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エピローグ
そして日常は続く
しおりを挟む「いろいろ、ありがとうございました。差し引きプラスということで感謝してなくもないです」
「最後まで憎まれ口叩く妹ちゃんが好きだよ」
「最後まで薄っぺらい『好き』を振りまくあなたが嫌いですけど、安心もしてます」
「ちょっとデレた? デレちゃった?」
「そこでつつくからあなたの相手は嫌なんですよ」
「まったく、かーわいーなー。……でも妹ちゃん、『残る』んだねぇ。一応の収束を見せたわけだし、元の学校に戻るんだと思ってた」
「……最初は、そのつもりだったんですけどね。結局私も、甘ちゃんだってことです」
「しがらみのない好意に変化する兆しがあるなら、切り捨てられないのは仕方ないんじゃない? 妹ちゃんは聖人君子でも孤独を好むのでもなんでもない、普通のオンナノコだからねぇ」
「ええ、俗で凡で、取り立てるところもない、ただのヒトです」
「その辺、幼馴染くんたちもその関係者も、ちょっと夢見てるとこあるよねぇ。ま、そもそも『一般人』に関わること自体稀みたいだし、そこで最初に会ったのが事件を経た妹ちゃんだしで、仕方ないところはあるとはいえ」
「その辺りは、こっちがそう見えるようにしていたのもありますから。好意を抱く相手からの過大評価に、少しでも応えたいと思うのは、普通でしょう?」
「そうだねー、普通だね。その『普通』を、これからも続けるつもりなんだ?」
「縁が続く限りは」
「つまり幼馴染くんたちその他の今後次第ってことかー。そういうところは、もう割り切っちゃってるんだねぇ」
「『世界の違う』人だってわかったときから、そのつもりでしたから」
「それで言ったら、今回ある意味過去のあれこれのとばっちり受けて巻き込まれたあの子はどうなの? 今後のオツキアイ的に」
「今は、まだなんとも。あちら次第ですね」
「妹ちゃん、人間関係の考え方、ドライだよねぇ」
「臆病なだけですよ」
「ま、妹ちゃんの人生だから好きにすればいいよ。――そういうわけで、そのうち俺はフェードアウトするけど、また何かあったら気軽に声かけてね?」
「見返りを用意できるかによりますが、まあ検討はします」
「やだなー、俺と妹ちゃんの仲なんだから、見返りとか考えなくていいのにー」
「その言葉に騙されるほどの仲のつもりはありませんので」
「ふふふ、だから妹ちゃんは好きだよ」
「あなたに贔屓されてる程度の認識はありますよ。兄さんたち込みで」
「自惚れないし、かといって過小評価しすぎることもないし、そういうバランスが心地いいんだよねぇ、キミたち兄妹は」
「ありがとうございます」
「ちゃんと褒め言葉だって受け止めて、お礼も言ってくれるから妹ちゃん好きだよ」
「そろそろ『好き』の安売りやめません?」
「数撃たないと伝わらないからなー。諦めてねっ☆」
「いい歳してウィンクとかしないでください、しかも無駄にキマってるのが腹立たしいです」
「辛辣ぅ。そこが好きだけどっ!」
「……そろそろ誰か探しに来そうなので行きますね」
「愛されてるねぇ、妹ちゃん。そこを肝に銘じて、あんまり無茶はしないようにね」
「今回が例外だっただけですよ」
「そうでもないと思うけどねぇ、妹ちゃんの性格的に。ま、いいや。面白楽しい山あり谷ありの毎日を送れるように祈ってるよ」
「あなたの祈りは『祈り(手を出さないとは言ってない)』って感じで実現可能性が高そうで複雑ですが、」
「妹ちゃんはちょっと俺を誤解してるよね、意識的に」
「まぁ、ありがとうございます。悪くない『日常』を送れるように努力はしますよ」
「……あ、『そのうち』って結局いついなくなるのか聞くの忘れた」
「――あっ、いたー!! よかったー! 無事だー!!」
「おはよう、ユズうるさい。無事だって何」
「あ、そうだおはよう! いやだっていつもの時間になっても教室来ないから心配で!」
「おはようございます。昨日の今日で何があるとは思えないとはいえ、向こうはこちらの予想を超えた馬鹿の場合もあると思い知らされたばかりなので、心配するくらいは許してください」
「おはようミスミ。それで雁首そろえてぞろぞろとやって来たわけ? ちょっと待つくらいできないの」
「……おはよう。それだけ心配だった、ってこと」
「おはようレンリ。だからって総出で探しに来るほど? せめて始業の鐘くらいまでは待ちなよ」
「おはよう。昨日の今日だから、ってことだよ。結局君、早々に家に戻っちゃったし、無事な姿をもう一度確認するまでは、ね」
「おはよう、カンナ。その顔、ろくに寝てなさそうだけど事後処理的なあれこれのせいなら休めばよかったのに」
「それは無理な相談かな」
「それに、探しに来たのは心配が高じて、ってだけじゃないんですよ」
「?」
「教室に、あの子が、来て」
「『会って改めて昨日のお礼を言いたい』って言ってたから、待ってもらってるんだ!」
「それを早く言え。っつーかあの子ひとり教室に置いてきたの? 馬鹿なの?」
「私たちと一緒にいる方が悪目立ちするでしょう? というか、私たちに対するのと扱い違いすぎませんか?」
「あー、そういやそうか。扱いについては日頃の行いに胸を当てて考えろ」
「度合いが違う、もんね」
「……。レンリ、なんか吹っ切れた?」
「? どういうこと? っていうか今のレンリの台詞どういう意味?」
「わかんないならそのままでいい。うん、ある意味癒しだわ、ユズ」
「よくわかんないけど褒められた?」
「それ多分ごまかされてるんですよ、ユズ」
「ユズは本当、人生楽しそうだよね」
「カンナはユズに厳しいよね。っていうかあんたらは大概ユズへの扱いがアレだよね」
「あなたには言われたくないです、さすがに」
「僕たち全員への扱いがアレな君には言われたくない」
「言うようになったな。……ま、いいことか」
平穏でも、平穏じゃなくても、平凡でも、平凡じゃなくても。
良くも悪くも、すべては『日常』の一言で片付くことで。
そうしてきっとこれからも続く、ただそれだけの話。
+ + + + + +
本編完結です。お付き合いありがとうございました。
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