4 / 7
日帰り異世界と私と魔法師団長 何でもない日
しおりを挟む青空の映る水溜りを介して繋がる異世界で、異世界人特権で与えられた部屋でゴロゴロするのもいつものことだ。
そうして、そこに薄っぺらい笑みをはりつけた魔法師団長がやってくるのも、認めたくないもののいつものことではある。
「異世界人サマ、何でもない日おめでとう、ってことで、ハイこれ」
「……もうどこからつっこめばいいかもわからないんだけど、何これ」
「見てわかるとおり、きっちりラッピングしたプレゼントだけど?」
魔法師団長が渡してきた代物は、確かに申告通り、きっちり、お手本のようにラッピングされた正方形の箱だった。包み紙でラッピングされ、リボンもついている。大きさは手のひらに乗るくらい。
「こんなものをもらういわれがないんだけど」
「言ったろ? 何でもない日おめでとうって」
「その心は?」
「異世界人サマの誕生日は祝えないので、とりあえずお祝いしようと思って」
「…………」
こっちの世界に来ている間、元の世界では時間が進まない。あちらの世界の暦とこちらの世界の暦はどうあがいても沿わない。そもそも同じ時に来ている異世界人だって、来る前のあちらの日付はバラバラだという。つまり、何をどうやってもあちらの世界における『誕生日』はこちらでは祝えない。
それはそうとして、だから『とりあえず祝おう』という行動に出た真意がさっぱりわからないけれど、このプレゼントの大きさ、軽さ、嫌な予感がする。
「返す」
「開けもせずにそれかー。異世界人サマは慎重だな」
「あなたから意図の不明なプレゼントを贈られて、素直に受け取ると思ったの?」
「もちろん、思わなかったぜ?」
「……じゃあなんで準備したの」
「そりゃ、俺の本気の欠片でも感じてもらえたら儲けものと思って」
そう笑う魔法師団長は、私が箱の中身を薄々察したことをわかっているのだろう。
突き返されたプレゼントを片手で弄びながら、うそぶく。
「俺はいつでも本気だし、いつでもあんたを迎え入れる準備は整ってるってこと――改めて伝えておこうかなと」
「……どこかから早く異世界人を取り込めってせっつかれでもした?」
「それは年がら年中耳タコになるくらいには言われてるけど、これがそういうんじゃないっての、あんたわかって言ってるだろ?」
「…………用が済んだなら、帰って」
意図して顔を見ずに言うと、魔法師団長が肩をすくめる気配がした。
「ハイハイ、引き際はわきまえてますよ。大事なだいじな異世界人サマのご機嫌を損ねないうちに帰りますって」
言いながら、机の上にさっきの『プレゼント』を置くのを見て、私が口を開くより先に――。
「じゃ、またな、異世界人サマ。それは煮るなり焼くなり捨てるなり放置するなりしてくれていいぜ」
そんな言葉を残して扉の向こうへ消えて行った。
「…………」
クッションをわし掴んで、扉に投げつける。意味のない行為、八つ当たりだ。
机の上の『プレゼント』を睨みつける。そのまま視線に力を込めて、魔法でどうにかすることなんて簡単だ。簡単なのに。
結局私は、何もせずにそれから視線を外した。
「……ホントあの男、性質悪い……」
せめてもと悪態をついたけれど、自分でもわかるほどに声音は弱弱しかった。
わかられている。着実に、距離を縮められている。私が嫌になって元の世界に帰ろうとしないギリギリを見計らって、あの男は近づいてきている。
こちらとあちらの常識は違う。だから、あの箱の中身だって、意味などないのかもしれない――とは思えなかった。あの男は、魔法師団長は、確実な意味を込めて、あれを贈ってきたのだ。
もう一度机の上の小さな箱を睨みつけた。その中にあるだろう、きっと私の指にピッタリ嵌る指輪を思って、私は大きく溜息をついた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
40歳独身で侍女をやっています。退職回避のためにお見合いをすることにしたら、なぜか王宮の色男と結婚することになりました。
石河 翠
恋愛
王宮で侍女を勤める主人公。貧乏貴族の長女である彼女は、妹たちのデビュタントと持参金を稼ぐことに必死ですっかりいきおくれてしまった。
しかも以前の恋人に手酷く捨てられてから、男性不信ぎみに。おひとりさまを満喫するため、仕事に生きると決意していたものの、なんと41歳の誕生日を迎えるまでに結婚できなければ、城勤めの資格を失うと勧告されてしまう。
もはや契約結婚をするしかないと腹をくくった主人公だが、お見合い斡旋所が回してくれる男性の釣書はハズレればかり。そんな彼女に酒場の顔見知りであるイケメンが声をかけてきて……。
かつての恋愛のせいで臆病になってしまった女性と、遊び人に見えて実は一途な男性の恋物語。
この作品は、小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
竜人族の婿様は、今日も私を抱いてくれない
西尾六朗
恋愛
褐色の肌に白い角、銀の尻尾を持つ美貌の竜人マクマトは一族の若様だ。彼と結婚した公女フレイアは、新婚だというのに一緒にベッドにすら入ってくれないことに不安を抱いていた。「やっぱり他種族間の結婚は難しいのかしら…」今日も一人悶々とするが、落ち込んでばかりもいられない。ちゃんと夫婦なりたいと訴えると、原因は…「角」? 竜人と人間の文化の違いを楽しむ異種婚姻譚。 (※少量ですが夜の営みの話題を含んでいるます。過激な描写はありません)
【※他小説サイトでも同タイトルで公開中です】
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる