。ずずず、とさらにセスのモノが奥へと押し入ってくる。
「も、無理……入んない……!」
焼けた鉄杭を押し込まれているような心地だった。圧迫感に喘ぐエルに、セスは優しく微笑んで――信じられないことを言う。
「あともうちょっとだから我慢して。――ほ、らっ!」
ずっ、と一際強くセスが腰を押し出して――セスのモノはすべてエルの中へとおさまった。
「っはー……」
さすがのセスも深く溜息をつく。しかし、すぐににこりと「じゃあ、動くからね」と微笑んだ。
笑顔と言っていることのギャップに放心したのもつかの間、エルはより強い責めに翻弄されることとなった。
セスとエルの間で、ずちゅ、ずちゅっと音が響く。セスのモノが抜き差しされるのに合わせたそれが、あまりにも淫猥に聞こえて耳を塞ぎたくなるが、エルの手は未だ自由にならない。
「あっ、あっ、あアッ、あっ」
「いい、いいよエル。気持ちいい――ずっと、こうしたかった」
「あッ、やだ、あ、あ、おかし、おかしくなっちゃう、ッ……も、もう抜いて、ぇ」
「魔法使いに聞いただろう? ちゃんと『子づくり』しないと『呪い』は解けないんだ」
「ちゃ、ちゃんと……?」
「わかってなかった? 中出ししないといけないってこと、だよ……ッ」
「え、あ、や、やぁッ」
抽挿がどんどん早くなる。また快感の波が高まってくる。
「今度は一緒にイこうね……ッ」
「あっ、あっああ――い、いく、イッちゃう!」
「うん、私も、イく……!」
ずん、と一際奥を貫かれた一瞬の後、どくどくと熱いものが注がれる感覚がした。
今度は気をやらなかったエルをぎゅっと抱きしめて、セスはぐいぐいと腰を密着させる。
「ほら……私のがエルの中に出てる。わかる?」
「そんな、の……聞かないで……」
「ふふ、エルは恥ずかしがり屋さんだなぁ。かわいい」
そういう問題じゃない、という力も、今のエルにはなかった。全身を気怠さが覆っている。枷がなくても動けないだろうと思われた。
「……ほら、『呪い』の証は消えたよ」
「え……?」
ちゅ、とセスがエルの喉元に口づける。今朝、呪いの痣を確認した場所だ。
「見えないよね。あとでゆっくり見せてあげる」
「あと、で……?」
「ごめんね、私は一回じゃ物足りないんだ」
言葉とともにエルの中のセスのモノがまた質量を大きくするのを感じて、エルは今度こそ気を失った。
◆ ◆ ◆
気を失った後も散々弄ばれ(推定)、意識を取り戻してからもさらに続きを強要され、エルは完全に疲労困憊だった。もう指の一本たりとも動かしたくなかった。
「ごめんね、やりすぎちゃった」
美しい顔でかわいく謝るセスをジト目で見遣る。
「ごめんで済むレベルじゃないと思うの……」
「だって、やっとエルが手に入ったから、嬉しくて」
「……そもそも、なんでわたしだったの?」
「うん、覚えてないならそれは当然の疑問だよね」
今度のセスは落ち着いて話をできそうだった。……あまり考えたくないが、エルを犯したので気が済んだのかもしれなかった。
「君と私はね、前世に会ってるんだ」
「……ぜんせ……」
「そう、前世。恋人同士だった。だけど君は病で早くに亡くなってしまった。だけど死の間際、君は言ってくれた。『来世でもまた会いましょう』って」
「らいせ……」
「その彼女が生まれ変わったのがエル、君なんだ。ずっと待っていたんだよ。生まれたばかりの頃にこっそり見に行ってしまったけれど、それ以外は君から来てくれるのを待とうと思ってたんだ。……でも、君に婚姻の話が上がっているのを知ってしまって」
「婚姻……?」
「君が他の誰かのものになるなんて耐えきれない。そう思ったら、呪いになってしまって」
制御できなくてごめんね、でも思い出してくれないエルも悪いんだよ、とセスは唇を尖らせた。
「待って、婚姻って……近所のおばさんが『そろそろあんたも伴侶を選ぶ時期だねぇ。うちの息子なんてどうだい?』とか言ったアレのこと……?!」
エルはただの平民で、婚約者なんてものも今のところいない。記憶を探って出てきたのはそれくらいだったのだが、なんとセスは頷いた。
「あれはただの冗談で……軽口みたいなもので……」
「そうだったの?」
「世間話の一環だったのに……」
それを真に受けてこんなことをされたのでは、笑い話にもならない。
「人間の会話は難しいな。……でも、人間って前世のことを覚えていられないんだね。生まれたばかりの君にも『お嫁さんに来てね』って言ったらこたえてくれたのに、それも忘れてるし」
「覚えてたら逆にこわいでしょう、そんなの……」
エルは呆れた。呆れるしかなかった。
(神族の執着って、こわいのね……)
前世の自分とやらはその危険性に思い至らなかったのだろうか。案外、あの顔でしくしくと悲しまれたからつい口先で慰めてしまっただけなんじゃないかと思う。
ともあれ、エルはもうセスに出会ってしまった。
逃げ出すすべはないんだろうな、と思って、それも仕方ないかと思う自分を認める。エルは諦めは早い方だ。家族が流行り病で亡くなった時も、そういうものだとして受け入れて生きてきた。
(考えようによっては、最上級の恋人? ができたわけだし……)
種族に貴賤はないということになっているが、神族は特別だ。土地に加護を与えられるほどの強大な力を持つからである。エルの住まう街を加護する神族がセスということは、あの街は安泰に違いない。安心して住んでいける。
「何を考えているの?」
「……これからのことを」
「これからのエルは私に愛でられて生きていくんだよ。それだけ考えていればいいんだ」
もはや同意云々をすっとばして、セスの中では生涯寄り添う仲となっているらしい。
それを嫌と感じない時点で、エルの答えは決まっていた。
こんな出会いだったけれど。こんな始まりだったけれど。
それもまたよい思い出になる日が来る――そんな予感がした。
応援ありがとうございます!
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